心の中の悪徳裁判官──沈黙の証人が教えてくれた静けさ
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コラム
心の奥の法廷で、今日も裁判が始まっていた。
裁判官は大きなハンマーを打ち鳴らし、
次々に言葉を浴びせる。
「また失敗したな!」
「努力が足りない!」
「見ろ、あの人のここが駄目じゃないか!」
その声は鋭く、容赦なく、
傍聴席に座る者たちは静まり返る。
被告席に座らされているのは──わたし自身。
そして、ときには友人や同僚の姿さえも重なって見えた。
逃げ出したいのに、
ハンマーの音は頭の奥で響き続ける。
そのとき、ふと視線を感じた。
法廷の隅に、ひとりの証人が座っていた。
年老いた僧のようでもあり、
ただ静かに光をまとった存在のようでもある。
彼は何も言わない。
ただ、やさしい眼差しでこちらを見つめていた。
そして、不意に風に運ばれたように、
心の中に言葉が届いた。
──おのれの長を説くことなかれ。
他人の短を言うなかれ。
その声は大きくもなく、裁判官を遮るものでもなかった。
けれど不思議と、その瞬間から法廷の空気が変わった。
自分を弁護しようと声を張り上げる必要はない。
誰かを裁いて責め立てる必要もない。
ただ沈黙の証人が示すように、
静かに、ありのままに座っていればよかったのだ。
裁判官はまだ何かを叫んでいる。
けれど、その声はもう遠い。
代わりに聞こえてきたのは、
小さな深呼吸の音。
そして、胸の奥に広がる、静かな余白だった。
その余白の中で、わたしは初めて気づいた。
自分を飾らなくてもいいし、
誰かを裁かなくてもいい。
ただ生きている、その事実だけで十分なのだと。
法廷の幕は、静かに下りていった。