シリバス -栄光の残像-

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コラム
人生最高の1分半が
そこにはあった

天高く うねりを上げる
世界最高難易度シリバス

村上茉愛だけが許された大技

緩急を入れてからの
屈伸の2回宙返り

完璧な着地

演技は終了した

会場のだれもが
歓声を上げることができない

それほどに空気が張り詰めている

ふと時間が動き出す
大きな歓声と割れんばかりの拍手が
舞台の上立ち尽くす村上茉愛を包んだ

福岡で行われた世界選手権

五輪メダリスト村上茉愛は
床決勝の舞台に立っていた

歓声はまったく収まる気配がない

村上茉愛に笑顔はない

涙をこらえきれず
うつむきながら舞台を後にする

振り返り舞台に一礼しながら
ゆっくりと右手を上げて応援席に手を振る

まだ胸の鼓動が収まらない
一生懸命に自分の表情を探してる

まだ涙は止まらない
万感の思いがこみ上げてくる

深く深呼吸を繰り返す

ようやく目を上げ観客席を見渡す

いつもの無邪気な笑顔が戻ってきた

思い出したように
今度は大きく両腕を広げて手を振る

小さくガッツポーズ

ここに来るまでに
どれだけの時間が掛ったのだろう

どれだけのつらい思いをしてきたのだろう

観客席から見守る母は泣きながら
何度もカメラにお辞儀を繰り返す

苦楽を共に歩んできた寺本明日香も泣いている
村上茉愛の去った床をいつまでも見つめている

インタビューが始まる

ありがとうございます。

実はオリンピックの疲労で痛みが再発してしまって
まったく練習ができていなくて
ものすごく不安で・・

みなさんの応援が無かったらここまでできなかった
すごく助けられました。

感謝の気持ちがいっぱいです。

自分だけの力じゃなくて
いろんな人の支えがあって強くなれたなと思っています。

最後に優勝できて、
すごくいい形で競技を終えられることができて
よかったと思います。

今後はこれからだけど
高みを目指して追求していきたいなと思っています。

2位のメルニコワと接戦となった
わずか0.066点差で金メダルが確定

もともとは、東京五輪を集大成の場と考えていた
最大の目標であったメダルも獲得できた。

もう体操人生を終えてもよかった。

だけど何かが足りなかった

村上茉愛の競技人生を満たせなかったもの・・・

東京五輪を振り返る

無観客での試合が初めてで空気感に戸惑いがあって・・・

お客さんがいて試合だという感覚があった

無観客が唯一の心残りになってしまった

有観客で試合がある以上、
最後にみなさんに最高の演技を見て欲しかった

五輪の選手村を出るときに
迎えに来てくれたお母さんにありがとう!
ってメダルをかけてあげたんですけど・・・

最後はやっぱりお母さんに
どんなことがあっても
応援し続けてくれたお母さんに
会場で観てもらいたかったんです・・

ふたたび涙が溢れだす・・・

人生最高の1分半が
そこにはあった

天高く うねりを上げる
世界最高難易度シリバス

今はもう記憶の中にしか
観ることができない

written by Kaz Okayasu
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