2026年9月9日 ・ 読了目安 約9分
「先月も同じ部品で不良が出ていた気がする」「あのお客様、前にも返品があったような」。中小企業の現場で、返品や不良品の話はこうした「気がする」で語られがちです。出荷前の検品で見つかったもの、お客様から戻ってきたもの、外注先から届いた時点で使えなかったもの。それぞれは、その場で交換や再製作をして片づきます。片づいた瞬間に、記録は誰の手元にも残りません。
一件一件は小さくても、同じ原因の不良が半年続けば、材料費・作り直しの手間・配送費・お客様との調整時間が積み上がります。しかも、同じ原因かどうかは、並べてみなければわかりません。返品や不良品の記録がないことの本当の損失は、返品そのものではなく、同じ失敗を何度も繰り返していることに気づけないことです。
この記事では、Anthropic社の公式AIコーディングツール Claude Code を使って、ばらばらに起きている返品・不良品を一覧にそろえ、原因別に数えて、どこを直せば減るのかが見える状態にするまでの手順を、非エンジニアの方向けに整理します。どの原因から手を打つか、外注先や材料を替えるかは人の判断。機械に任せるのは、散らばった記録を集めて、そろえて、原因ごとに数える作業です。
返品・不良品が「気がする」で終わる3つの理由
記録が残らないのは、担当者が怠けているからではありません。残らない構造が、仕事の側にあります。
1. 対応が終わると同時に、案件も終わる
不良が見つかれば、交換品を送り、作り直し、お客様に頭を下げます。対応が終われば、その案件は終わりです。「何が、なぜ、どれだけ」を書き残す時間は、対応の後には残っていません。次の仕事が待っているからです。
2. 起きる場所がばらばらで、記録の形も決まっていない
出荷前の検品で見つかる不良、納品後に戻ってくる返品、外注先から届いた時点の不具合。見つける人も場所も違うので、一つは日報に、一つはやり取りの文面に、一つは口頭で終わります。同じ「不良」でも、集める場所がないので、並べて比べられません。
3. 原因の呼び方が人によって違う
「傷」「キズ」「表面不良」「梱包が甘い」「輸送中の破損」。同じことを指していても、書く人が違えば言葉が変わります。言葉がそろわないと、数えたときに「傷が3件、キズが2件、表面不良が4件」と分かれてしまい、実は同じ原因が9件だったことが見えません。
記録が残らないのは、対応と同時に案件が閉じ、集める場所がなく、言葉がそろっていないからです。この三つは、いずれも機械に任せて軽くできる種類の問題です。
機械に任せる範囲と、人が決める範囲
大前提として、どの原因から手を打つか、外注先や材料を替えるか、検品の工程を増やすかは経営の判断であり、人が決めることです。機械に任せるのは、散らばった記録を集めて一覧にそろえ、原因の言葉を統一し、件数と損失額を数え、どの原因が大きいかを並べるところまでです。
工程担当内容記録の収集機械日報・やり取りの文面・伝票・写真のメモから、返品・不良の発生を拾う一覧化機械発生日・商品や部品・数量・見つけた場所(検品・納品後・受入時)・お客様や外注先・対応内容を一行にそろえる原因の言葉の統一機械「傷」「キズ」「表面不良」を一つの原因名にまとめ、原因の一覧表をつくる損失額の計算機械材料費・作り直しの工数・配送費を足して、一件ごとのおおよその損失を出す原因別の集計機械原因ごとの件数と損失額を月ごとに数え、多い順に並べる繰り返しの検出機械同じ商品・同じ外注先・同じ原因の組み合わせが何回起きているかに印をつける手を打つ原因の選定人件数と損失額を見て、どの原因から直すかを決める対策の実行人検品の追加、外注先との話し合い、材料や梱包の変更など、実際に動く
線引きはこれまでの記事と同じです。集めて、そろえて、数えるのが機械。決めて、動くのが人。この順番を守ると、「気がする」が「先月、同じ原因で4件、損失はおよそ6万円」という言葉に変わります。
実務5ステップ
ステップ1:直近三か月分の返品・不良を掘り起こす
まず、過去三か月に起きた返品・不良を集めます。日報、お客様とのやり取りの文面、交換品の出荷伝票、作り直しの作業記録、現場で撮った写真のメモ。形はばらばらで構いません。Claude Code には「これらの資料から、返品や不良品が発生した件を見つけて、発生日・商品や部品・数量・見つけた場所・相手先・対応内容を一覧にしてください。わからない項目は空欄にして、どの資料から拾ったかを添えてください」と頼みます。最初の一覧は穴だらけで正常です。空欄の多さそのものが、これまで記録が残っていなかった証拠になります。
ステップ2:原因の言葉を十個以内にそろえる
一覧ができたら、原因の欄を見ます。おそらく、似た言葉がばらばらに並んでいます。Claude Code に「原因の欄を読んで、同じ意味のものをまとめ、原因の名前を十個以内に整理してください。まとめたときは、元の言葉と新しい名前の対応表も出してください」と頼みます。ここで大事なのは、十個以内に収めることです。二十も三十もあると、数えても散らばって傾向が見えません。「表面の傷」「寸法違い」「梱包不足による破損」「輸送中の破損」「材料の不良」「指示の聞き違い」あたりに収まれば十分です。
ステップ3:一件ごとの損失額をおおよそで出す
原因がそろったら、一件ごとの損失を出します。正確な原価計算は不要です。材料費、作り直しにかかった時間に時間あたりの人件費をかけた額、交換品の配送費の三つを足せば十分です。Claude Code に「一件ごとに、材料費・作業時間×時間あたりの人件費・配送費を足して、おおよその損失額を出してください。わからない項目は標準の値(材料費〇円、時間あたりの人件費〇円、配送費〇円)を使い、推定であることを印で示してください」と頼みます。推定でも金額が並ぶと、「件数は少ないが損失が大きい原因」が見えてきます。
ステップ4:原因別・相手先別に数えて、多い順に並べる
ここが一覧をつくる目的です。Claude Code に「原因ごとの件数と損失額を月ごとに数え、多い順に並べてください。同じ商品、同じ外注先、同じ原因の組み合わせが二回以上起きているものには印をつけてください」と頼みます。出てきた表を見れば、「表面の傷が全体の四割、そのうち八割が同じ外注先」のような事実が、初めて言葉になります。ここから先、どこに手を打つかは人が決めます。
ステップ5:新しい不良は「一言」で足す運用にする
一覧は、更新が止まれば元に戻ります。新しい返品・不良が起きたら、担当者は「〇月〇日、〇〇の部品、寸法違い、2個、作り直し」と一言だけ残し、Claude Code にそれを一覧へ反映させます。担当者が表を直接直す運用にしないことが続けるコツです。月末に「今月の原因別の件数と損失額を、先月と比べてください」と頼めば、打った手が効いたかどうかが数字で返ってきます。
頼み方の3原則
1. 「不良」の定義を先に決めておく
「お客様から戻ってきたものだけ」なのか、「出荷前の検品で弾いたものも含む」のか。ここが曖昧だと、月によって件数の意味が変わります。おすすめは、社内で見つけたものも、外から戻ってきたものも、すべて記録し、見つけた場所の列で分けることです。社内で見つかった不良は、お客様に届く前に止められた成功でもあります。
2. 原因は「起きたこと」で書き、「誰のせい」で書かない
「Aさんの確認漏れ」と書くと、記録が責める道具になり、担当者は不良を報告しなくなります。原因は「出荷前の寸法確認が工程に入っていなかった」のように、仕組みの言葉で書くよう指示します。記録が増えるほど、隠れていた不良が見えるようになります。
3. 損失額は「推定」の印を消さない
推定で出した金額が、いつの間にか確定した数字として一人歩きすると、判断を誤ります。一覧には推定の印を残したまま、「この金額は目安で、大小の比較に使うもの」と決めておきます。原因ごとの大小がわかれば、目的は果たせます。
つまずきやすい5つの型
1. 最初から完璧な様式を作ろうとする
項目を三十も並べた立派な記録表を作り、誰も書かなくなる型です。項目は「日付・商品・数量・見つけた場所・相手先・原因・対応」の七つで始めます。足りなければ、あとで機械に足させれば済みます。
2. 原因の分類が細かすぎる
「傷(角)」「傷(面)」「傷(縁)」と分けると、集計しても散らばります。まず十個以内で数え、上位の原因だけをあとから細かく分ける順番にします。
3. 件数だけ見て、損失額を見ない
件数が多い原因に目が行きますが、一件あたりの損失が小さければ、急いで手を打つ必要はないかもしれません。件数と損失額を並べて見ることで、「月に一件だが、一件で十万円」の原因を見逃さなくなります。
4. 外注先の不良を記録しない
「外注先には言いにくい」と、受入時の不良を記録せずに社内で直してしまう型です。記録がなければ、次の発注先を選ぶときの材料もありません。記録は交渉のためではなく、自社が同じ相手に同じ失敗を繰り返さないためのものです。
5. 記録して満足し、手を打たない
一覧ができ、原因が見えたところで止まる型です。月末の集計で「今月いちばん多い原因」が出たら、その一つだけに対策を決めるルールにします。一つずつでも、毎月続けば半年で六つの原因が減ります。
業種別の効きどころ
製造業・部品加工 — 寸法違いと表面の傷が、どの工程・どの材料ロットで起きているかが見えます。外注先ごとの受入不良の件数が並ぶと、発注先の見直しに根拠がつきます。
食品製造・菓子・惣菜 — 包装の不備や日付の印字ミスは、曜日や時間帯に偏りが出やすい不良です。発生日時を一覧にするだけで、人手が薄い時間帯との関係が見えます。
ネットショップ・小売 — 返品理由が「思っていたものと違う」なのか「破損」なのかで、直す場所が商品ページか梱包かに分かれます。理由別の集計が、商品説明や梱包資材の見直しにつながります。
建設・リフォーム・設備 — 手直し工事は、施工不良なのか、指示の聞き違いなのか、材料の不良なのかで対策が変わります。手直しの記録を原因別に分けると、着工前の確認項目が決まります。
印刷・看板・制作物 — 色違い・文字の誤り・寸法違いは、校正の段階で止められたかどうかで分けます。「校正で止められた」件数が増えれば、検品の仕組みが効いている証拠になります。
よくあるご質問
Q. 返品や不良は月に数件です。記録するほどでしょうか
月に数件でも、一年で数十件です。数十件を原因別に並べれば、必ず偏りが出ます。件数が少ないうちに記録の形を決めておくと、増えたときに困りません。それに、一件あたりの損失が大きい業種ほど、数件の記録が判断を変えます。
Q. 現場が「また書類が増える」と嫌がります
書類は増やしません。現場の作業は、起きたときに一言残すだけです。表に入れるのは機械の仕事で、集計も機械がします。表を触らなくてよいとわかれば、記録は続きます。
Q. 損失額を出すと、社内で責任の話になりそうです
金額は、人を責めるためではなく、どの原因から直すかを決めるための目安です。原因を「起きたこと」の言葉で書き、担当者名を集計の軸にしないと決めておけば、責任の話にはなりにくくなります。記録の目的を最初に共有することが要です。
Q. どのくらいの時間がかかりますか
直近三か月分の掘り起こしに半日、原因の言葉の整理に一時間、以後は発生時に一言残す数十秒と、月末の集計を見る十分ほどです。作り直し一件の手間と比べれば、はるかに小さな投資です。
まとめ
返品・不良品の記録が「気がする」で終わるのは、対応と同時に案件が閉じ、集める場所がなく、原因の言葉がそろっていないからです。裏を返せば、集めて、そろえて、数える作業を機械に任せてしまえば、残るのは「どの原因から直すか」という判断だけになります。
直近三か月分を掘り起こす。原因の言葉を十個以内にそろえる。一件ごとの損失額をおおよそで出す。原因別・相手先別に数えて多い順に並べる。新しい不良は一言で足す。この順番なら、現場の負担を増やさずに、同じ失敗の繰り返しが数字で見えるようになります。
集めて、そろえて、数えるのは機械。決めて、動くのは人。「あの不良、前にもあった気がする」が「同じ原因で今月4件、対策はこれ」に変わる状態が、小さな会社が利益と信用を守る、いちばん確実な方法です。
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