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歴史小説を1冊ご紹介します。「等伯」(安部龍太郎)。これ2012年の直木賞受賞作です。長谷川等伯は戦国時代の画家で、「松林図屏風」が有名です。「等伯」は小説なので史実にはない話も盛り盛りですが、その生きざまは大変興味深く、小説「等伯」から話題を展開してみます。(少し内容に言及するのでご留意を)

等伯は、あまり偉人とは言えず、結構ダメダメです。人が良すぎる、騙されやすい、欲に目がくらむ、などなど。でも、だからこそ人間味に引き込まれる。自分だったらどうするだろう、と考えてしまう。豊臣秀吉や千利休とも絡み(これは史実)、戦や政治に振り回されますが、注目したいのは、狩野永徳と長谷川等伯の対比です。永徳は当時絵師として絶大な名声と権力を持っていました。狩野派は永徳で4代目、一方の長谷川派は等伯が初代。エリートで天賦の才に恵まれた永徳に対し、能登の染物屋から苦労して這い上がった等伯。組織の狩野派に対峙した、個人長谷川等伯。家柄×才能×英才教育×一流の現場経験→永徳。雑草魂×才能×努力×野心→等伯。これ普通なら永徳の圧勝でしょう。でも等伯も頑張って朝廷や権力者に認められ、長谷川派を立ち上げるまでになった。なぜか?

それは時代環境と人脈形成だと私は思います。織田信長に重用されていた狩野派は、本能寺の変を境に微妙な立場になる。秀吉は信長の焼き直しはいやだったんです。そして元々狩野派と距離をとっていた利休が、等伯の絵を気に入り、緊密な関係をつくった。こうなると、雑草魂があってエネルギッシュな等伯は「押せ押せ」です。狩野派は等伯の邪魔をしようとする。そんな中、永徳が急死。ますます「流れ」は等伯に向き、そこに上手に乗った。

ここで大きいのは、まずビジョンの違いです。永徳が目指したのは「組織の排他的安定」、等伯が目指したのは「新たな価値の創生」。「続ける」と「産み出す」の違い。後者のほうがエネルギッシュですね。しかし後者も、いつかは「続ける」という難しい課題に直面する。結局長い目で見ると狩野派の勝ちかな。分業体制や人脈形成の組織力は強いです。

二つ目の違いは、創作に対するスタンス。永徳は型に拘り、等伯は独自性に拘った。だから短期的には、「狩野はつまらない」、「長谷川は面白い」となる。等伯の絵はダイナミックでオリジナリティに溢れています。結局、「短期的には長谷川頑張る、長期的には狩野が勝つ」って感じです。狩野派は永徳が亡くなっても組織展開できたけど、長谷川派は跡継ぎの長谷川久蔵が26歳で亡くなり、うまく組織展開できなかった。創業者の起業家精神はすごいですが、続けることは本当に難しい。二代目・三代目社長になって事業が伸び悩むのもうなずけます。でも、狩野永徳より長谷川等伯の生き方に共鳴しちゃうんですよね。
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