【シリーズ】行政書士は胃が痛い 第4話:ハンコと、揺れる心
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コラム
朝一番で役所へ向かい、社長から訂正印をもらった建設業許可の更新書類を再提出した高橋。窓口で「今回は大丈夫そうです」と声をかけられ、ようやく胸をなでおろす。これであの気の短い社長からの催促の電話も鳴り止むだろう。
事務所に戻り、安堵感と共にコーヒーを一口飲んだ、その時だった。メールの受信音が鳴る。開いてみると、先日相談を受けていた相続手続きの依頼者からだった。
『先生、大変申し訳ありません。先日合意したはずの遺産分割協議書なのですが、兄がやはり納得できない、と…。ハンコを押してもらえそうにありません。』
高橋は、思わずモニターの前で天を仰いだ。一度は「これでお願いします」と全員が頷いたはずなのに。相続は、単なる財産の分配ではない。そこには、目に見えない家族間の長年の感情や、それぞれの思惑が複雑に絡み合っていることを、高橋は嫌というほど知っていた。
行政書士は、法律に基づき書類を作成し、手続きを代行する専門家だ。しかし、依頼者の揺れる心や、家族間の感情的なもつれを直接的に解決することはできない。ただ、その「心」が原因で、手続きという「形」が進まないのであれば、何らかの橋渡しを試みるしかない。
どうすれば、あのお兄さんの気持ちを和らげ、再び円満な合意形成に繋げられるだろうか。最適な言葉を探し、対応策を練る。その間にも、じりじりと胃が熱を持ち、鈍い痛みを主張し始める。法律や条文だけでは割り切れない、人の心の重さが、また高橋の胃にのしかかってくる。
(第5話へ続く)