木犀の香りと、家族の話

木犀の香りと、家族の話

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朝の空気が、ふいに甘く変わる季節になりました。どこかの庭先で木犀が咲いているのでしょう。姿は見えないのに香りだけが先に届いて、歩いている人のほうが足を止めてしまいます。秋という季節は、こうして気配のほうが先に来るのだと思います。葉の色が変わるのも、日の落ちるのが早くなるのも、どれも知らないうちに始まっていて、気づいたときにはもう進んでいます。

恋人との関係にも、よく似た変わり目があります。家族の話が出はじめるときです。

ご実家の話、ご兄弟の話、お母さまの体調の話。それまで二人のあいだだけで完結していた会話に、会ったことのない人たちの名前が混じりはじめます。言われた側は、たいてい少し驚きます。そして、驚いたあとで考えはじめます。これは何かの合図なのだろうか、返事を期待されているのだろうか、自分は何か言うべきなのだろうか、と。

波動を見せていただくと、この時期のご相談にはひとつの共通点があります。ご本人の中で、受け取り方が二つに割れているのです。嬉しいという感じと、重いという感じが、同時にあります。そして多くの方が、重いと感じた自分のほうを恥じていらっしゃいます。嬉しいだけで受け取れない自分は冷たいのではないか、と。

けれど私は、その二つが同時にあるのは自然なことだと思っています。家族の話というのは、相手の人生の背景が見えはじめるということです。背景が見えるというのは、距離が近づいた証でもあり、同時に、自分が引き受けるものの輪郭が見えはじめるということでもあります。嬉しさと重さが一緒に来るのは、両方が本当だからです。

もうひとつ、よくあるのが「意味を決めてしまいたくなる」ことです。家族の話をしたということは、そういう気持ちがあるということだ。あるいは逆に、まだ紹介の話が出ないのだから、本気ではないのかもしれない。どちらに傾いても、相手が言っていないことを自分で補っている状態です。補った中身は、たいていその人の不安や願いの色をしています。

お伝えしたいことがあるとすれば、ひとつだけです。家族の話が出たからといって、何かを決めなくてもよいのです。相手が家族の話をしたのは、多くの場合、あなたにその人たちの存在を知っておいてほしかったからで、それ以上でも以下でもないことがあります。合図を読み解くより、まずは聞いた話をそのまま預かっておく。それで十分な時期が、しばらく続きます。

それでも気持ちの置きどころに困ったら、相手に素直に聞いてみるのも悪くないと思います。「どんなご家族なの」と尋ねるだけで、相手はたいてい嬉しそうに話します。意味を探るためではなく、その人を知るために聞く。この違いは、不思議と相手にも伝わります。

木犀は、咲いていることに気づかれないまま、しばらく香り続けます。関係の変わり目も、そういうものかもしれません。今は何も決めず、香りがしていることだけ覚えておけばよいのだと思います。

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