居酒屋夜話|三番の椅子

居酒屋夜話|三番の椅子

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閉店のあと


最後の客が帰ったら、
まず暖簾ば下ろす。

カウンターば拭いて、
椅子ば一脚だけ残して上げて、
換気扇ば止める。

換気扇が止まると、
店の中が急に広うなる。

冷蔵庫のうなる音と、
表ば走る車の音だけになる。

冷蔵庫からノンアルの缶ば出す。

おいは酒が二杯で回るけん、
この時間はいつもノンアルたい。

それば持って、
カウンターの外に回る。

自分の店の客席に、
客として座るとたい。

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客席から見えるもの


立っとる側からは見えんもんが、
座る側からはよう見える。

棚の上の埃。
品書きの字の傾き。
おいの背中にかかっとる時計。

客はみんな、
あの時計ば見ながら飲みよる。

そろそろ終電かと、
客はおいの肩越しに時間ば知る。

おいがよかれと思うて掛けた時計が、
客ば帰らせよったとかもしれん。

店ば開けてから、
おいは一回もそれに気づかんかった。

それでも時計は外さんかった。
帰りたか人には要るもんやけん。

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三番の椅子


先月から気になっとることがあった。

入口から三つ目の椅子に座った客は、
なぜか長居せん。

一杯で帰る。
上着も脱がん。

最初はたまたまやと思うとった。
ばってん、続いた。

常連でもそうやった。

いつもは三杯飲む男が、
三番に座った晩だけ
一杯で帰っていった。

なんか今日は落ち着かんね、
と言うて上着の前ば合わせとった。

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隙間風


その晩、閉店後に三番に座ってみた。

ノンアルの缶ば開けて、
しばらくじっとしとった。

五分もせんうちに分かった。

足元が、冷たか。

入口の戸の下から、
細か風が這うてきよる。

立っとる場所からは
一回も感じたことのなか風たい。

おいの立っとる場所は、
焼き台の熱で年中ぬくか。

客の足元の寒さなんか、
考えたこともなかった。

寒うなりはじめた十一月に、
三番の足元にだけ
風の通り道ができとった。

客は誰も、寒かとは言わんかった。

言わんで、上着ば着たまま、
一杯で帰っとったとたい。

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古か手ぬぐい


次の朝、戸の下に
細長か隙間テープば貼った。

近所の金物屋で買うてきた。

それだけでは足りんけん、
古か手ぬぐいば丸めて、
戸の脇にも置いた。

店ば開けた年に、
酒屋さんからもろうた手ぬぐいたい。

その晩、三番に座った客は、
二杯目ば頼んだ。

たまたまかもしれん。

上着は脱いで、
膝の上にたたんであった。

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暮らしの中の日


鑑定の時も、おいは相談した人の
椅子に一回座ってみることにしとる。

暦の上でよか日でも、
その人の暮らしの中で
使えん日やったら意味がなか。

日取りはよかったとに、
その日は残業で動けんかった。

そぎゃん話は案外多か。

だけん、書いてもろうた相談の中から、
まず暮らしば拾う。

朝が早か仕事か。
子どもの迎えはあるか。
休みは何曜日か。

そこば見んで日ば出すとは、
立っとる側から店ば見とるとと
同じことたい。

十一月は立冬で、
暦の上では冬が始まる。

ばってん、寒さが来る日は
家ごと、足元ごとに違う。

暦はその足元から読むもんたい。

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今夜の一杯


あんたが毎日おる場所にも、
立っとる側からは見えん風が
通っとるかもしれん。

たまには、
いつもと違う椅子に座ってみんね。

台所の床でも、
玄関の上がり口でもよか。

自分の家の客になってみると、
見えんかった風が一つくらいはある🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
動く日と方角ば読む暦師たい。

恋の相談ひとつば、日取りまで考えたか人へ。
相手の気持ちば当てる鑑定やなか。


恋も仕事も、ひと月全体の日取りば見たか人へ。


半年先まで、暮らしの流れば考えたか人へ。


書いてもろうた暮らしの話から、日ば読むけん。

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