居酒屋夜話|日付の欄

居酒屋夜話|日付の欄

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占い

カウンターの便箋


水曜の、だいぶ遅か時間やった。

ネクタイば緩めた男が、
ビールの横に便箋ば広げて、
ボールペンで何か書きよった。

一番上に、退職届とあった。

ビールば一口飲んだきり、
グラスには手ば伸ばさんかった。

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一番多か相談


仕事ば辞めたい。

カウンターで聞く相談の中で、
これがいちばん多かかもしれん。

恋の相談と、どっこいどっこいたい。

上司が合わん。
給料が上がらん。
朝、駅の階段で足が止まる。

どれも、ほんとの理由たい。

理由は人の数だけある。

ほんとは辞めたかとやのうて、
今の場所から一回離れたかだけ、
ていうこともある。

それは、話ば聞かんと分からん。

おいは辞めるなとは言わん。
辞めろとも言わん。

ばってん、
一つだけ見るところがある。

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日付の欄


書き上がると、男はそれば
おいの方に向けた。

字は丁寧やった。
何回も書き直したとやろう。

会社の名前も、自分の名前も、
同じ薄さで丁寧に書いてあった。

一か所だけ、
ボールペンの字が濃かった。

日付の欄たい。

今日の日付が、
強か力で書いてあった。

今日、課長に言われたことがあって。
もう明日出します。

男の声は落ち着いとった。

ばってん、ボールペンの字だけが
落ち着いとらんかった。

おいはその日付ば
しばらく見とった。

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二つの決めごと


辞めるかどうか。
いつ辞めるか。

この二つは、
同じ晩に決めんでよか。

辞めると決めるとは、
腹の立った晩でもかまわん。

腹が立つとは、
もう我慢ば使い切っとるという
体の知らせのこともあるけん。

ばってん、いつ辞めるかまで
その晩に決めると、
日付が怒りの形ばしてしまう。

あの濃か字が、そうやった。

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日付だけ消す


おいは男に言うた。

紙は持っとってよか。
辞めると決めてもよか。

ばってん、
日付だけは消しときなっせ。

男は少し黙ってから、
ボールペンで日付に線ば引いた。

二本線の下で、
今日の日付がまだ透けとった。

消したけんて、
怒りまで消えるわけやなか。

それでよか。
怒っとることは、
嘘にせんでよかけん。

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二週間後


二週間して、男がまた来た。

会社は辞めとらんかった。
課長も相変わらずらしか。

その晩はビールば二杯飲んで、
焼き鳥ば全部食べて帰った。

あの便箋は、
手帳に挟んだままらしか。

新しか日付は、まだ書いとらん。

その晩は、便箋ば広げることも
せんかった。

辞めるとばやめたわけやなか。

いつにするかば、
自分の手に戻しただけたい。

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暦で見るとは


鑑定でこの相談が来た時、
おいが暦で見るとは
辞めるかどうかやなか。

それは本人が決めることたい。

辞めると決めてから、
実際に辞めるまでには、
上司に話す日、引き継ぎの日、
最後に出る日と、
日付がいくつもある。

おいが見るとは、
次の場所へいつ動くかの方たい。

九星には、
月ごとに巡ってくる星の流れがある。

潮の満ち引きのごたるもんで、
同じ一歩でも、
満ちとる時と引いとる時がある。

怒りの晩は、
潮ば見る余裕がなかもんたい。

だけん、決めるとはその晩でよか。
日付は、潮ば見てから書けばよか。

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今夜の一杯


辞めるでも、別れるでも、
引っ越すでもよか。

決めたことは、
そのままでよか。

ただ、書いた日付の字が
濃かったら、
一晩だけ置いてみんね🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
動く日と方角ば読む暦師たい。

恋の相談ひとつば、日取りまで考えたか人へ。
相手の気持ちば当てる鑑定やなか。


恋も仕事も、ひと月全体の日取りば見たか人へ。


半年先まで、暮らしの流れば考えたか人へ。


日付の欄は、空けたまま来てよか。

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