居酒屋夜話|傘立ての底

居酒屋夜話|傘立ての底

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傘立ての一本


雨の晩は、
入口の傘立てがすぐ詰まる。

たいていの客は暖簾の外で
一回ばさっと振って、
留め紐まで巻いてから差していく。

ひと月ほど前から、
そうせん客が一人おる。

留め紐も巻かんで、
半分開いたごたる形のまま、
濡れた傘ばずぼっと突っ込む。

傘立ての底に、
その一本の分だけ水が残る。

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いつもの端


来るとは、女の人たい。

座るとは、壁側の端の席。
頼むとは、ハイボールと刺身の盛り合わせ。
来るたびに同じ。

箸ば取っては置いて、
また取っては置く。

刺身は最後にはちゃんと食べる。
ばってん、一切れ目までが長か。

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雨の上がった晩


何度目かの雨の晩のことたい。

飲みよるうちに、雨が止んだ。

会計ば済ませた女の人は、
傘立てから自分の傘ば抜いて、
暖簾の下で初めて畳もうとした。

骨ば寄せて、
留め紐ば巻こうとしたところで、
ひだに残っとった水が
手首から袖の中へ流れこんだ。

あ、と声が出とった。

袖ば押さえて、
女の人は自分で笑うた。

袖の中まで来ました。

言われてみればそうたい。
開いたまんま突っ込む傘は、
持っとる手が濡れん。
水はたいがい、傘立ての底に落ちる。

濡れるとは、閉じる時たい。

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日にちだけ


袖の水ば払いながら、
女の人が小さか声で言うた。

引っ越しの日にちだけ、まだ決まらんとです。

行き先は決まっとる。
部屋も見てきた。
向こうの駅から、何べんか歩いてもみた。

今の部屋は、いつまでね。

おいがそう聞いたら、
女の人は少し黙った。

それが、まだ言うとらんとです。
大家さんにも、管理の会社にも。

新しか部屋の写真は、
毎晩、寝る前に見よるとに。

そう言うて、
留め紐ば最後まで巻いた。

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申込書は速か


おいが昼に不動産屋で働きよった頃、
何べんも見た形たい。

新しか部屋の申込書は、
みんな速か。
名前も勤め先も、ペンが止まらん。
間取り図ば何べんも裏返して、
家具の置き場所まで話す人もおった。

止まるとは、
今の部屋の話になった時たい。
そういう人に限って、
今の部屋の契約書は家に置いてきとる。

契約書には、出る何日前までに
知らせんといかん、と書いてある。
その日ば確かめる電話が、
なかなか掛けられん。

電話一本で、
今の部屋の終わりの日が
決まってしまうけんたい。

行き先の話ば広げとる間は、
誰も濡れん。

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また半開き


次に雨が降った晩も、
女の人は来た。

いつもの端に座って、
いつもの二つば頼んだ。
箸ば取っては置く手つきも、
いつも通りやった。

傘は、また半開きのまま
傘立てに突っ込んであった。

電話ば掛けたかどうかは、
おいは聞いとらん。

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方角の物差し


九星気学で引っ越しの方角ば見る時は、
今寝起きしとる場所ば真ん中に置く。

そこから見て、
行き先がどっちにあるかば読む。

物差しの端っこは、
閉じる方の部屋に当てるとたい。

だけん引っ越しの相談では、
先に今の部屋にいつまでおるかば聞く。

暦で出せるとは、日取りまでたい。
今の部屋への電話は、
おいが代わりに掛けてはやれん。
越した先の暮らしまで請け合う物でもなか。

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今夜の一杯


行き先の写真ばっかり、
毎晩見よる話はなかね。

もしあるなら、
今おる場所の方で
まだ手ば付けとらん用事の名前ば、
一つ口に出してみんね。

閉じる時は、どうしても濡れる。
濡れんで畳む畳み方は、
おいも知らん。

ばってん、濡れた袖はそのうち乾くたい🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
動く日と方角ば読む暦師たい。

恋の相談ひとつば、日取りまで考えたか人へ。
相手の気持ちば当てる鑑定やなか。


恋も仕事も、ひと月全体の日取りば見たか人へ。


半年先まで、暮らしの流れば考えたか人へ。


今の相談に必要なところからでよか。

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