居酒屋夜話|三年目の木曜

居酒屋夜話|三年目の木曜

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木曜の二杯


うちに、毎週木曜だけ来る男がおった。

頼むもんはいつも同じたい。

焼酎のお湯割りば二杯。

一杯目は、
湯気が立っとるうちに半分ほど飲む。

二杯目はゆっくりやる。

つまみは頼む日と頼まん日があった。

しゃべらん。

おいが言うとは、お疲れさん、と、
また来てな、の二つだけ。

男が言うとは、
お湯割りください、と、
ごちそうさん。

それが三年続いた。

名前も知らん。
仕事も知らん。
どこに住んどるかも知らん。

木曜に来る、ということだけ知っとった。

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聞かんかった


三年も通うとる客に
何も聞かんとは薄情に見えるかもしれん。

ばってん、うちに来る客の何割かは、
しゃべりに来とるわけやなか。

しゃべらんで済む場所ば探して、
たまたまうちに流れ着いとる。

そういう客は、
だいたい座り方で分かる。

カウンターの真ん中に座らん。

体がちょっと出口の方ば向いとる。

聞いたら答えるやろばってん、
答えさせた時点で、
その客の目的は壊れる。

だけん聞かんかった。

優しさやなか。
ただの見極めたい。

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二杯目ば頼まんかった晩


三年のうちで、一度だけ、
型が崩れた木曜があった。

一杯目ば、半分残した。

いつもは湯気のうちに飲む男が、
氷も入れとらんとに、
グラスの湯が冷めるまで置いとった。

二杯目は頼まんかった。

ごちそうさんも言わんで、
金ば置いて出ていった。

おいはその時、
聞こうか、と思うた。

どうかしたね、の一言たい。

口ば開きかけて、やめた。

やめた理由は、優しさやなか。

聞いた次の木曜、
この男は来んやろうと思うたけんたい。

一回でも踏み込んだら、
ここは、何か聞かれる店になる。

そうなったら、
この男の木曜は無くなる。

おいはその一言と、
次の木曜ば、天秤にかけた。

木曜ば取った。

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転勤です


翌週、男はいつも通りに来た。

一杯目ば湯気のうちに半分。
二杯目ばゆっくり。

何もなかったごと飲んどった。

それから何ヶ月かして、
三年目のある木曜に、
男が初めて自分から口ば開いた。

大将、おれ、来週から来れんくなります。
転勤です。

それだけ言うて、
いつもの二杯ば飲んで帰った。

おいも、そうね、とだけ返した。

達者でな、も言わんかった。

言うたら湿っぽうなるけん。

翌週から、本当に来んかった。

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半年後の封筒


半年ほどして、店に封筒が届いた。

差出人の名前ば見ても、
誰か分からんかった。

三年通うた客の名前ば、
おいはその時に初めて知った。

中身は短かった。

あの店の木曜日がなかったら、
会社ば辞めとりました。

何も聞かんでくれて、
ありがとうございました。

そう書いてあった。

おいは、あの二杯目ば頼まんかった晩のことば
思い出した。

あの晩に、おいが一言聞いとったら、
この手紙は来とらん。

正確に言うなら、
この手紙が来るような三年に
なっとらんかった。

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返事は書かんかった


住所は封筒に書いてあった。

書こうと思えば書けた。

ばってん、書かんかった。

返事ば出したら、
あの三年が、やりとりになってしまう。

こっちが何かしてやった話に
なってしまうけんたい。

おいは何もしとらん。

焼酎ば出して、
聞かんどこうと三年決め続けただけばい。

決め続けるとは、
何もせんこととは違う。

ばってん、
何かした、とも言いたくなかった。

だけん封筒は、
帳簿に挟んだままにしてある。

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言う日と、言わん日


おいは暦で、人の動く日ば読んどる。

こう言うと、
当てる仕事やと思われる。

ばってん、おいがいちばん使うとは、
当てる方やなか。

いつ言うか、の方たい。

鑑定に来る人には、
たいてい二つも三つも見えてくる。

全部言うたら、その人は動けんくなる。

今すぐ言うた方がよかことと、
本人が自分で気づくまで
待った方がよかことがある。

その順番ば決めるとに暦ば使う。

方角や日取りは、
どっちかというと後の話たい。

見えたけん言う、
は素人のやることばい。

見えたうえで、今日は言わん、
と決められるごとなって、
やっと使えるごとなる。

三年何も聞かんかったとは、
おいの中では鑑定と同じ仕事やった。

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今夜の一杯


あんたにも、
何も言わんで済む場所があるとよかね。

なかとしたら、
それはあんたが悪いとやなか。

まだ三年通っとらんだけたい。

そんで、もし
あんたが誰かにとっての木曜なら、

聞かんどくとも、
ちゃんと仕事のうちばい🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
あんたの動く日と方角ば読んどる。
品書きは三つだけたい。

まずは行き先と日取りだけ知りたか人へ。

ひと月まるごと、動く日と避ける日ば並べたとがこっち。

半年先まで、流れごと一枚の地図にしたとが本命たい。


どれにするか迷うたら、
いちばん上のからでよか。

言う日ば決めるとも、
暦の仕事のうちやけんな。

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