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【短編小説】暗記薬

 その日、塾から帰ると弘志はさっそく、学校で友人を通じて売ってもらった薬を試してみた。  それは、「暗記薬」。カプセル状の赤い薬なのだが、それを飲むとなんでも暗記できるというのだ。それでいて、別段害もなく副作用もないという。そういうことで、有名進学校に通う弘志の仲間うちでも、それが一つの流行のようになっていた。  弘志は一粒薬を飲んで、歴史の教科書を開いた。すると、どうだろう。教科書に書かれている文章、図、それに写真までが、簡単に暗記できた。弘志は、確かめる意味で目を閉じて何分か待った。それでも、暗記した内容は鮮明に頭の中で再生された。 「すばらしい」 弘志は聞いていた以上の暗記薬の効用に驚いた。  すると、部屋に見知らぬ中年の、女性が入ってきた。 「弘志ちゃん。お夜食、ここに置きますからね。明日は試験でしょう。頑張ってね」 と、その女性は食べ物を置いて部屋から出て行った。 「あの人は、誰だろう」  弘志は首を傾げながらも、ほのかなときめきを感じた。  同じ頃、とある場所で、暗記薬を囲んで学校関係者が話し合っていた。 「こんな暗記薬なるものが出回っているとすると、試験の前か後ドーピング検査が必要になると、言うわけですか」 「はあ。でも、問題は他にも…」 「しかし、一時的にある記憶が欠落するという副作用だけで、他にはそれほどの副作用はないと聞いてますが」 「はい。それがなぜか、暗記薬を常用している生徒の中では近親相姦が多いという噂がありまして、そちらのほうが問題かと」                                  完 《蛇足》  以前、ネット上で公開していた拙
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