知識を売る時代から、経験を伝える時代へ。
私たちが何かを習得しようとするとき、その方法はいくつもあります。
独学する。本を読む。動画を見る。ブログを読む。誰かが販売している教材を購入する。学校や塾に通う。実際の現場で働きながら経験を積む。あるいは、熟練者に弟子入りしてマンツーマンで教えてもらう。
それぞれにメリットがあり、習得したいものによって適切な方法も異なります。
ところが、こうした学習方法の中に、いつの頃からか「情報商材」という独特のビジネスが大きな市場を形成するようになりました。
私は、情報を商品として販売すること自体を否定するつもりはありません。
しかし、その販売方法には以前から疑問を感じています。
そして、AIが急速に普及する現在、情報商材というビジネスモデルそのものが、大きな転換期を迎えていると考えています。
今回は、何かを学ぶということの本質と、AI時代に淘汰されていく知識販売ビジネスについて考えてみたいと思います。
1. そもそも、人はどのようにして何かを習得するのか?
何かを習得する方法を整理すると、大きく次のようなものがあります。
① 独学
自分で調べ、自分で考え、試行錯誤を繰り返しながら身につけていく方法です。
時間はかかりますが、自分で考える力や問題を解決する能力が養われます。
② 書籍・動画・ブログ・教材
文章や映像など、言語化・体系化された知識を通じて学ぶ方法です。
こうした知識は一般に「形式知」と呼ばれます。
必要な情報にアクセスしやすく、時間や場所を選ばず学習できることがメリットです。
③ OJT・実地訓練
実際の仕事や現場で経験を積みながら習得する方法です。
知識を頭に入れるだけではなく、実践を通じて技術や判断力を身につけていきます。
④ 塾・専門学校
体系化されたカリキュラムに沿って、講師や指導者から学ぶ方法です。
独学では見落としがちな部分を補い、効率的に学習を進められます。
⑤ 弟子入り・マンツーマン指導
熟練者のそばで働いたり、直接指導を受けたりする方法です。
ここでは、文章や映像だけでは伝えきれない「暗黙知」を学ぶことができます。
例えば、経験豊富な職人が持っている感覚、状況に応じた判断、言葉では説明しきれない細かな技術などです。
このように、学習方法にはそれぞれ役割があります。
大切なのは、自分が何を習得したいのかを理解し、それに適した方法を選ぶことです。
2. 私が考える情報商材販売の問題点
私が問題視しているのは、情報を販売すること自体ではありません。
問題なのは、既に知られている知識や、少し調べれば誰でもたどり着けるような情報を、あたかも独自の秘密のノウハウであるかのように見せかけて販売する手法です。
例えば、次のような構造です。
- 一般的に知られている知識を集める。
- それを独自のノウハウや秘密の手法として演出する。
- マーケティング心理学を利用して、特別な価値があるように見せる。
- 広告費をかけて広く認知させる。
- 本来それを必要としていない人にまで必要性を訴える。
- 期間限定のプロモーションで購入を急がせる。
- 販売期間が終わると、販売者が表舞台から姿を消す。
もちろん、すべての情報商材販売者がこうした手法を使っているわけではありません。
有益な知識を体系化し、継続的に教育やサポートを提供している人もいます。
しかし、私が違和感を覚えるのは、学びたい人が自ら学習方法を探すという本来の順序を逆転させ、広告によって学習意欲や必要性そのものを作り出そうとする販売手法です。
本来、学ぶという行為は、本人の中に動機があって始まるものではないでしょうか。
例えば、ラーメン屋になりたい人がいるとします。
その人は、自分でラーメン屋になりたいと思い、成功している店を探し、そこで働きながら技術を学ぼうとするでしょう。
ところが、情報商材的な発想で考えると、こんな話になります。
「ラーメン屋は儲かります!未経験でも成功できるラーメン経営の秘密を、たった50万円で教えます!」
少し違和感がありませんか?
本来、ラーメン屋になりたい人が、自分の意思で修業先を探し、働きながら技術を身につけていく。
それが自然な学習の流れだと思います。
もちろん、料理学校もありますし、フランチャイズという仕組みもあります。
フランチャイズの場合は、既に確立されたビジネスモデルや運営ノウハウをパッケージとして購入し、事業の立ち上げを早めるという明確な価値があります。
つまり、お金を払って学ぶことが問題なのではありません。
何が確立されていて、何を習得できるのか。その価値と対価が適切なのか。
そこが重要なのです。
3. まだ誰も確立していないものに、完成されたノウハウは存在しない
もう一つ、情報商材を考えるうえで重要なことがあります。
それは、既に確立された分野と、まだ確立されていない未知の分野では、学び方そのものが違うということです。
例えば、AIを使って新しいビジネスを始めるとします。
「AIを使えば簡単に儲かります!」
「これからはAI副業の時代です!」
「誰でもできるAIビジネスの秘密を教えます!」
こうした宣伝を見かけることがあります。
しかし、そもそも新しい分野であれば、まだ誰も正解を持っていない可能性があります。
その方法が今後も通用するのか、競合が増えても利益を出せるのか、環境が変化しても再現できるのか。
それは実際に試してみなければ分かりません。
未知の分野で必要なのは、完成されたノウハウを購入することではなく、自分自身で仮説を立て、実験し、失敗し、検証しながら方法を確立していくことです。
もちろん、AIの使い方やプログラミング、既存のツールの操作方法など、既に確立された知識を教えることには価値があります。
しかし、まだ実証されていない成功法則を、あたかも再現性のある完成されたノウハウとして販売することには問題があります。
まだ誰も正解を知らない世界で、正解を知っているかのように振る舞うこと。
私は、そこに情報商材ビジネスの危うさがあると思っています。
4. AIによって、情報商材の存在意義が失われていく
ここからが、今回最も伝えたいことです。
これまで情報商材が成立してきた背景には、情報格差がありました。
知識を持っている人と、知識を必要としている人。
その間には、情報を探す能力、情報を整理する能力、情報を体系化する能力の差がありました。
例えば、FXを学びたい人がいたとします。
以前なら、専門書を何冊も読み、ブログを探し、動画を見て、情報を整理し、自分なりに理解していく必要がありました。
そこに情報商材販売者が登場します。
「私が長年かけて身につけた知識を、あなたに特別に教えます」
しかし、AI時代には状況が変わります。
AIに質問すれば、膨大な知識の中から必要な情報を整理し、自分の理解度に合わせて説明してくれます。
分からないことがあれば、何度でも質問できます。
具体例を出してもらうことも、複数の考え方を比較することも、自分専用の学習カリキュラムを作ってもらうこともできます。
これまでお金を払って購入していた、情報の整理、知識の体系化、個別の疑問への回答といった価値が、AIによって誰でも利用できるようになっていくのです。
もちろん、AIが提供する情報が常に正しいわけではありません。情報の検証や判断は必要です。
それでも、知識へのアクセスにかかるコストは、これまでとは比較にならないほど低くなっていくでしょう。
つまり、これまで情報商材販売者が優位性としてきた「知識を持っていること」「情報をまとめていること」だけでは、商売として成立しにくくなっていくのです。
私は、AIの普及によって、こうした知識販売を中心とした情報商材ビジネスは、徐々に淘汰されていくと考えています。
5. それでもAIには代替できないものがある
では、AIが普及すれば教育そのものが必要なくなるのでしょうか。
私は、そうは思いません。
むしろ、AIが普及すればするほど、本当に価値のある教育と、単に知識を販売しているだけのビジネスの違いが明確になると思います。
例えば、ラーメン作りの基本的な知識やレシピ、原価計算、店舗経営の理論などは、AIから学ぶことができます。
しかし、実際の厨房で何年も経験を積んだ職人の感覚や、食材の状態を見極める判断力、現場で起きる予想外の出来事への対応力まで、知識の提供だけで身につくわけではありません。
FXも同じです。
テクニカル分析の知識や経済指標の意味、金融市場の仕組みなどはAIに教えてもらえます。
しかし、実際の相場を観察し、値動きが起きた理由を考え、仮説を立て、検証を繰り返しながら相場観を養うことは、本人が経験しなければなりません。
知識を知っていることと、それを使いこなせることは違います。
そして、この違いこそが、これからの教育の価値になるのではないでしょうか。
AIに代替されやすいのは、知識を伝えるだけの仕事です。
一方で、経験に基づいた判断、実践的な指導、個人の問題点を見抜く能力、成長を支援する能力は、これからも重要な価値を持ち続けるでしょう。
6. 情報を売る時代から、経験を伝える時代へ
これからの時代、単に知識を持っているだけでは優位性にならなくなっていくでしょう。
AIが知識を提供してくれるのであれば、人間が提供する価値は別のところに求められるようになります。
例えば、
- 実際に経験してきたこと。
- 自分自身で試行錯誤してきたこと。
- 成功だけでなく失敗の原因も説明できること。
- 状況に応じた判断ができること。
- 相手の理解度や問題点を把握できること。
- 実践を通じて相手の成長を支援できること。
こうした能力です。
私は、情報商材販売業者の悪質な販売手法が淘汰されるだけでなく、AIによって、知識をパッケージ化して販売するだけのビジネスそのものが、存在意義を失っていくと考えています。
一方で、実際に経験を積んだ人から学ぶこと、熟練者の判断を間近で見ること、実践を通じて自分自身の能力を高めること。
こうした教育の価値は、むしろ高まっていくのではないでしょうか。
情報を売る時代から、経験を伝える時代へ。
ノウハウを買う時代から、自分自身の能力を育てる時代へ。
AIが知識を提供できるようになったからこそ、教育の本質が問われる時代になるのだと思います。
最後に
あなたは、何かを学びたいのでしょうか。
それとも、成功できるという期待を買いたいのでしょうか。
この二つは、似ているようでまったく違います。
知識を得ることは簡単になっていきます。
しかし、知識を使いこなし、自分自身の能力に変えていくことは、これからも簡単にはならないでしょう。
AIが何でも教えてくれる時代だからこそ、自分が何を学ぶべきなのか、誰から何を学ぶべきなのかを考えることが大切になるのだと思います。
これから淘汰されるのは、教育ではありません。教育の名を借りて、知識を売るだけのビジネスなのかもしれません。