【大人の恋愛ショートストーリー】酔った夜に、私は「誠実」というものを知った

【大人の恋愛ショートストーリー】酔った夜に、私は「誠実」というものを知った

記事
コラム
久しぶりに、友人たちとお酒を飲んだ。

楽しかった。

楽しくて、少し飲みすぎた。

そして私は、記憶をなくした。

二軒目を出て、友人と駅へ向かったところまでは覚えている。

そこから先が、ぽっかりと抜け落ちている。

翌朝、スマートフォンを見ると、ある友人への電話の履歴が残っていた。

「……私、電話したんだ」

嫌な予感がした。

何を話したのか、まったく覚えていない。

慌てて謝りのLINEを送った。

そして、返事が来るまでの時間、私は自分でも驚くほどクヨクヨした。

何を言ったんだろう。

変なことを言っていないだろうか。

嫌な思いをさせてしまっただろうか。

どう思われているんだろう。

私はどうして、こんなことをしてしまったんだろう。

返信が来るまでの私は、起きてもいないことまで想像して、自分で自分を責め続けていた。

しばらくして、友人からLINEが来た。

そこには、

「夜中に電話がかかってきたら、どういうこと、どういう関係ってなる」

という言葉があった。

そして、

「お互い家庭があることを、もう一度認識して行動しないといけませんね」

とも書かれていた。

胸がズキッとした。

やっぱり、私は何か言ったのだ。

何を言ったのかは、今でも分からない。

ただ、そのLINEを何度も読み返しているうちに、不思議な気持ちになった。

責められているような気がするのに、同時に、どこか優しさも感じたのだ。

彼は、自分の家庭のことを考えていた。

私の家庭のことも考えていた。

これからも続いていく、みんなとの関係のことも考えていた。

そして最後には、

「こちらも反省しております、飲ませすぎたかなって……」

と書いてあった。

私は、その言葉を見て、ふっと力が抜けた。

ああ。

この人は、ちゃんと考えてくれたんだ。

そう思った。

もちろん、彼が本当は何を思っていたのかは分からない。

私の電話をどう受け止めたのかも、本当のところは分からない。

もしかすると、少し困っただけなのかもしれない。

もしかすると、私が想像するほど深い意味などなかったのかもしれない。

でも、私はこの出来事をきっかけに、自分の心の中を覗いてみることになった。

そして、そこで一つのことに気づいた。

私はもしかしたら、彼に好意を持っていたのかもしれない。

自覚はなかった。

少なくとも、それまで私はそんなふうに考えたことはなかった。

ただ、心のどこかで彼と話したかったのかもしれない。

気にかけてほしかったのかもしれない。

自分を大切に思ってもらいたかったのかもしれない。

酔っていた私は、普段の自分なら隠しているような気持ちを、うっかり表に出してしまったのだろうか。

そう考えると、少し恥ずかしい。

そして、少し怖い。

私はこれまで、「男性は結局、本能的な生き物なのだ」と、どこかで思っていた。

好意を持たれれば、その先には「あわよくば」という気持ちがある。

そんなふうに、若い頃からの経験によって、いつの間にか決めつけていたのかもしれない。

だから、誰かを心から信頼することにも、どこか臆病だった。

けれど今回、私は初めて、

「そうではない人もいる」

ということを、頭ではなく、自分の心で感じた。

人は、誰かに好意を持つことがあってもいい。

心が揺れることがあってもいい。

でも、それでも大切なものを守ることができる。

相手の人生を尊重することができる。

自分の気持ちだけを優先しないことができる。

そんな人が、本当にいるのかもしれない。

それは私にとって、小さな衝撃だった。

そして、なぜだか、とても嬉しかった。

もしかすると私は、ずっとそれを確かめたかったのかもしれない。

「男性にも、誠実な人はいる」

ということを。

自分の体験として、知りたかったのかもしれない。

今回の出来事がなければ、私は自分の中にそんな願いがあったことにも気づかなかっただろう。

だから今、私はあの夜を少し不思議な気持ちで振り返っている。

もちろん、飲みすぎたことは反省している。

記憶をなくすほど飲むのは、もうやめようと思う。

それでも。

あの夜があったからこそ、私は自分の心の奥にあるものを知ることができた。

人に好かれたい自分。

心配してほしい自分。

誰かにとって特別な存在でありたい自分。

そして、そんな自分を「なんて不誠実なんだ」と責める必要もないのだと知った。

人間だから、いろいろな気持ちがある。

大切なのは、その気持ちを持つことではなく、その気持ちをどう扱うか。

私は今回、それを教えてもらった気がする。

そしてもう一つ。

「誠実な人は、ちゃんと存在する」

という希望をもらった。

それは、恋が始まったという話ではない。

むしろ、始めないことを選ぶことの中にある、静かな愛情のようなものなのかもしれない。

相手を自分のものにしない。

自分の気持ちだけを押しつけない。

大切な人たちとの関係を壊さない。

そして、これからも笑って一緒にいられるように、少しだけ距離を大切にする。

そんな優しさがあることを、私は今回初めて知った。

あの夜、私は酔っ払って、少し失敗した。

でも、その失敗のおかげで、自分の心の奥にあるものを見つけた。

そして、人を信じることについて、もう一度考えることができた。

だから今は、あの夜に「ごめんなさい」と言うだけではなく、

「ありがとう」

とも言いたい。

酔った私が、思いがけず電話をしてしまった夜。

その夜は私にとって、

「人を好きになること」と「人を大切にすること」は、同じではない。

そして、

本当に誰かを大切に思うということは、ときには何もしないことでもある。

そんなことを教えてくれた夜だった。 

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