取引先の経理部を名乗る請求書メール。差出人の名前には見覚えがある。添付を開けばいいだけ——のはずが、よく見ると請求書番号の付け方が先月までと違う。
こうした「あと一歩で開いてしまう」メールは、だいたい次の3つの型に集約されます。いずれも架空の一般例です。
型1:請求書・支払通知
取引のある会社を装い、「請求書を添付しました」「お支払いが確認できておりません」と促すもの。添付ファイル、または請求書を見るためのリンクが本体です。金額が普段より少しだけ大きい、締め日が近い、といった「確認したくなる」条件が添えられます。
型2:配送通知・不在通知
「お届けにあがりましたが不在でした」「送料が不足しています」。個人宛のように見えて、実際は会社の代表アドレスや問い合わせ窓口に大量に届きます。追跡番号らしき文字列が並んでいるだけで、実在の伝票とは無関係なことがあります。
型3:経営者・上司のなりすまし
「今は会議中で電話に出られない。至急、下記の口座に振り込んでおいてほしい」。役員や部長の名前で、経理担当者ひとりだけに届く。文面が短く、丁寧で、断りにくい書き方をしているのが特徴です。
どの型にも、開く前に気づける手がかりがあります。担当者がその場で見られる5点を挙げます。
■ 1. 表示名と実際のアドレスのずれ
メーラーが大きく表示しているのは「表示名」で、これは送信側が自由に決められます。差出人をクリックするか、スマートフォンなら名前を長押しすると、実際のメールアドレスが出ます。「田中太郎(◯◯商事)」と表示されていても、実体がフリーメールや見覚えのないドメインなら、そこで一度止まります。
■ 2. 似せたドメイン
実在の会社に似せた綴りが使われることがあります。文字の入れ替え(例:exampleがexarnple)、ハイフンの追加、末尾の.co.jpが.comや別の国コードに変わっている、といった変形です。過去にやり取りしたメールを検索し、そのときのドメインと一字ずつ見比べるのが手堅い方法です。
■ 3. リンクの表示文と実際の遷移先
本文に「https://example.co.jp/invoice」と書かれていても、実際のリンク先が同じとは限りません。パソコンならリンクの上にカーソルを乗せると、画面の隅か吹き出しに実URLが出ます。スマートフォンなら長押しでプレビューが出ます。表示文と遷移先が違う、短縮URLになっている、ログイン画面に飛ぶ——このいずれかなら、クリックせずに保留にします。
■ 4. 添付ファイルの拡張子
「請求書.pdf.exe」のように、拡張子が二重になっているものは注意が必要です。Windowsは初期設定で拡張子を隠すため、「請求書.pdf」としか見えないことがあります。エクスプローラーの「表示」から拡張子の表示を有効にしておくと、この手口はその場で分かります。マクロを含められる形式(.xlsm、.docm など)や、パスワード付きZIPで届いた文書も、心当たりがなければ開かずに送信元へ別経路で確認します。
■ 5. 急かす文面
「本日中」「アカウントが停止されます」「至急」。判断する時間を与えないための書き方です。加えて、いつもと違う連絡経路(社長がメールだけで振込を依頼してくる)、返信先が本文中に別途指定されている、といった要素が重なるほど疑わしくなります。急いでいるときほど、電話や社内チャットなど、メール以外の手段で送信元に確認するのが有効です。
■ 開いてしまった場合の初動3手順
気づかずに開いた、リンク先で入力した——そのときは、慌てずに次の順で動きます。
手順1:端末をネットワークから切り離す
添付を開いた直後であれば、Wi-Fiを切る、LANケーブルを抜く。電源は落とさず、その状態を保ちます。他の端末への広がりを抑えるためです。
手順2:入力した情報に対応する手を打つ
IDとパスワードを入力したなら、そのサービスのパスワード変更と、同じパスワードを使い回している他のサービスの変更。多要素認証(MFA)が使えるサービスなら、この機会に有効にします。クレジットカード情報を入力した場合は、カード裏面の番号からカード会社へ連絡します。
手順3:社内で共有する
「開いてしまった」を隠さない空気をつくることが、いちばん効きます。同じメールは他の社員にも届いている可能性が高く、共有が早いほど次の1人を止められます。金銭的な被害や不正送金がすでに起きている場合は、警察相談専用窓口(#9110)と、IPA(情報処理推進機構)の情報セキュリティ安心相談窓口が相談先になります。
■ 判断に迷うメールが手元にある方へ
上の5点を見ても判断がつかない、社内に説明できる根拠がほしい、という場合は、メール1通ごとの判定を承っています。送信元・件名・本文・リンクの情報をお送りいただければ、判定と、その根拠、取るべき対処をPDFにまとめてお返しします。
不審メール・フィッシングメールの判定と対処案内(3,300円/1通)