今回は、実際に詩として書かれた原案から、一曲の歌詞へリライトした例を紹介します。
この作例は、原案作者の許可を得て掲載しています。
私が原案から歌詞を制作するときに重視しているのは、文章を単にVerseやChorusの形へ並べ替えることではありません。
原案を書いた方が何を伝えたかったのか。
どの言葉や言い回しが、その人の作品らしさを作っているのか。
そこを残したまま、一曲として伝わる構成へ整理します。
原案
「明日、僕はパンケーキが食べたい」
誰もが僕を知ってると うぬぼれて
脇目も振らず 足早に歩いてた 昨日
柄にもなく 僕から声かけてみたけど
僕を知らない君に 打ちのめされた 今日
心落ち着ける場所なんて どこにもなくて
苦手なブラックコーヒー 片手に
いつだって かっこよく 気取ってた
なのに 君は他の誰とも違ってさ
ポーカーフェイスの 僕の心をかき回す
当たり前のように差し出された 砂糖とミルク
僕を知らなかった君が
ありのままの僕を 教えてくれた
飽きるほど見ていた景色さえ
君といると 初めて見るような気持ちになるよ
ふんわり ほっこり あたたかい 君はパンケーキ
君の存在が 幸せを運んでくれるんだ
ついつい はしゃいで 声あげて笑う僕を
僕らしくないと 世間は口を揃えて言うだろうか
Action 何の役にもなりきれる 僕はActor
でも きっと 君といる時の 僕が
一番 僕らしくいられる そんな気がするんだ
明日 パンケーキ 食べに行かないか
映画だって ドライブだって
君に会えるなら なんだっていいんだけどね
明後日は 君を一番近くで 見られるかな
Action 何の役にもなりきれる 僕はActor
でも きっと 君といる時の 僕は
一番 僕らしくいられる そんな気がするんだ
明日 パンケーキが食べたいな 君と二人で
原案から拾ったもの
この原案には、すでに一曲の中心になるものがありました。
「誰もが自分を知っている」という主人公と、主人公を知らない相手。
いつも格好をつけて飲んでいる苦手なブラックコーヒーと、相手が自然に差し出す砂糖とミルク。
何の役にもなれるActorなのに、その相手の前では演じなくていい。
そして、その柔らかさを表すパンケーキ。
この言葉や発想は原案そのものの魅力なので、別の表現へ置き換えるのではなく、歌詞の中心として残しました。
一方で、一曲として聴いたときに主人公の生活や立場がもう少し見えるよう、
人目を避けてスクランブル交差点を駆け抜ける場面
カメラの前で誰かの理想を演じる場面
演技のラブシーンはこなせても、本当の恋ではうまく振る舞えないという対比
などを補っています。
原案を書き換えて私自身の作品にするのではなく、原案にある思いと言葉を、一曲として伝わる形へ広げるという考え方です。
完成歌詞
「明日、パンケーキが食べたい」
[Verse 1]
誰もが僕の
顔を知ってる
そんな気に
なっていた昨日
視線 さけながら
駆け抜ける
スクランブル
ブラックコーヒー片手に
苦い顔さえ
出せなくなって
本当の僕なんて
どこかに置き去りのまま
[Pre-Chorus]
柄にもなく
君に声をかけた
僕を知らない
その瞳に
少しだけ
打ちのめされた 今日
「これ使うよね?」って
当たり前に 差し出された
砂糖とミルクに
甘く溶かされていく
[Chorus]
Action
何の役にもなりきれる 僕はアクター
でも きっと 君といる時の 僕が
一番 僕らしくいられる
そんな気がするんだ
ふんわり ほっこり あたたかい
君はパンケーキ
世界中が知らない僕を
君は知っている
[Verse 2]
ファインダーに
映る僕は
今日も誰かの
理想で 固められて
決められた
作り笑顔だけ
上手くなっていく
君と過ごす時間は
あっという間に
過ぎてしまう
明日 パンケーキ
食べに行かないか
映画でも ドライブでも
[Bridge]
君の隣で 笑っていられるなら
それが 僕の幸せ
軽くこなしてきた ラブシーン
君とのリアルは
全然 うまくできないな
[Final Chorus]
Action
何の役にもなりきれる 僕はアクター
でも きっと 君といる時の 僕は
一番 僕らしくいられる
そんな気がするんだ
ふんわり ほっこり やわらかい
君はパンケーキ
世界中が知らない僕を
君だけが知っている
[Outro]
明日 パンケーキ 食べたいな
君と二人で
明後日は
一番近くで 君を 見ていたいな
原案を「自分の作品のまま」歌詞に
詩、散文、小説、歌詞原案などから歌詞を制作する場合、元の文章をどの程度残すかに一つの正解はありません。
そのため、制作前に、
残したい言葉は何か。
どこまで場面を補ってよいか。
原案そのものを優先するか、歌詞としての自由度を上げるか。
などを確認します。
原案を書いた方の言葉を消して、私自身の歌詞へ置き換えることが目的ではありません。
その人が書いた作品として残る一曲にする。
今回のサービスでは、そこを大切にしています。