港町で、人の話を聞いていたころ

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いま、返事を待つ夜を過ごしているあなたへ。占い師の香夜(かや)です。今日は少しだけ、子どもの頃の話をさせてください。わたしは瀬戸内海の小さな港町で生まれ育ちました。凪いだ海と島々に囲まれた場所で、両親にも友人にも恵まれて育ちました。波の音が高く立つ日は少なく、たいてい静かに凪いでいて、代わりに人の話し声のほうがよく耳に残る町でした。朝は漁から戻ってくる声、昼は市場でのやり取り、夕方は誰かの家先から漏れる笑い声。そういう生活の音に囲まれて、わたしは育ちました。そのころのわたしは、ほかの何かが得意な子どもだったわけではありません。ただ、人の話を聞くのが好きでした。誰かが困った顔をしていると、その隣に座って、話が終わるまでじっと聞いている。それだけのことが、なぜか自然にできる子どもだったのだと思います。答えを出してあげようとか、こうしたほうがいいと教えてあげようとか、そんな大それたことは考えていませんでした。ただ、話している相手の表情が、話し始めたときより少しだけやわらぐ瞬間があって、それを見るのが好きだったのです。気づけば、わたしはよく相談役になっていました。誰かの隣に座って、ただ話を聞くというだけの役割です。特別な言葉をかけていたわけではなく、黙って、最後まで聞いていた。話の途中で言葉に詰まっても、急かさずにただ待つ。それだけは、誰に教わったわけでもなく、自然とできることでした。それだけで、相手の肩からふっと力が抜ける瞬間があることを、あの町で知りました。うまく言葉にできない気持ちを抱えたまま黙り込んでいた人が、聞いてもらえたというだけで、少しだけ背筋を伸ばして帰っていく。そんな後ろ姿を、何度も見送りました。海は、昼と夜とでまったく違う顔を見せます。日が高いうちは凪いでいた水面が、日が沈むころには急に重たい色に変わる。人の気持ちも、それとよく似ているのだと、その頃から漠然と感じていました。昼間はなんでもないふりをしていた人が、夜になると声のトーンだけで、本当は苦しいのだと分かる。そういう瞬間に、幼いなりに何度も立ち会いました。夜の海の色が変わっていくのを眺めながら、人の心も同じように、昼のあいだは奥にしまっておけるのだと、その頃に知りました。今、四柱推命で命式を読むときも、わたしがいちばん大切にしているのは、あの町で覚えたことと変わりません。占術の理屈より先に、まず目の前の人の話を、最後まで聞くこと。命式を開くのは、そのあとです。命式に書かれている性質そのものは生まれた日から変わりませんが、それをどう受け取り、次の一歩に変えていくかは、話を聞かせてもらってはじめて見えてきます。もし今夜、誰にも言えずに抱えている話があるなら、まずひとことだけ、わたしに聞かせてください。うまく言葉にならなくても、急がなくて大丈夫です。命式を並べる前に、あなたの話を最後まで聞かせてもらいます。
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