新郎新婦をアニメにすれば、全員泣くと思っていました。|結婚式ムービー制作記
結婚式ムービーの制作や依頼を考えている人も
たまたま迷い込んだ人も
はじめまして。
「どらまいず」というこのアカウントで
結婚式ムービーの制作をすることになった僕です。
名前は「いちぺぇじ」です。
▼僕たちの自己紹介はこちら
前回。
友人の結婚式ムービーを作ることになった僕は
AIに写真を入れて
「感動的にしてください」
とお願いしました。
AIを、魔法の炊飯器だと思っていたのです。
素材を入れる。
ボタンを押す。
しばらく待つ。
感動、炊き上がり。
もちろん、そんなわけはありませんでした。
出てきたのは、
知らない外国人の新郎。
途中から髪が伸びる新婦。
親族より目立つ白馬。
そして、誰も頼んでいない壮大な夕焼けです。
僕はそれらを編集ソフトに並べました。
写真を右から左へ。
文字を下から上へ。
静かなピアノを添えて。
ダサい。
我ながらダサすぎる。
完成したのは、
結婚式ムービーではありません。
市民会館で開催される、
「平成を振り返る思い出上映会」
でした。
そんな僕に、どらまいず監督は言いました。
「ページくん。編集の前に、設計だ」
設計。
僕の人生で、ほとんど成功したことがないものです。
人生を設計せず東京へ行き、
何も考えずに結婚式のオープニングムービーを引き受けた僕。
今から他人様の人生を設計します。
神様も、そこまでは想定していなかったと思います。
🎬どんなムービーを作りたい?
監督は、真っ白な企画書を開きました。
そして聞きました。
「どんな結婚式ムービーを作りたい?」
自由回答です。
僕は自由回答が苦手です。
アンケートの最後にある、
「ご自由にお書きください」
を見た瞬間、
それまで持っていたすべての思想が消えます。
今回も、脳内から全員帰宅しました。
それでも僕は答えました。
「感動的な、アニメ映画みたいな、すごいやつです」
企画史上、かなり下の方にいる回答です。
監督は聞きました。
「何を見て、感動するの?」
開始一分で詰みました。
僕はまだ編集ソフトすら開いていません。
🎬とりあえず、城を出そうとしました
悪魔くんが言いました。
「結婚式やろ。城や」
夜空。
星。
馬車。
赤い糸。
光る蝶。
最後に大きな扉がバーン。
人類が感動しそうなものを、
スーパーの詰め放題のように入れました。
映像としては、きっときれいです。
でも監督は言いました。
「これは、誰の物語?」
新郎新婦を別の二人に変えても成立する。
犬と猫に変えても、たぶん成立する。
僕は、
ふたりだけの映画を作ろうとして、
誰にでも貸し出せる城を建設していました。
🎬新郎新婦をアニメにすれば、特別だと思っていました
次は、新郎新婦をアニメの主人公にすることを考えました。
幼い頃。
学生時代。
出会い。
デート。
プロポーズ。
結婚式。
ふたりが映画の登場人物になる。
これは絶対に特別だと思いました。
僕も現実よりアニメになった方が、
目に光が入るので助かります。
しかし監督は、また聞きました。
「アニメになること自体が、このサービスの価値なの?」
たしかに、
写真をアニメに変えるだけなら、
すごい。
きれい。
かわいい。
映画みたい。
そこで終わります。
僕たちが作りたいのは、
一瞬だけ「すごい」と思われる映像なのか。
結婚式が終わったあとも、
家族の中に残る映画なのか。
僕たちは、一度立ち止まりました。
🎬恋愛だけを追うのも、少し違いました
次に考えたのは、ふたりの恋愛物語です。
別々の場所で育ったふたり。
ある日、小さな店で出会う。
目が合う。
恋が始まる。
海へ行く。
喧嘩する。
仲直りする。
プロポーズ。
結婚式。
映画としては、とても分かりやすい。
でも監督は言いました。
「これだと、ふたりの人生が出会った日から始まっている」
ふたりは、
出会う前から生きていました。
家族がいた。
友人がいた。
泣いた日があった。
くだらないことで笑った放課後があった。
毎日歩いた道があった。
帰る家があった。
なのに僕は、
出会う前の人生を数秒のダイジェストにしていました。
幼少期、〇・五秒。
学生時代、〇・五秒。
就職、一秒。
はい、出会いました。
人生の大部分を、
コンビニのおにぎりより雑に包装していました。
🎬一枚の写真の前後には、何があったのだろう
監督は、一枚の古い家族写真を出しました。
幼い女の子と、若い母親。
少し色あせた、どこにでもありそうな一枚です。
監督は聞きました。
「この写真を撮る前、お母さんは何をしていたと思う?」
娘の服を選んでいたのかもしれない。
寝癖を直していたのかもしれない。
泣いていた娘を、ようやく笑わせたのかもしれない。
「撮ったあとには?」
幼い娘は母親の手を離れ、
部屋の外へ走っていったかもしれない。
廊下があった。
玄関があった。
庭があった。
その一枚の前にも、あとにも、
家族の時間は続いていた。
写真に残っているのは、
人生のほんの一瞬です。
僕たちが動かしたいのは、
写真の中の人物だけではありませんでした。
写真の周りにあった、
もう残っていない時間です。
僕は企画書に、一行だけ書きました。
写真の外側に、人生がある。
🎬写真がないから、描けないわけではない
若い父親が、
慣れない手つきで赤ちゃんを抱いた朝。
発表会の舞台袖で、
母親が娘のリボンを結び直した時間。
雨上がりの帰り道、
父親の自転車の後ろに乗った少年。
試合に負けて俯く新郎の肩を、
友人が黙って叩いた瞬間。
写真は残っていないかもしれません。
でも、覚えている人がいる。
言葉にして聞かせてもらえれば、
その記憶を、一つの映画のシーンとして考えることができます。
どらまいずでは、
写真の枚数だけを見てムービーを作るのではなく、
その写真の周りにあった出来事を聞きたいと思っています。
誰といたのか。
どんな場所だったのか。
何がうれしかったのか。
今でも忘れられない言葉はあるか。
ご本人にとっては、
「こんな話、ムービーに使えるのかな」
と思うような、小さな記憶かもしれません。
でも、その小さな記憶こそが、
ほかの誰にも作れない物語になります。
🎬主人公は、ふたりだけではありませんでした
結婚式の主役は、新郎新婦です。
でも、ふたりの人生をたどっていくと、
たくさんの登場人物がいます。
不器用に赤ちゃんを抱いた父親。
眠れない夜に背中を撫でた母親。
喧嘩ばかりしていた兄弟。
夏休みにスイカを切ってくれた祖父母。
くだらない話で笑った友人。
負けた日に、何も聞かず隣を歩いてくれた仲間。
ふたりは、一人で今日まで来たわけではありません。
結婚式の日。
スクリーンの中に映る、若い頃の父親。
それを見る、現在の父親。
幼い娘の背中を押す母親。
その場面を見る、現在の母親。
学生時代の教室で笑う新婦。
それを見て泣き笑いする友人。
その瞬間、
映画に映っているのは、新郎新婦だけではありません。
会場にいる人たち自身の時間も、
スクリーンの中に流れています。
僕たちが作りたいのは、
新郎新婦だけを美しく見せる映画ではありません。
ふたりを今日まで愛してきた人たちへ、
あなたも、この物語の大切な登場人物でした。
と伝えられる映画です。
🎬有名な城より、毎日歩いた道を描きたい
人を育てるのは、人だけではありません。
毎朝歩いた坂道。
部活帰りに寄った店。
雨の日に電車を待った駅。
自転車で走った海沿いの道。
少しずつ古くなっていく実家。
本人にとっては、何でもない景色です。
有名な観光地でもない。
Googleの口コミは二件。
一件は、
「道が狭いです」
です。
それでも、その景色の中で人は育っています。
映画のような城を描くこともできます。
でも僕たちは、
ふたりが一度も行ったことのない城より、
何百回も歩いた名前のない道を描きたい。
その方が、
本当にふたりだけの映画になると思うからです。
🎬ムービーを見る人の表情まで、想像して作りたい
サービスの特徴を説明するだけなら、
家族も登場できます。
景色も再現できます。
写真のない記憶も描けます。
と、順番に並べれば終わります。
でも僕たちは、
このサービスを頼んだ結婚式で、
何が起きるのかを描きたいと思いました。
披露宴会場が暗くなる。
スクリーンに、一枚の古い写真が映る。
止まっていたカーテンが風に揺れる。
幼い新婦が、写真の外へ走り出す。
若い父親が、赤ちゃんの新郎を抱き上げる。
友人と笑った放課後が動き始める。
写真には残っていなかった家族の時間が、
一本の映画になる。
その映像を見る父親。
母親。
祖父母。
友人たち。
そして映画の中のふたりが扉へ向かった瞬間、
現実の披露宴会場の扉が開き、
新郎新婦が入場する。
ムービーの価値は、
映像がきれいなことだけではありません。
その映像を見た大切な人が、
どんな顔をするのか。
何を思い出すのか。
誰の手を握るのか。
その時間まで考えて作りたいと思っています。
🎬どらまいずが作りたいもの
僕たちが作りたいのは、
写真をアニメに変換するだけのサービスではありません。
ふたりの別々の人生を、
出会いへ向かう一本の物語として考える。
家族や友人を、
背景ではなく登場人物として描く。
実家や学校、通学路や町を、
その人だけの映画の舞台にする。
写真には残らなかった記憶を、
ヒアリングから一つの情景にする。
だから、
最初から決まったテンプレートに、
写真を当てはめる作り方にはしたくありません。
お話を聞きながら、
どの記憶を中心にするのか。
誰に、どんな気持ちを届けたいのか。
結婚式の日に、会場で何が起きてほしいのか。
そこから一組ごとに考えます。
時間はかかります。
ボタン一つで完成もしません。
神がせっかく人類にAIを与えたのに、
僕たちは結局、話を聞き、悩み、企画書を書いています。
神からすれば、
「そこは少し楽をしなさい」
と思うかもしれません。
でも、
ふたりの人生を一本の映画にするなら、
簡単に決めてはいけない部分があると思っています。
企画書の一行目が、ようやく決まりました。
写真の外側に、人生がある。
写真を並べるのではなく。
家族も。
友人も。
育った景色も。
写真には残らなかった記憶も。
ふたりの人生を、一本の映画にする。
どらまいずが作りたいものが、
ようやく見えてきました。
悪魔くんが聞きました。
「で、誰が作るん?」
僕です。
「家族も友人も、若い頃の両親も?」
はい。
「幼少期から大人まで、顔は全部そろうん?」
……。
思想は決まりました。
コンセプトも決まりました。
ただし、
映像はまだ一秒もありません。
僕は壮大な映画を設計した結果、
自分で自分の処刑台を設計していました。
次回。
AIで結婚式オープニング用のアニメ映画の素材を作ろうとしたら、
新郎が三人になり、
新婦が途中で転生し、
父親が主人公の座を奪いました。
ページくん、生成を始めます。
神には、
もう少しだけ付き合っていただきます。
誰もが、物語の主人公になれる。
僕以外は。
Drama Is...
どらまいず