「誰かが嘘をついている」
このように感じる時が稀ににあります。
こんにちは、FP1級の星です。
FP1級として様々なご相談を受けていると、知見・知識・経験だけでは解決できない、人間の心理や家族の複雑なドラマに遭遇することがあります。
今回は、数年前に「娘の結婚資金」についてご相談に来られた、あるご夫婦のお話です。(※当時の混乱はそのままに、内容は少し変えております)
タイトルは「誰かが嘘をついている」としました。
——まさにそんなミステリーのような違和感から始まったご相談でした。
第1章:品の良いご夫婦の「軽めの相談」
この時は喫茶店でしたが、ご相談にやってこられたのは、非常に身なりのきちんとした、品の良い50代のご夫婦でした。2人の娘さんがいらっしゃり、今回はその長女さんが結婚されるとのこと。
普段の私は、ご家庭の収入・支出・保有資産などをすべて伺った上でライフプラン表(キャッシュフロー表)を作成するスタイルをとっています。しかし、その日のご夫婦は「本格的な診断ではなく、ちょっとした質問だけ」というスタンスでした。
ご主人「長女の結婚資金について、親としてある程度は支援してあげたいと思っているんです。ただ、恥ずかしながら最近出費が多くてまとまった預貯金が手元に入らず……結婚資金を銀行などで借り入れることはできるのでしょうか?」
私「ええ、結婚資金を借り入れることは可能です。銀行によっては『ブライダルローン』という専用の目的別ローンが用意されていますね。」
奥様「金利は安いのかしら?」
私「そうですね。使い道が限定されている分、フリーローンやカードローンに比べれば金利はかなり低く設定されています。ご主人名義で借り入れをご検討ですか?」
ご主人「はい、そのつもりです。娘に借金を背負わせるわけにはいきませんから。」
私はご夫婦に「ブライダルローンという商品がある」ということだけをお伝えし、ご夫婦も「ネットで確認してみます」とのことで、その日の会話はごく自然に終わりました。
第2章:次々と露呈する「矛盾」
しかし、ここから事態は奇妙な方向へと転がり始めます。
実は偶然なのですが、私はこのご夫婦の長女さんも、次女さんも知っていました。
ご相談を受けた日の帰り道、たまたま長女さん(当時28歳)に遭遇したのです。
私「ご結婚するんだって? おめでとう!」
声をかけた私に対し、長女さんは私が冗談でも言ってきたかのような表情で、不思議そうにこう返しました。
長女「え? 私はまだ結婚しませんよ? 相手もいませんし……」
一瞬狐につままれたような気分を覚えつつ帰宅した私ですが、その日は、あれ?次女の方と勘違いをしたかな?と思い、そのまま帰宅しました。
その2日後、今度は仕事関係でたまに会う次女さん(当時24歳)にお会いしました。
長女さんで間違ってしまいましたので、今度こそはと「おめでとうの意」を伝えます。
私「ご結婚おめでとう!」
すると、次女さんは不思議な感じで私を見ました。
次女「えっ、私はまだ結婚しませんよ? 私も彼氏もまだ若いし、無事お付き合いが続いていたら、あと2年後くらいかな? ……でも星さん、彼氏のこと知ってたの? まだ家族にも言ってないのに……、一緒に彼氏と歩いてるとことか見たのかな??」
妹さん(次女さん)でもなかった。誰が結婚するのだろうか?
頭の中で整理してみます。
〇ご夫婦は「長女の結婚資金でブライダルローンが必要だ」と言っていた。
〇長女は「結婚の予定も相手もない」と言っていた。
〇次女は「彼氏はいるが結婚はまだ先。家族にも話していない」と言っていた。
唯一嘘がないシナリオとして「次女に彼氏がいることを聞いて、勝手に親が舞い上がった」と考えようにも、次女は親に話していないと言う。この好意的な解釈には無理がありすぎる。
となると、手元に残る事実はただ一つ。
『娘は二人ともすぐには結婚しない』ここだけは確定した。
将来的にはするのかもしれないが、現時点で明確な予定はない。
つまり、矛盾している。
「誰かが嘘をついている」
そして、嘘を言っているのは誰か?
ここまでくると、経験則的に、自ずと答えは見えていました。
第3章:焦った電話と「現金の謎」
「ほったらかしにしておけば、いつか向こうから動きがあるだろう」と思い数日が経過した頃、ご夫婦から少し焦った様子で電話がかがかかってきました。
ご主人「以前ご相談したブライダルローンについてだけど、少し困ったことがあってね。知恵を借りたくて電話したんだ。」
私「そうなのですね。何かお困りごとがありましたか?」
ご主人「私でなくて、妻が借りるようにしたんだが、式場などに直接金融機関が入金すると言っているんだ」
私「そうですね。用途が決まっているローンですから、当然そのような扱いになります。」
ご主人「どうにか手元に現金を置いておきたいんだが、どうにかできないか?」
私「手元に現金を置いておく? 用途が決まっているローンですので、それはできないと思います。例えば式代が150万で、手元に150万の合計300万を借りたいとしても、直接支払える150万しか承認されません。支払いまでがワンセットですから。……金融機関によっては領収書の後日提出で承認しているところもあるとは聞いたことがありますが……」
ご主人「その金融機関はどこですか!?」
食いつくご主人に、私は慎重に問いかけました。
私「どの金融機関かはわかりませんが……私からもよろしいですか? なぜ手元に現金が必要なのですか?」
ご主人「それは……結婚した後に現金を包みたいと思っているからだ!」
私「お気持ちはわかりますが、必要なのは結婚式代ですよね? 式費用をローンで直接支払って、手元のお金で娘さんに現金を包んではどうでしょうか?」
ご主人「その現金がないから借りようとしているんだが!!」
ご主人の声に苛立ちが混じります。
私「そもそも、なぜ借り入れが奥様になったのですか? ご主人で借りると言われていた気がしますが……」
奥様「夫の審査が通らなかったので、私が審査して借りることになりました。」
スピーカーホンにされていたようで、奥様からの回答がありました。
奥様「審査には通りました。提出資料として式場の見積もりも取って渡しています。ただ、現金でもらうことはできないのですね?」
私「基本的にできないと思います。」
奥様「そうですか、ではここまでですね。借り入れは辞退いたします。」
私「……はい。その方が良いと思います。」
電話の向こうでご主人ともめているような声が一瞬聞こえましたが、すぐにプツリと電話は切れました。
第4章:明かされた真相と、最後に残っていた「親心」
そう、このような矛盾が起きた時、嘘を言うのは多くの場合「お金を借りる必要がある人」なのです。
後日分かった真相は、あまりにも切なく、そして根深いものでした。
ご主人は根っからの「見栄っ張り」で、身の丈に合わないプライドを保つために、数年前から隠れてFX(外国為替証拠金取引)に手を出していました。最初は軽い気持ちでしたが、損失が出るたびに取り返そうと熱くなり、消費者金融やカードローンで借金を重ねて多重債務に陥っていたのです。
ご主人の信用情報ではすでに限界を超えており、自らローンを組むことは不可能です。
追い詰めたご主人が思いついた悪手に、奥様が巻き込まれました。
ご主人は奥様に「実は事業や投資で一時的に現金が必要になった。長女の結婚資金という名目でブライダルローンを組めば、金利も低く大きな現金が手に入る。式場の見積もり書(見学時にもらった概算書)を出せば借りられるはずだ」と泣きついたのです。
奥様も最初は困惑したものの、「夫の危機を救いたい」「世間体を保ちたい」という思いから、長女の結婚という嘘の口実を使い、自らが名義人となってローンを騙し取る「共犯」になりかけていたのでした。
しかし、銀行の「式場への直接振込」という仕組みによってその企みは阻止され、危機一髪のところで不正融資(詐欺行為)に手を染めずに済みました。
そして、この話にはもう一つの真実があります。
これほどまでに追い詰められ、妻を巻き込んで嘘を重ねていたご主人ですが、社会人として働いている娘たちには、最後まで一切お金を無心することも、頼ることもありませんでした。
「子どもにだけは心配をかけたくない」「自分の失敗で娘たちの未来や財産を奪うわけにはいかない」——
どれほど愚かで身勝手な嘘をついていても、娘たちには何も言わなかったこと、お金を無心しなかったことは、父親として最後に残っていた「親心」だったのかもしれません。(何となく言えなかったのだと思います)
娘さんたちは何も知りませんでしたが、多重債務の整理の段階で、共有せざるを得ず、両親を状況をここで知ったようです。
この事例から学ぶ「FP視点の教訓」
今回のエピソードから、私たちが学ぶべき教訓は3点あります。
1. 目的別ローン(ブライダルローン等)の厳格さ
ブライダルローンやマイカーローンなどの目的別ローンは金利が低い分、使い道のチェックが非常に厳格です。見積書や振込先の確認は徹底されており、「手元に現金を入れて自由に使いたい」という虚偽の申請は審査段階で必ず見抜かれます。虚偽申告は契約違反だけでなく、最悪の場合は詐欺罪に問われるリスクがあります。
2. 「見栄」と「隠し事」が家計を破壊する
FXや投資での損失を隠すために借金を重ねるパターンは、家計破綻の典型例です。「プライド」や「見栄」を守るために重ねた嘘は、最終的に家族全員を巻き込む大きな破滅へとつながります。
3. 「頼らないこと」と「隠すこと」は違う
子どもに心配をかけまいとお金を無心しなかった「親心」は尊いものです。しかし、自分たちだけで問題を隠し持ち、不法行為(不正融資)に手を染めそうになっては元も子もありません。頼れないからこそ、早期に弁護士やFPなどの専門家へ相談する勇気が必要です。
結び:
<前向きな一歩を踏み出すために>
その後、不正融資を諦めたご夫婦は、私の勧めもあり、専門の弁護士のもとへ相談に行かれました。ご主人の債務は法律に基づいた手続き(任意整理・自己破産)に入り、ご夫婦は本当の意味で「隠し事のない生活」を一からやり直すことになりました。
嘘で固めたブライダルローンが成立しなかったことは、ご夫婦にとっても、何も知らない娘たちにとっても人生の破滅を防ぐ「最後の安全装置」だったと言えます。(あくまで結果として)あれ以上進めそうであれば。私が止めていました。
「お金の嘘」は、一度つくと次の嘘を呼び、最終的に大切な家族の信頼関係まで破綻させます。しかし、どんなに苦しい状況であっても、嘘をやめて現状を正しく直視すれば、やり直すための選択肢は必ず用意されています。
親が子どもに見せるべき本当の愛とは、無理をして見栄を張ることではありません。「自分の失敗に正直に向き合い、健全で嘘のない暮らしを取り戻すこと」です。
ご家庭の中で「言えないお金の悩み」や違和感を抱えている方は、事態が取り返しのつかないことになる前に、ぜひ勇気を持ってご相談ください。
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ここでブログはおしまいです。
まれにご相談を受けるときに家族の認識がバラバラの時があります。
例えば親から出してもらったお金が、兄から見ると「弟は親からお金を借りている」といった認識になっているなどのことは多くあります。人の心や都合でいくらでも認識は変化してしまいます。
何かの整理されたい場合は下の入口からお尋ねください。