創業支援で見極めが特に難しい「ヒト」の要素
創業・起業の成否を分ける要素として、「ヒト・モノ・カネ」が挙げられますが、中でも最も重要でありながら、最も評価・言語化が難しいのが「ヒト(経営者本人)」です。
私たち税理士や行政書士などの専門家が、日々多くの創業者と向き合う中で痛感するのは、事業計画の数値以上に「誰が経営するのか」が資金調達や事業継続の鍵を握るという事実です。
今回は、創業・起業における「ヒト編」として、経営者に求められる要件と資質の本質について、金融機関や支援者の視点を交えながら紐解いていきます。
1. 経営者の構成要素:「基本要素」と「資質」の違い
経営者を評価・理解する上では、要素を大きく2つに分けて考える必要があります。
基本要素(客観的に判断しやすい事項)
学歴、職歴、業界経験年数
保有する資格、許認可、専門知識
これまでの実績や技術力
経営者の資質(短時間では判断しづらい内面・人間性)
情熱、決断力、判断力
柔軟性、倫理感、タフさ(精神的・肉体的強靭さ)
想像力、共感力
基本要素と資質のギャップ
学歴や職歴、保有免許といった基本要素は、履歴書や経歴書を通じて客観的かつ短時間で把握が可能です。資金調達の場面や初期の営業活動においても、この基本要素は金融機関や取引先に理解してもらいやすいという特徴があります。
しかし、経営者の「資質」は、短時間・短期間の面談だけでは極めて判断しづらいという本質的な難しさを抱えています。
2. 金融機関の視点:なぜ「資質」はすぐに見えないのか
資金調達の現場(特に創業融資)において、金融機関の担当者が経営者と対面し、その良し悪しを判断するプロセスには限界があります。
初期段階は「基本事項」の確認が中心
金融機関が限られた審査期間の中で確認するのは、主に事業計画書の妥当性、自己資金、過去の経歴や資格といった基本事項がメインとなります。
物理的な時間不足
融資審査の現場において、経営者の「資質」の深部まで入り込んで十分に理解する時間を確保することは、実務上なかなか困難です。
資質が判明するタイミングのズレ
経営者の本当の資質(困難に直面した時の対応、利害関係者への向き合い方、変化への適応力など)が明確に判明するのは、開業後しばらく期間が経過してからというのが大半です。
だから新規や初期段階での大きな支援は実施しがたいのです。
3. 専門家(税理士・行政書士)が果たすべき真の役割
金融機関が短期間で把握しきれない「経営者の資質」を補い、円滑な資金調達や事業立ち上げにつなげること。ここに、私たち士業・専門家が介在する価値があるのではないでしょうか。
「資質」をいかに表現・翻訳するか
創業者自身が自らの熱意やタフさ、共感力を客観的にアピールすることは案外難しいものです。経営者の内面にある強みを、外部に伝わる言葉に翻訳・表現することが求められます。
金融機関や連携先への「ヒト的要素」の情報提供
金融機関やその他の支援・連携先に対して、単なる数字や事業計画の解説にとどまらず、「この経営者はどのような人間性・資質を持ち、いかなる困難も乗り越える力があるか」というヒト的要素を伝えてあげること。
信頼の架け橋としてのサポート
専門家が第三者的な立場で経営者の背中を押し、信頼の架け橋となることで、金融機関も安心して創業支援融資や継続的な伴走支援を行うことができます。
経営者の魅力を引き出し、伝えるパートナーへ
創業・起業の現場において、経営者の「ヒト」にフォーカスし、その基本要素の裏にある「資質」を見極め、言語化して外部に伝えること。
これも、日頃から経営者に寄り添う専門家だからこそできる重要な役割です。
数値や条件面だけでは測れない「経営者の魅力」を正しく伝え、金融機関をはじめとするステークホルダーとの強固な信頼関係を築くサポートを、これからも深めていきたいものです。