——直せないもの、正直に全部言います
今回からブログを始めます。普段はミックス・マスタリングや作編曲、楽曲制作を仕事にしています。音楽を楽しんでいる方の役に立てればという気持ちで書いていきます。趣味の方はもちろん、プロの方にも役立つ話もしていくつもりなので、よろしくお願いします。
第1回は、こんな話です。タイトルだけ見ると煽りに見えるかもしれませんが、これは大袈裟でも脅しでもなく、実務でよくある「本当の話」です。
「とりあえずMIXに出せば、なんとかなる」——ボーカルミックスを外注しようと考えている方の多くが、心のどこかでそう思っているのではないでしょうか。
結論から言うと、半分正解で半分誤解です。今回は、普段の制作の立場から、ミックスで本当にできること・できないことを正直に話してみます。
ミックスにも限界がある
ミックスの技術でできることは、確かに多いです。
・音程・タイミングのズレを直す
・音量バランスを整える
・音質・音圧を整える
ここまでは、ミックスの一般的な仕事の範囲です。
ただし、その声が持っている「ニュアンス」や「質感」そのものを作り変えることは、基本的にできません。
「もっと甘い声に」「もっと力強い声に」——こうしたご要望をいただくこともありますが、無理に元の声質から遠ざけようとすると、不自然な仕上がりになってしまいます。
これは、ピッチやタイミングの修正も根っこは同じです。少しのズレを整える分には自然に仕上がりますが、無理に大きく補正しようとすれば、やはり不自然になります。ニュアンスや質感の作り替えは、それよりさらに難しい領域にあるという、程度の差だと考えてください。「ここまでは直せるけど、ここから先は不自然になる」というラインは、どんな修正にも存在します。
ミックスは、ボーカルの良さを最大限引き出す工程であって、別のボーカルに作り変える工程ではない——ここを押さえておくと、依頼のイメージがぐっと現実的になります。
複数人での歌ってみた・コラボ曲は要注意
実務でよく直面するのが、複数人が参加する合唱・コラボ企画のMIXです。
歌い手それぞれの収録環境や条件がバラバラだと、ミックスだけで統一感を作るのはかなり難しくなります。マイクなど機材の差自体は、最近の機材ならそこまで破綻の原因になりません。むしろ問題になりやすいのは、マイクとの距離や角度、ゲイン設定、部屋の響き方など、「そもそも近い条件で録れていない」ケースです。ここまでいくと、ミックスでは直しきれません。
具体的にどう録ればいいか(マイクの距離・角度、部屋の選び方など)は、話すと長くなるのでまた別の記事で。今回は「結果の半分近くは、収録の時点ですでに決まっている」ということだけ覚えておいてください。
企画・ディレクションを担当する方は、収録を始める前に、一度ミックス担当者に相談するのがおすすめです。「この条件で録れば後で揃えやすい」というアドバイスは、収録後より収録前の方が圧倒的に効きます。「圧倒的」です。
ミックスは「メイク」のようなもの
普段、依頼者の方によくお伝えしている例えです。
ミックスは、メイクのようなものです。
どんなに良い化粧品を使っても、睡眠不足で肌のコンディションが悪ければ、メイクは思うように映えません。
同じように、楽曲そのものの良さ、選曲、演奏・打ち込みの質、アレンジ、録音の音質——これら「素材」の状態が良いほど、ミックスは何倍にも効果を発揮します。逆に、素材の状態が良くないまま「あとはミックスでなんとかして」となると、どうしても無理が生じます。
依頼前にできること
すべてを完璧にコントロールするのは初心者には難しいですが、いくつか押さえるだけで仕上がりは大きく変わります。
・録音はできるだけ静かで反響の少ない環境で
・音割れ(クリッピング)は絶対に避ける(録音後の修正はほぼ不可能です)
・複数人企画なら、収録前に環境(マイク・部屋・条件)をすり合わせておく
・「こういう声にしたい」ではなく「この曲のこの部分の雰囲気に近づけたい」と、参考音源を用意する
これだけでも、ミックス側でできることの幅がぐっと広がります。
まとめ
・ミックスは「魔法」ではなく、ボーカルの良さを引き出す工程
・複数人企画では、収録前のすり合わせが何より重要
・良い素材があってこそ、ミックスは活きる
もし「この状態でミックスに出して大丈夫かな」と迷ったら、遠慮なく聞いてください。依頼を考えている方も、これから始める方も、困ったらぜひ相談してもらえたらと思います。良いものを作りたいというのが根っこにあるので、そこにかける労力は惜しまないつもりです。
……なんて言いつつ、実はレッスンもやってます(笑)。困ったときの相談ついでに、そちらも覗いてもらえたら嬉しいです。