昔、ラウンジで働いていました

昔、ラウンジで働いていました

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コラム
わたしは、少し前まで
ホテルの中のレストランやラウンジで働いていました。
静かで丁寧な空気が流れる場所。

けれどそのぶん、お客様の言葉にならない感情が伝わってくることも多くて――
「人の心を読む力」が必要とされる仕事だったように思います。

ある日のこと。
いつも明るく場を和ませてくれる常連のお客様が、
その日は少し様子が違っていました。

注文されたのは、いつもとは違うお酒。
その理由を、私は聞きませんでした。
ただ静かに、他のお客様を接客しながら、その方を見守っていました。

やがて客足が落ち着いた頃、
その方はぽつりと、こう言いました。

「母が、亡くなったんです。
毒親だったから、いなくなってくれたらいいとずっと思っていた。
けど…実際いなくなったら、心にぽっかり穴が空いてしまって。
――これって、なんなんでしょうね」

そして最後に、
「変な話を聴かせちゃって、ごめんね」と、照れたように笑ったその表情を、
今もわたしは忘れられません。

感情は、白か黒かで割り切れないもの。
好きと嫌い、憎しみと愛情、
それらがひとつの心の中で同時に存在してしまうこともある。

その矛盾こそが、人間の本音なのだと感じた出来事でした。
接客という仕事をしていた頃、
私は「お客様のプライベートには立ち入らない」という距離感を大切にしていました。

けれど同時に、
言葉にできない気持ちにそっと寄り添う――そんな拠りどころになりたいとも思っていました。

その思いが、今はタロット占いという形になっています。
わたしは占い師として、未来を決めつけることはしません。

ただ、カードに映し出された
「あなたのまだ言葉にならない気持ち」を、
そっと、なぞるように見つめていきたいと思っています。

ラウンジの片隅で、あの日のあなたに出会ったように――
この場所でもまた、静かに心に寄り添えたら幸いです。

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