プログラミングやWeb制作を学び始めたとき、よくおすすめされる練習方法のひとつが「模写コーディング」です。
既存のWebサイトやデザインカンプを見ながら、HTMLやCSSを使って同じ見た目を再現していく方法です。
模写コーディングは、基礎力を身につけるうえで非常に効果的です。
ただし、模写をたくさんこなせば、自然とWeb制作の仕事ができるようになるわけではありません。
模写で身につく力と、模写だけでは身につかない力は、明確に分けて考える必要があります。
今回は、模写コーディングを通して身につくこと・身につかないことを整理します。
模写コーディングで身につくこと
1.HTML・CSSを書くことへの抵抗がなくなる
模写を始めたばかりの頃は、
「この部分はどのタグを使えばいいのか」
「横並びにするにはどう書けばいいのか」
「余白はどこに指定すればいいのか」
と、ひとつずつ調べながら進めることになります。
しかし、何度も繰り返していると、よく使う書き方が少しずつ定着してきます。
たとえば、
見出しや文章のHTML構造
Flexboxを使った横並び
Gridを使ったレイアウト
marginやpaddingによる余白調整
画像サイズの調整
ボタンやカードの装飾
といった基本的な実装は、何度も書くことで自然に使えるようになります。
最初は検索しながら書いていたコードも、徐々に手が止まらず書けるようになります。
これは模写コーディングの大きなメリットです。
2.Webサイトの構造を見る力が身につく
模写をしていると、完成したWebサイトをただ眺めるのではなく、構造を分解して見るようになります。
たとえば、ひとつのセクションを見たときに、
「外側に大きなコンテナがある」
「その中に画像と文章のブロックがある」
「さらに文章の中に見出し、説明文、ボタンがある」
というように、要素のまとまりを意識できるようになります。
Webサイトは、細かい要素をバラバラに配置しているわけではありません。
複数の要素をグループ化し、そのグループを組み合わせてページ全体を作っています。
この構造を見抜く力は、実際のコーディングでも必要になります。
3.レイアウトを再現する力が身につく
模写では、デザインを見ながら、
横幅
高さ
余白
配置
文字サイズ
行間
色
枠線
角丸
などを細かく調整します。
コード自体は間違っていなくても、少し余白が違うだけで、完成した印象は大きく変わります。
そのため模写を続けると、デザインと自分の実装を比較しながら、ズレを修正する力が身につきます。
「なんとなく違う」で終わらせず、
「見出しと文章の間が広すぎる」
「コンテンツ全体の横幅が狭い」
「画像とテキストの比率が違う」
といった原因を見つけられるようになります。
この観察力は、コーディングの精度を高めるうえで重要です。
4.よく使われるデザインパターンを知ることができる
複数のサイトを模写すると、Webサイトには共通するデザインパターンが多いことに気づきます。
たとえば、
ヘッダー
ファーストビュー
サービス紹介
会社の強み
実績一覧
お客様の声
よくある質問
お問い合わせ
フッター
といった構成です。
カード型のレイアウトや、画像と文章を左右に配置するデザイン、背景色を切り替えてセクションを区切る方法なども、さまざまなサイトで使われています。
こうしたパターンを知っていると、新しいサイトを作るときにも、実装方法を想像しやすくなります。
5.調べながら問題を解決する力が身につく
模写では、思った通りに表示されない場面が何度も出てきます。
横並びにならない。
画像がはみ出す。
中央に配置できない。
余白が思った場所に入らない。
スマートフォンでレイアウトが崩れる。
こうした問題に対して、原因を調べ、コードを書き直し、表示を確認する作業を繰り返します。
実際の制作現場でも、すべてのコードを暗記している必要はありません。
分からないことが出てきたときに、原因を切り分け、必要な情報を調べ、解決する力のほうが重要です。
模写は、その練習にもなります。
模写コーディングでは身につかないこと
1.デザインを考える力
模写では、すでに完成したデザインを再現します。
色、余白、フォント、構成、写真の配置などは、最初から決まっています。
そのため、模写を何度こなしても、ゼロからデザインを考える力が自動的に身につくわけではありません。
模写が得意でも、
「この会社にはどのようなデザインが合うのか」
「どの情報を目立たせるべきか」
「どのような順番で情報を並べるべきか」
と聞かれると、答えられないことがあります。
再現する力と、設計する力は別物です。
デザイン力を身につけたいなら、模写だけでなく、自分で配色やレイアウトを考えて制作する練習が必要です。
2.サイトの目的を考える力
Webサイトは、きれいに作ることが目的ではありません。
お問い合わせを増やす。
商品を購入してもらう。
サービスの内容を理解してもらう。
採用への応募を増やす。
こうした目的を達成するために作られます。
しかし模写では、そのサイトがなぜこの構成になっているのかまで考えず、見た目だけを再現してしまいがちです。
ボタンの位置や文章の順番にも、本来は理由があります。
見た目だけをなぞっていると、目的に合わせてページを設計する力は身につきません。
模写をするときも、
「なぜここにボタンがあるのか」
「なぜこの順番で情報を見せているのか」
「このセクションは誰の不安を解消しているのか」
と考えることが重要です。
3.クライアントの要望を整理する力
実際の案件では、完成したデザインが最初から用意されているとは限りません。
クライアントから、
「信頼感のあるサイトにしたい」
「若い人にも見てもらいたい」
「お問い合わせを増やしたい」
「今のサイトより分かりやすくしたい」
といった曖昧な要望を受け取ることもあります。
その言葉を整理し、必要なページやコンテンツ、デザインに落とし込む必要があります。
模写では、要望を聞き出したり、内容を整理したりする機会がありません。
そのため、ヒアリング力や提案力は別の方法で身につける必要があります。
4.保守しやすいコードを書く力
模写では、見た目が再現できれば完成と考えてしまいがちです。
しかし実際の仕事では、完成後に文章や画像を変更したり、セクションを追加したりすることがあります。
そのとき、場当たり的に書かれたコードでは修正が難しくなります。
たとえば、
クラス名に統一感がない
同じ装飾を何度も書いている
HTML構造が必要以上に複雑
固定値が多すぎる
CSSの影響範囲が分かりにくい
といったコードは、見た目が正しくても、保守しやすいコードとは言えません。
模写でもコード設計を意識することはできますが、ただ見た目を合わせるだけでは、保守性や再利用性までは身につきにくいです。
5.実際の案件で必要な対応力
実務では、コーディング以外にも多くの作業があります。
制作スケジュールの管理
クライアントとの連絡
修正指示への対応
データの受け渡し
サーバーへの公開
WordPressへの組み込み
表示確認
ブラウザごとの検証
納品後の修正
模写コーディングだけでは、こうした実務の流れは経験できません。
特に案件では、最初に決めた内容が途中で変わることもあります。
「文章を変更したい」
「画像を差し替えたい」
「この部分をもう少し目立たせたい」
といった修正に対して、影響範囲を考えながら対応する必要があります。
模写はコーディング練習にはなりますが、仕事そのものの練習ではありません。
模写コーディングを効果的にする方法
模写を単なる作業で終わらせないためには、少しやり方を変える必要があります。
コードを書く前に構造を考える
いきなりHTMLを書き始めるのではなく、まずページ全体をセクションごとに分けます。
さらに、各セクションの中にどのような要素があるのかを整理します。
先に構造を考えることで、無駄なHTMLが減り、見通しの良いコードを書きやすくなります。
数値をそのまま写さず、理由を考える
デザインカンプに書かれている数値を、そのまま入力するだけでは不十分です。
なぜこの余白なのか。
なぜこの文字サイズなのか。
なぜここだけ背景色が違うのか。
数値やデザインの意図を考えることで、別の制作にも応用できるようになります。
完成後にコードを見直す
見た目が完成したら終わりではなく、コードを整理します。
同じCSSをまとめられないか。
不要な指定が残っていないか。
クラス名が分かりやすいか。
ほかのページでも使えるパーツにできないか。
こうした見直しを行うことで、再現力だけでなく、コードの品質も高められます。
模写後にオリジナル版を作る
模写したサイトをベースに、色、写真、文章、レイアウトを変更して、別のサイトを作ってみるのも効果的です。
たとえば、美容室のサイトを模写したあとに、同じ構造を使って飲食店のサイトに作り変えます。
そのまま再現するだけではなく、別の目的に合わせて変更することで、設計力や応用力が身につきます。
模写はゴールではなく、基礎練習
模写コーディングは、HTMLやCSSの基礎を身につけるうえで優れた練習方法です。
コードを書くことに慣れ、レイアウトの構造を理解し、デザインを再現する力を伸ばすことができます。
一方で、模写だけを続けていても、デザインを考える力、サイトの目的を設計する力、クライアントに提案する力までは十分に身につきません。
模写ができることと、Webサイトを作れることは同じではありません。
模写で基礎を身につけたあとは、
自分で構成を考える。
オリジナルサイトを作る。
WordPressに組み込む。
実際の人から修正指示をもらう。
公開や運用まで経験する。
このように、次の段階へ進む必要があります。
模写は、Web制作を学ぶための入口です。
しかし、いつまでも模写だけを続けていると、「見本があれば作れるけれど、見本がなければ作れない」という状態から抜け出せません。
大切なのは、何作品模写したかではなく、模写で学んだことを自分の制作に応用できるかどうかです。