龍の足元を細い水が流れていた日

龍の足元を細い水が流れていた日

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朝の光がまだ山の向こうにあるころ、龍は浅い谷のような場所に伏せて観えました。身体は青灰色で、前足だけが白い霧の外へ出ています。大きな川も雨も観えませんでしたが、爪の間を縫うように、細い水が流れていました。

水は透明で、光を強く反してはいません。流れる音も聞こえず、どこから来てどこへ向かうのかも霧に隠れていました。ただ、龍が動いていないあいだも、水だけは途切れずに足元を通っていました。

動かないものと、流れるもの

龍の姿が静止して観えると、時間まで止まっているように感じることがあります。けれど、その朝は龍の周囲だけが少しずつ変わっていました。小さな泡が爪の先に触れ、細い草が水の向きに合わせて揺れていました。

龍が流れを待っているのか、気に留めていないのかは観えませんでした。水が龍へ何かを伝えているとも言い切れません。私に観えたのは、動かない龍と、足元を通り過ぎる水が同じ場所にあるということでした。

私は「龍は動いていませんが、足元の水は流れ続けています」とお伝えしました。その先に好転や決着があるとは観えていません。静かな場面ほど、願っている答えを重ねず、そのままの距離で伝えるようにしています。

周りが変わっても急がない

日常では、自分が決められないあいだにも、周囲の状況が変わっていきます。人の考え、予定、季節、届く言葉。自分だけが立ち止まっているように思えると、取り残された気持ちになることもあります。

けれど、周りが動いているからといって、すぐ同じ速さで動かなければならないとは限りません。まだ確かめたいことがあるなら、足元に何が流れているのかを見る時間も必要です。

もちろん、期限や安全に関わることを先延ばしにしてよいという意味ではありません。待つ時間が持てるのか、今すぐ動く必要があるのかは、現実の状況から判断するものです。龍の足元の水だけでは、その区別までは観えませんでした。

水は跡を残さなかった

しばらくすると流れが少し広がり、龍の爪の半分ほどが水に包まれました。濁りはなく、爪の形は水越しにも観えていました。龍は前足を引かず、押し出すこともありませんでした。

水が通り過ぎたあと、土に深い溝は残りませんでした。濡れた色が淡く広がり、すぐ近くの乾いた土との境目も、少しずつ分からなくなりました。変化があったことは観えましたが、それが長く残るのかは観えませんでした。

何かを経験したあと、はっきりした成果や印が見つからないことがあります。それでも、その時間が無かったことになるわけではありません。ただ、残り方が目立たないこともあります。見える跡がないときに、無理に意味を作らなくてもよいのだと思います。

龍が足を上げたとき

霧が薄くなり始めたころ、龍は前足をゆっくり上げました。水を避けたようにも、歩き出そうとしたようにも観えましたが、次の動きは見えませんでした。足を置いた先も霧の中でした。

水は空いた場所をそのまま流れました。龍がいなくなったから速くなったわけでも、止まったわけでもありません。足を上げたことと、水の行き先が変わらなかったことだけが観えました。

龍の足元を細い水が流れていた日は、自分が動かない時間にも、周囲は静かに移り変わっていることを感じた日でした。その流れを急いで吉凶へ結びつけず、観えた変化と、まだ観えない先を分けて受け取っていたいと思います。

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