経費の処理で迷ったとき、AIに聞いてみたことがあるんですよ。
「〇〇ってこうだよね?」
返ってきたのは当たり障りのない「こういうケースでは■■のこともありますし、一般的には〇〇の場合もあります」みたいな回答。
いや、間違ってはいないんですよ。ただ、知りたいのはそこじゃない。
似たやり取りを何度か繰り返して、正直に
「AIって思ったよりイマイチでは?」と思っていた。
いま振り返ると、これってAIの性能の問題じゃないんですよね。
一般論しか返さないのではなく、一般論しか返しようがなかった。
AIは一般的なことなら広く知っている(ように見える)し、知っているように振る舞える。
でも、僕が何をしている人間で、どんな案件を抱えていて、去年の経費をどう処理したかは知らないんです。
機械的に回答を予測するからこそ、知らない情報を回答に含めることはできないので、「ケースによります」に落ち着く。当たり障りのない回答は、AIが不出来なのではなく、当たり前の話でした。
それなら僕のことを覚えてもらえばいいと始めたのがメモリ機能の活用だった。ただ、これが思ったより忘れる。セッションを変えると、ちょっとは僕のことを覚えているが数ヶ月ぶりに会った人みたいな距離感だ。
僕が望んでいるのはセッションをまたいでも「僕という一個人」を記憶しているAIだった。
作ったものは、拍子抜けするほど単純だった
ここで、使っている道具を一応説明しておく。
Obsidianは、メモを取るためのアプリだ。特徴は、書いた内容が普通のテキストファイルとして自分のパソコンのフォルダにそのまま置かれること。専用の保存形式に閉じ込められないので、他のソフトからでも中身が読める。
Claude Codeは、そのフォルダを直接読み書きできるAIだ。ここが肝心で、ブラウザで使うChatGPTやClaudeは、こちらのパソコンの中のファイルを勝手に見に行くことはできない。「記録を置いておいて、必要なときに読ませる」という形にするには、ファイルを触れるAIである必要があった。
Claude Code以外にもCodexなどでも同様のことが可能なはずだが、僕はClaude Codeしか試していない。
きっかけは偶然見かけた記事だった。
qiita.com/delphinus/items/9325c8dd750c85bac944
詳しいことは分からなかったが、Obsidianというものを使えば、AIとのやり取りを記録として残せるらしい、ということだけ分かった。
そこから実際に導入した。
構成を先に書いておくと、これだけだ。
summary/
├── Knowledge/ ← 調べたこと、ハマって解決したこと
├── Decisions/ ← 何をなぜ選んだか
├── Projects/ ← 進行中の案件と状態
├── Preferences/ ← 好み、作業スタイル
├── Personal/ ← 日記、健康、人物メモ
└── …
ただのフォルダと、中に入っているテキストファイルだけだ。特別な連携も、有料プラグインも要らない。Obsidianは僕が見るときのビューアとして使っているだけで、AI側が読んでいるのはただのテキストファイルでしかない。
構築自体も、Claude Codeと話しながら進めた。難しいことは何もしていない。
大変だったのは、設定ではなく運用だった。
AIは決めたことを、思ったよりもやってくれない。
会話の終わりに流れを記録する。ミスがあったら記録する。最初に決めたはずのそれを、AIは普通に飛ばす。仕方がないので、人に教えるのと同じように、何かあるたびに指摘を繰り返した。
すると不思議なもので、仕組みは分からないが回路がつながっていくように、同じミスを繰り返さなくなっていく。
とはいえ一直線ではなかった。漏れを指摘する。ルールを足す。足したルールが別のルールとぶつかって挙動がおかしくなる。それをまた指摘する。その繰り返しで、少しずつ今の形に落ち着いた。
実際に捨てた仕組みをいくつか挙げる。
どれも「人間には自然な形」が「AIには機能しなかった」という、同じ失敗のしかたをしている。
まず会話ログを書いて、後で整理する二段構えにした。 3日で捨てた。「①ログに書く」までは動くのに、「②整理して本棚に移す」が毎回抜けていて、会話の生ログという不要な情報が混ざっているところに重要な情報が入っていて取りこぼしが大量に発生した。
各ファイルの要約を1行ずつ並べた索引を作った。 これも捨てた。索引を読んでも「今これを開くべきだ」と気づけない。結果、参照漏れが3回起きた。索引をやめて全文を毎回読ませたら、ぴたりと止まった。
ミスをまとめたファイルを作った。 書いても再発した。ひどいときは、記録した当日にもう一度同じ間違いをした。読む場所を「一覧の中の一項目」から「起動時に必ず読むルール」に格上げして、ようやく止まった。
こう考えると人間の思考体系とは結構違うようで、人間であればざっくりと出来事を覚えておいて、後ほど反省をして教訓を導き出すということはできるのにAIはそういった中間ステップを挟むとその後の記録や作業がすっぽり抜け落ちてしまう。僕にとってわかりやすい形はAIにとってはそうでもなかった。
一番大事だったこと
仕組みができると運用をする必要があるのだが、ここで一番効果があったのは
「僕の全ての活動にClaude Codeを通すこと」だった。
フィジカルな行為以外の活動を、とにかく一旦AI経由に流す。調べものも、考えごとも、判断も。そうすることで、僕が何をしていて、何を好み、何を選ばなかったかが溜まっていく。
逆に言えば、Claude Codeを通さなかった活動は、存在しなかったことになる。そこだけAIの中で空白になる。だから僕も、情報が残るように動き方を変える必要があった。
AIにフィットするように自分が変わるというのも変な話に聞こえるだろう。普通は、AIを自分に合わせて調整する。僕のことを理解できれば、とても効率化がはかれるだろうとの見込みがあってのことだが、慣れるまでは「自分でやった方が早いのにな」という思いはあった。
ちなみにClaude Codeを通しているかというと、始めてから3ヶ月で161セッション(AIとの一連のやり取り1回分)、1日あたり1.75回だった。数字だけ見ると少なく感じるかもしれない。実際、数日にわたって触り続けているセッションもあるので、回数としては見かけほど多くならない。
ただ、その中で溜まった記録は約43万字になっていた。文庫本にして4冊分だ。
この4冊を、僕は一文字も書いていない。
書かれているのは、僕がどういう仕事をしていて、どんなものが好みで何を選んで、何を間違えたかという話ばかりだ。
正直に書いておくと、最初は不便だ
この仕組み、初期状態は明確に不便だ。
自分でやれば10秒で終わることを、わざわざAIに渡して、期待通りに動かなくて、指摘して、ルールを直す。
効率化のために手間を増やしている状態が、しばらく続くのは間違いない。
僕はこの先どうなるかが何となく想像できていたので続けられたけれど、ここで脱落する人はかなり多いと思う。
実際、この「最初の不便な時期」を越えられるかどうかが分かれ目だと思っている。そこを一緒に走る場として、90分で設計から試作まで作るサービスも出している。
3ヶ月経って、何が変わったか
一番効果を感じているのは、手書きの書類だ。
以前はとにかく面倒だった。何を書くべきかを思い出して、必要な数字をあちこちから拾って、体裁を整える。この一連が億劫で、後回しにしがちだった。
今は「こういう書類で、こういう項目が要る」と伝えれば、内容が出てくる。僕の確定申告書まで読みに行って、具体的な数字を出してくる。処理の方法まで教えてくれることもある。これは記録を持たせていなければ絶対にできない。一般的なAIは、僕がどの書類を持っていて、そこに何の数字が入っているかを知らないからだ。
もう一つは、感覚的な話になるけれど、こちらの方が大きいかもしれない。
「あれ、どうしようかな」と考えている状態から解放されたことだ。
以前は、手をつける前に頭の中で段取りを組む時間があった。今はとりあえず投げてしまえば雛形が出てくる。だから僕の仕事は、0→1の部分に関わる条件や要件、内容などのコアな部分を考えることに集中できるようになった。
要件を渡せば、7割できているものが出てくるようになれば後はクオリティに関わる部分に時間を大きくさけるようになる。
これは僕のことを知らないAIではできなかったことだ。
最後に
冒頭の経費の質問に戻る。
同じことを今もう一度聞くと、返ってくるのは「ケースによります」ではない。僕の確定申告書の数字を持ってきた上で、具体的な処理方法が返ってくる。
もちろん、まだ全てを知っているわけではない。ただ、日ごとに賢くなっていく。
AIが進化したわけじゃない。僕のことを理解してくれるようになっただけでここまで世界は変わるのかと思った。
この仕組みを自分の仕事で作りたい方へ
ここに書いた内容は、そのまま真似してもらって構いません。フォルダを作ってテキストを置くだけなので、始めるのにお金もかかりません。
ただ、何を記録させるかは人によって違います。僕の場合は撮影の案件と経費まわりでしたが、これは職種ごとに全部変わります。そこだけは一般論では決められないので、個別に設計する必要があります。
その部分を90分で一緒にやるサービスをココナラに出しています。あなたの業務をお聞きして、何を覚えさせるかを設計し、その場で試作するところまでを範囲にしています。
「記事を読んで自分でやってみたが、どこから手をつけるか決まらない」という段階の方に、一番向いていると思います。
興味を持って頂けた方はぜひご依頼をお待ちしております。