「AIで全部自動化しましょう」——そう即答されると、少し不安になりませんか。
私は元SE(システムエンジニア)で、独立前は約12年、SE・BPOディレクターとして100社超の業務改善に関わってきました。その私が、AI導入の相談を受けたときに「それ、今回は作らない方がいいです」と言うことがあります。作れないからではありません。作れることと、作るべきことは別だからです。
この記事は、AI導入を検討している中小企業の経営者・管理職の方に向けて、私が「あえて作らない/見送る」提案もする理由と、その判断軸をお話しするものです。読み終えたとき、AIパートナーを選ぶ目線が少し変わるはずです。
なぜ「作れる」のに「作らない」と言うのか
AIエージェント(指示を受けて、複数のステップを自律的に進めるAI)をはじめ、いまの技術を使えば、たいていの仕組みは"それっぽく"作れてしまいます。だからこそ、私は作る前に一度立ち止まります。
理由は、SEとBPOディレクターとして現場に立ち続けてきた経験にあります。作った直後は問題なく動くのに、半年後には誰も触れなくなっている仕組みを、私は数え切れないほど見てきました。担当者が異動や退職でいなくなった瞬間、複雑な仕組みはメンテナンス不能になり、かえって新しい"属人化"を生みます。
作った量は、価値の量ではありません。
私が独立後に大切にしているのは「最小限の情報で最大限の価値を提供する」という考え方です。少ない手数で効く方を選ぶ。派手な仕組みを納品して終わりにするのではなく、あなたの会社が自分で回せる状態にすることをゴールに置いています。だから「作らない」「今回は見送る」という選択肢も、正直にテーブルに載せます。
私が見送りを決める3つの判断軸
抽象論だけでは伝わりにくいので、実際にどんな場面で「作らない/絞る」を選んだのかお話しします。
1. あとで誰が保守するか 設計図(ソースコード)の残っていない古い基幹システムを、AIで解析して作り直す案が挙がったことがあります。技術的には作れます。しかし、AIで"それっぽく"復元できても、中身がブラックボックスなら将来また誰も直せなくなる。そこで復元はやめ、必要な機能だけを新しく独立して作り、既存データとつなぐ現実的な形に切り替えました。「作れる/作れない」ではなく「あとで誰が保守するか」で決めた判断です。
2. 自動化する順番を間違えない ある業務で、申請フォームの入力を自動でシステム登録する案が出ました。便利ではあります。ですが、運用の締めタイミングや通知の絡みを考えると、運用の型が固まる前に自動化を足すと、例外対応でかえって手間が増える。そこで「まず手で回し、型が決まってから仕組みにする」という順番を優先し、今回は見送りました。
3. 属人化を増やさない 請求まわりの金額計算を、外付けの追加プログラムに持たせれば速く作れる場面がありました。しかし計算ロジックを外に散らすと、作った本人しか直せなくなります。そこであえて本体側に集約し、追加ツールはデータの受け渡しだけに限定しました。「速く作れる」より「あとで詰まらない」を選んだ形です。
経営者にとって、なぜ「作らない判断」が得なのか
ここが一番お伝えしたい点です。経営者・管理職の立場から見ると、「一番大きく作る提案」=「一番良い提案」ではありません。
大きく作れば、その分だけ初期コストがかかり、運用の負担が増え、直せる人が限られるほど属人化のリスクも高まります。逆に、作らない範囲・見送る範囲をきちんと線引きできる相手と組めば、結果的にコストと運用リスクの両方を抑えられます。
たとえば、原因調査に時間が無限にかかっていた作業では、根本原因を毎回追いかけるのをやめ、「10〜15分確認して駄目なら翌月に持ち越す」という手順の線引きを入れました。頑張って全部やるのではなく、"やらない範囲"を決めることで工数の青天井化を防いだのです。全部やることが善ではありません。
経営課題をAIエージェントで解く——その入口は「何を作るか」ではなく、「何を作らないかを、一緒に決められるか」だと私は考えています。AI導入で大切なのは、あなたの会社が導入後に自走できること。その視点を持てる相手かどうかを、ぜひ見極めてください。
まとめ
AI導入の相談で、私が「作らない/見送る」提案もするのは、次の3つを大切にしているからです。
あとで誰が保守するかで決める(ブラックボックスを残さない)
自動化する順番を間違えない(型が固まってから仕組みに)
属人化を増やさない(速さより、あとで詰まらない設計)
作った量は価値の量ではありません。少ない手数で効く方を選び、あなたの会社が自分で回せる状態をつくる。これが元SE・BPOディレクターとして12年、100社超に関わってきた私の判断軸です。
「自社のどこにAIを入れ、どこは入れないか」——その線引きから一緒に考えます。いきなり大きな仕組みを作るのではなく、まず1つの業務から棚卸しし、作る・作らないを整理するところから始められます。
AI導入で具体的な相談がある方は、私のサービス一覧から気軽にご相談ください。すべての会社に同じ答えが当てはまるわけではありませんので、まずは現状をお聞かせいただくところから始めましょう。