短編小説「それぞれの着陸」

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僕が操縦する飛行機の乗客リストに、 昔別れた彼女の名前を見つけた。
彼女がこの飛行機に乗っていることを知った僕は、胸の奥がきゅっと縮んだ。

あのとき、僕は彼女につらい思いをさせた。
別れたのもすべて僕に原因があったと思っている。
あれからずっと僕は、そのことを責め続けてきた。

それでも今日は、僕がこの機を飛ばさなければならない。
操縦桿を握る手に力が入った。

飛行機は離陸した。

上昇し、やがて飛行が安定すると、僕はまた考えていた。

彼女が今、僕のことをどう思っているのか。
怒っているのか。
嫌っているのか。
もう何とも思っていないのか。

考え始めればきりがなかった。

けれど今の僕にできることは、彼女の気持ちを確かめることではない。

この機を安全に目的地まで届けることだった。

途中、天候が崩れた。

機体が大きく揺れ、窓の外を厚い雲が覆った。

さらに目的地の空港が混雑し、管制から上空で待機するよう指示が入った。

飛んではいる。
目的地も見えている。

それなのに、まだ降りることができない。

旋回を繰り返しながら、僕はいつしか、彼女とのことを考え続けてきた年月もこの時間に似ていると思った。

終わった関係なのに、心だけがずっと上空を回り続けていた。

でも、このフライトで僕は一人じゃない。

副操縦士が状況を確認し、客室乗務員が乗客を安心させ、地上では多くの仲間が着陸の準備を整えてくれていた。

やがて管制から着陸許可が出た。

雲を抜けた。 
眼下に滑走路が見えた。

目の前の景色がはっきりと見えた僕は、操縦桿をぐっと握りしめた。
僕はゆっくりと機首を下げた。

彼女は、今も僕のことを許してはいないかもしれない。
それでいい。
許してくれなくても構わない。
会えなくてもいい。

彼女には彼女の行き先がある。
僕には僕の行き先がある。

ただ今日だけは、彼女を無事にその場所まで送り届けたい。

車輪が滑走路に触れた。
一度、大きく機体が揺れた。
そして飛行機は速度を落としながら、静かに地上を走った。
着陸できた。

僕は長く息を吐いた。

乗客が降りたあと、僕は彼女を思い出しながら、ふと操縦席の窓の外を見た。

すると、空港を歩いていく、あの日と同じ彼女の姿があった。

その瞬間、彼女がこちらを見た。

目が合った。

僕は思わず肩をすくめ、身体をこわばらせた。

すると彼女は立ち止まり、窓の向こうから小さく微笑んだ。
ほんの一瞬だった。

彼女は前を向き、空港の向こうへ去っていった。

飛行機を降りてレポートを書いていると、僕のスマホが震えた。

彼女からだった。

「無事に着陸できてよかったね。ありがとう。」

僕はしばらく、その短いメッセージを見つめていた。

「許す」とは書かれていない。
昔のことについても、何も書かれていない。
それでも、十分だった。

僕たちはそれぞれの場所へ無事にたどり着いた。
それだけでよかった。

自責し続けていた彼女との関係も、
これで、静かに着陸することができた。

2026年11月2日 公開
伊トKen
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