理不尽な人間関係は、なぜ起きるのか。良い人と悪い人を、どうすれば見分けられるのか。
そんな疑問を持ち始め、たどり着いたのが、行動分析・神経科学・犯罪心理学の世界でした。そしてその延長線上で参加したのが、アメリカで開催された「CrimeCon」というコンベンションです。
そこで気づいたのは、日本とアメリカの間にある、自己防衛の知識に関する大きな格差です。
アメリカで生まれた自己防衛のエンターテイメント
アメリカには「True Crime(実録犯罪)」と呼ばれるジャンルがあります。実際に起きた事件を、被害者の証言・加害者の心理・専門家の分析を交えながら深く掘り下げるコンテンツで、ドキュメンタリー、ポッドキャスト、YouTubeを中心にアメリカで絶大な人気があります。
CrimeConは、そのTrue Crimeの世界で活躍するクリエイターや専門家が一堂に集まるコンベンションです。
メインの登壇者は、FBI行動分析課を立ち上げたジョン・ダグラス。Netflix『マインドハンター』や、映画『羊たちの沈黙』のモデルとなった、実在の元FBI捜査官です。
他にも、3日間にわたって多彩な講義が続きました。
エプスタイン事件の被害者達による証言
あの有名な事件の被害者3名が登壇し、実際に何が起きたのかを自らの言葉で語りました。加害者がどのように彼女達との信頼を築き、支配していったのか。そのプロセスを、当事者の口から直接聞くことができました。
ストーカー被害の証言
ドラマ CSI:マイアミでDNA鑑定の専門家を演じていたエヴァ・ラルーは、12年間にわたってストーカー被害に遭いました。娘とともに何度も引越しを繰り返し、常に恐怖の中で生活を続けた体験を語りました。「ストーカー被害は、人生を完全に書き換えてしまう。」と語っています。そして最終的に、彼女がドラマで演じていたDNA鑑定技術が、現実のストーカー事件を解決したのです。
ドキュメンタリー出演者による証言
SNSで元交際相手からの被害を告発した女性のもとに、同じ男性から被害を受けた別の女性が次々と名乗り出た。その一部始終がドキュメンタリー化された「Don't Date Brandon」の出演者も登壇しました。複数の被害女性の声が連帯し、やがて有罪判決へとつながった事件です。
リアリティのある内容で、身近にも起こりそうな出来事ですが、これが日本で同じように成立するかというと、話は簡単ではありません。その理由は、後編で詳しくお伝えします。
Robloxを使ったおとり捜査の再現
実際に過去、Robloxで被害に遭った少年が、当時の状況を解説しながら、登録から仮面を被った不審者が実際に接触してくるまでの一部始終を再現。リアルタイムでスクリーンに映し出されました。画面上のやり取りは、驚くほど巧妙で、素早いものでした。登録が完了すると、すぐに不審者が接触してくる。こちらは「たかってくるのは不審者」という前提で画面を見ていますが、それを知らずに登録する子供達にはどう映るのか。
護身術の講義
知識だけでなく、身体で覚える自己防衛のセミナーもありました。危険な状況に置かれた時、どう動くか。身体が小さくても、力が弱くても、できることはあります。
感情ではなく、構造を語る
もう一つ、会場で強く感じたことがあります。被害者が体験を語り、専門家がその構造を解説する。そこには「かわいそう」という言葉も、涙を誘う演出もありません。
日本のメディアでは、被害者の感情や苦しみに焦点を当て、視聴者の共感や涙を引き出すことが多いです。また、加害者にも事情があったと被害者が叩かれることさえあります。結局は感情論になりがちです。
「なぜこの手口が機能したのか」「加害者はどういう心理で動いていたのか」——感情ではなく、構造として語られる。それが、アメリカで感じた最大の違いでした。
ここまでは、会場で語られた"体験"を中心にお伝えしました。次は、なぜその体験が生まれるのか——その"仕組み"の話に入っていきます。
なぜ日本とアメリカで、これほど「語られ方」が違うのか。その理由は、文化・法律・言葉の定義など、いくつもの要因が絡んでいました。
後編では、その一つひとつを紐解いていきます。