連続小説『DNA51影たちの黒十字』16 (続ロザリンド物語)

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連続小説『DNA51影たちの黒十字』16
(続ロザリンド物語)  

小説『DNA51影たちの黒十字』
(続ロザリンド・フランクリン物語) 〜16〜
Rosalind Franklin Photo51
Rosalind Franklin Photo#51

   17        戴冠式とダービー

 倫敦大学と賢振寺大学との合同による3論
文一挙掲載が雑誌に発表され、エリザベス女
王陛下の戴冠式も間近という5月の日曜日。
スミス・サミュエ商会のポール・スミスがキ
ングスカレッジ倫敦のロザリンド研究室を訪
問していた。ポールもロザリンドもユダヤ人
なので所謂キリスト教での安息日・日曜日は
特別な日ではなく、キリスト教会に行くこと
もない。ユダヤ人にとっては金曜日の日没か
ら土曜日の日没までの24時間が安息日とな
っている。

「Nature誌で発表されたロザリンド先生の
論文読ませていただきましたぁ〜。いや〜、
とても素晴らしい内容の論文でしたぁ〜」

ポールはロザリンドをしきりに褒め称える。
しかし、ロザリンドは浮かぬ顔。

「それがなぁ〜、3番手の掲載ですやん。
雑誌の編集はん、何考えてますのやろ。
ほんまに困ったもんですがな。
あの順番やったら、賢振寺の予想が先に
有って、それを補強するような証拠データ
を倫敦大学が見つけて提示してるような、
後追いの格好になりますやん? 研究内容
からはキングスカレッジ倫敦の方が先行
しておりますのんやでぇ。今回は、その
先行するキングスカレッジ倫敦の領域に
賢振寺の方が追いかけて来とるんでっせ」

ロザリンドは憤懣やる方ない様子だ。

「まぁ編集者も商売人ですから、読者に
ウケる掲載方針ってのがあるのでしょう。
私も商売人なのでよく解ります。商売人ゆ
うのは売ることを最優先に考えるもんです。
ところで、論文に出てくるあのB型構造の
結晶って簡単に誰でも作れるシロモノなの
でしょうか?」

「いえ〜、簡単には作れしまへんのんやぁ。
核酸の結晶体はとても壊れ易うモンでして
な、X線撮影まで持っていけるような結晶
作るのんは大変なんですわ」

「ほう・・・、ということは、論文読んだ
だけで誰でも直ぐにB型結晶作れるという
訳ではないのですね」

「へぇ、そうですねん。撮影でける結晶体
まで作るんは大そう難儀なことですわ」

「なるほど、熟練が必要という訳ですね」

ロザリンドは無言で頷くと、声をひそめて
手指の先を口元に添えた。

「うちのウィルキンスさんもなぁ、
よう作れしまへんのんや。2番手掲載の
ウィルキンスさんの論文ありましたやろ?
あっこで画像を使こうとりましたやん?
あれ、私んとこの研究室が撮影に成功した
画像ですねんやで」

「んむっ・・。
・・って事は、賢振寺のクリック博士の
方でも撮影は成功しない?」

「おそらく無理なんちゃいますかぁ〜」

ポールは何かに納得した様子で顎を小刻みに
上下運動させると視線がロザリンドの瞳に
押し込んで来るような眼差しとなっていた。

「ところでロザリンド先生は今年のダービー
に関心はお有りでしょうか?来月の6月には
ダービーがエプソム競馬場での開催ですが、
今年のダービーは面白いですよ。6月2日に
戴冠式を済ました直後のエリザベス新女王が
所有する馬・オリオール号が出馬できる権利
を得て、調子も良いようですしね。さらに、
ユダヤ財閥サッスーン卿の所有馬ピンザ号も
これまた仕上がりが良くてですね、恐らくは
出馬してくるに間違いないとの予想です。
どうやら両馬が出馬するようなレースになり
そうだと、巷界隈で関心がウナギ登りです。
王室が勝つか・・ユダヤ大財閥が勝つか・・
エプソム競馬場に良いお席が有りますので、
ここは、ぜひ観戦にでも来られませんか?
きっと気分も爽快となられることでしょう。
当日は新女王も来場されると思いますよ」

論文掲載順番に憤慨していたロザリンドは
気晴らしも兼ねてポールが申し出た接待を
受けることにした。
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時に、エリザベス新女王27歳、
ロザリンド32歳の春であった。
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