※本記事は、私の作詞レッスンでお伝えしているノウハウの一部を「作詞Tips」として公開しているものです。
今回は、YOASOBIの歌詞について、私なりに分析してみたので書いてみます。
これまで何気なくYOASOBIの曲を聴いていたのですが、YOASOBIのテーマが「小説を音楽にする」だということを知りました。
すると、これまで何気なく聴いていた曲も、もう一度歌詞を読み直すと、これまでまったく違う世界が見えてきたのです。
今回は、代表曲の「夜に駆ける」を例に、その作り方と自分の作詞にどう活かせるかを書いてみます。
「夜に駆ける」に隠された、もう一つの物語
「夜に駆ける」のテーマとなった原作は、星野舞夜さんの小説『タナトスの誘惑』だそうです。
この小説を知らないまま曲を聴くと、「沈むように溶けてゆくように」というフレーズや走り出すような音から、少し切ない、でも爽やかな恋の終わりを思い浮かべていました。でも、原作の話を知ると、歌詞の一行一行の意味が変わってきます。
原作となる小説「タナトスの誘惑」は、死神に心を奪われた彼女と、その彼女を何度も必死に引き止めようとする「僕」の話です。
その上で、「夜に駆ける」の歌詞を見てみましょう。
「日が沈み出した空と君の姿 フェンス越しに重なっていた」
この部分は、夕暮れの景色をうたっただけにも読めます。でも原作では、「さよなら」というLINEを受け取って、マンションの屋上へ、フェンスの外側に立っている彼女のところへ駆け上がる場面を表現した歌詞のようです。
表では夕暮れの景色、裏では彼女がすべてを終わりにしようとしているぎりぎりの瞬間という2つの層になっているのがすごいですよね。
「「終わりにしたい」だなんてさ 釣られて言葉にした時 君は初めて笑った」
この部分は、一見恋人同士の別れを連想させます。でも原作と併せて読むと、全てを終わりにすることを引き止めることに疲れてしまった「僕」もまた、死神の誘いにのってしまったシーンなのです。
「差し伸べてくれた君の手を取る」「繋いだ手を離さないでよ 二人今、夜に駆け出していく」
この部分も、原作を知らないとやはり恋愛のワンシーンの表現に感じます。原作と併せて聴いたとき、最後の一行「夜空に向かって駆け出した」と呼応する、死に向かう二人を描写した衝撃的なシーンが見えてきます。
しかも、歌詞の中には全てを終わりにすることに関する言葉が最後まで出てきません。だからこそ、原作を読んだ人だけが、歌詞の本当の意味を読めるようになっています。
普通の恋愛を連想させる言葉たちが、原作というもう一つの見方を足すことで、とても暗くて、まっすぐな物語になる。これが「夜に駆ける」の歌詞の面白さだと感じました。
なぜ最初からすべてを説明しないのか
もし歌詞の中で「彼女はマンションの屋上から飛び降りようとしていて、僕も絶望して一緒に夜へ駆け出した」と書いてしまったら、それはただの説明になってしまいます。曲としての広がりは、きっと失われてしまうでしょう。
彼らの歌詞がうまいなと思うのは、この2つのバランスです。
・入り口は、誰にでも伝わる言葉にする
パッと聴いた段階では、恋の悩みや気持ちの動きとして、誰もが自分のことを重ねられるようにしておく。
・奥には、しっかりした物語を隠しておく
原作にしかない細かいところを、歌詞の中に少しだけ置いておく。深く読みたい人には、さらに深い世界を用意しておく。
最初から全部を説明しないで、「どちらにも読める幅」を残しておくことが、何度も聴き返したくなる理由になっているのだと思います。
あなたの作詞に活かす「多層構造」の作り方
この作り方は、自分の歌詞を書くときにも、とても参考になりました。
1. 「裏設定」を持って書きだす
歌詞を書き始める前に、登場する人の生い立ちや、その部屋の間取り、結末までのできごとを、ノートに1つの物語として細かく書いておきます。これは誰にも見せない、自分のためだけの下書きです。
2. 歌詞にするとき、具体的な説明をあえて減らす
書いた物語をそのまま歌詞にしないで、そこから生まれる気持ちや、象徴的な1つの場面(例:「フェンス越しに重なっていた」のような言葉)だけを選んで、歌詞に入れていきます。
細かく書くのではなく、減らして歌詞に入れる。そうすると、一見抽象的な歌詞になりますが、全体を芯のような核となるものが自然と感じられる歌詞になります。
さらに、ファンになってくれた人を、後でもっと自分の世界に引き込める物語も出来上がる。つまり、「多層構造の2度楽しめる作詞」になるのだと思います。
まとめ
YOASOBIの歌詞は、言葉で全部を語らないからこそ、聴く人の想像で世界が何倍にも広がる。そんな表現の可能性を教えてくれているように思います。
「読めば読むほど、別の景色が見えてくる歌詞」を目指して、まずは自分の中にだけ、誰にも見せない「1つの深い物語」を用意するところから始めてみるのは、いかがでしょうか。
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