新しい人生の幕開け…6

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彼に、いつ言おうか迷っていた。
電話でする話ではない。

私の感情はバラバラだった。
ここまで来たのに…。
彼も凄く頑張ってくれたのに…。
同情だけでは絶対できないことまでしてくれたのに…。

やっぱり相手も自分も子供たちも「不幸」にするのはいつも「自分」

幸せだった。

そんなことを思っていた、その日の夜。

彼から電話がきた。
私はドキッとした。

彼は相変わらず「何してた~?」とノーテンキな話し方をする。

私はいつも通りに接することにした。
なにせ彼は運転手だ。事故に遭われたら大変だから。

普通に日常のことや子供たちの話などをしていると
珍しく彼が
「そういえば婚姻届けのことなんだけどー」と切り出してきた。

私はまたもや「ドキッ」とした。

触れないで置こうと思っていたからだ。
私は「うん」としか答えられず黙ってしまったが、彼は続けざまにこういった。
「俺の運転手の仲間に証人になってくれるって人がいてさ!別にだれでもいいんだろ?親族じゃなくても!」
と一気に話された。

私は「え?なんで?どういうこと?」
と聞き返してしまった。
彼は「どういうこともなにも、お前に身内もいないのはわかってるし、今始めたばかりの保険屋で証人になってくれる人いないだろ、だから俺が探しておいた。」
というのだ。

私は、心底「また迷惑をかけてしまった」と思った。
だから私は
「ありがとう…けどそれには甘えられないよ。言おうと思ってたけど、入籍諦めようと思ってたんだ…。」
と言ってしまった。

我慢ができなかった。彼にばかり負担をかけてしまっている自分が惨めで情けなくて、不甲斐なくて迷惑ばかりかけている自分に彼の職場の人まで巻き込むなんて…。

それを聞いた彼は「なに言ってんの?もう頼んじゃったし、いいってゆってくれてんだからいいだろ!次の休みの日、時間取ってもらうからお前も一緒に行こうな!」
と言って電話が切れた。

私は電話を切ってから、私は自分一人では何もできないんだ、と改めて思った。

反論することもできず、かといって自分ではどうにもできない。

そして、その日は来た。

私にとっては赤の他人。
もちろん顔も見たことがない。初対面の人だ。

私は手土産を用意していた。
緊張していた。
どんな人なんだろう…。

車の中で彼は「そんなに緊張しなくてもいいよ」と言ってくれたが
そんな余裕はなかった。

そして車で走ること数十分、その人の家についた。

チャイムを鳴らすとその人は出てきた。
「よ!」と彼にいうと私に「ど~も~!」とあいさつしてくれた。

そして家に上がるように言われると私は緊張しながら家にお邪魔した。
リビングに通されると、そこには「奥さん」らしき人もいた。
夫婦で歓迎してくれた。

色んな話をしていたが、どうやら同僚の人のほうがしびれを切らしたのか
「ほら、あれ!出してよ!」と切り出してきた。

彼は私に「ほら!」と促してきた。
私はそそくさと彼に「婚姻届け」を渡した。

同僚のご夫婦は「そうか、お前もいっちょ前に結婚するのか(笑)」などと茶化しながら書いてくれた。

そのご夫婦はとても仲がよさそうに見えた。

証人の欄が片方「男性(彼のお義父さん)」だったことから、もう片方は「女性
」の方がいいだろう、という話になった。
その話を聞いていた奥さんが「じゃあ私が書けばいいじゃん」と言ってスラスラと書いてくれた。

証人ってそんな簡単なものなのか…。
私の元旦那の時の記憶はほぼない。
あの時、誰が一体「証人」になったのか。今でもわからない。

そんなどうでもいいことを考えていたらすぐ時間になっていたらしく、帰ることになった。

私はハッと我に返り、深々と頭を下げてお礼をいった。
ちなみに「手土産」を渡した時には「そんな堅苦しいことしなくていいのに~」と受け取ってくれた。

私は帰りの車の中で彼に「お礼と謝罪」をした。
そうすると彼は「俺にはあんな友達しかいないからもっと気を抜いていいよ」と言ってくれた。
そして、「これで婚姻届け出せるね」と言ってくれたが、入籍を諦めようとした私は、素直に喜ぶことができなかった。
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