彼のためなら何でもできる。でも幸せじゃない──30代女性の気づき

彼のためなら何でもできる。でも幸せじゃない──30代女性の気づき

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「尽くしているのに、なぜこんなに苦しいんでしょう」


オンラインカウンセリングの画面越しに、クライエントは少し疲れた表情で話し始めた。

クライエント「最近、彼との関係がしんどくて......でも、好きだから頑張ってるんです。なのに、なんだか報われない気がして」

ダイキ「報われない、ですか」

クライエント「はい。私、彼のために本当にいろいろやってるんです。朝ご飯作って持って行ったり、仕事終わりに買い物頼まれたら絶対断らないし、週末も彼の予定優先で。友達との約束もキャンセルしたりして」

少し言い淀んでから、クライエントは小さな声でこう付け加えた。

クライエント「でも......彼、あんまり喜んでくれないんです。当たり前みたいになっちゃって」

ダイキ「それは、辛いですね」

クライエント「私が尽くしすぎなんでしょうか。でも、好きな人のためなら当然じゃないですか?」

その言葉には、どこか必死さが滲んでいた。

「尽くす」ことで得ようとしていたもの


ダイキ「少し伺ってもいいですか。彼のために何かをするとき、どんな気持ちになりますか?」

クライエント「最初は......嬉しかったです。彼が喜んでくれるのが」

ダイキ「最初は、ということは?」

クライエント「今は......なんだろう。やらないと不安、みたいな」

その言葉を口にした瞬間、クライエントは自分でも驚いたような表情を見せた。

クライエント「......不安、なんですよね。彼が私を必要としなくなったらどうしようって」

ダイキ「必要とされなくなったら、何が起こると思いますか?」

少しの沈黙。

クライエント「......捨てられる、かな」

声が震えていた。

ダイキ「捨てられる、と感じるんですね」

クライエント「はい。私、何の取り柄もないし。尽くすことくらいしかできないから」

過去に刻まれたパターン


ダイキ「いつ頃から、そういう風に思うようになったんでしょう」

クライエント「......昔からかもしれません」

彼女は少し遠い目をした。

クライエント「母が、すごく尽くすタイプだったんです。父のために何でもやって。でも、父は......あんまり優しくなくて」

ダイキ「お母さんの姿を見て、何か感じることはありましたか?」

クライエント「母は『これが愛だ』って言ってました。でも、母はいつも悲しそうで。私、子どもながらに『もっと尽くせば、お父さんは優しくなるのかな』って思ってた気がします」

そこで言葉が詰まった。

クライエント「......私、母と同じことしてるんですね」

「彼のため」が「自分のため」になっていた瞬間


ダイキ「今、大切なことに気づかれたように見えました」

クライエント「そうなんです。私、彼のために尽くしてるって思ってたけど......本当は、捨てられないために必死だったんです」

涙が零れた。

クライエント「彼が『ありがとう』って言わなくなっても、もっとやろうとして。『これだけやってるんだから、私を手放さないでしょ』って......それって、愛じゃないですよね」

ダイキ「それについて、どう感じますか?」

クライエント「情けないです。でも、正直ホッとした部分もあって」

ダイキ「ホッとした?」

クライエント「だって、ようやく分かったんです。私が苦しかった理由。彼のためじゃなくて、自分の不安のためにやってたから、満たされなかったんだって」

尽くす愛と依存する愛の違い


ダイキ「今日、大きな気づきがありましたね。『尽くす』ことと『依存する』ことの違いについて、今どんな風に感じていますか?」

クライエントは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。

クライエント「本当の『尽くす愛』って......相手の幸せを願って、見返りを求めないものなんですよね。でも私がやってたのは、『これだけやったんだから、私を愛して』っていう......取引、みたいな」

ダイキ「取引、ですか」

クライエント「はい。彼に何かしてあげるたびに、心のどこかで『これで私の価値が上がった』『これで捨てられない』って思ってた。それって、依存してるってことですよね」

涙を拭いながら、彼女は続けた。

クライエント「本当に尽くすって、相手が私を必要としなくても、相手の幸せを願えることなんじゃないかって......今、思いました」

自分を取り戻すために


ダイキ「これから、どうしていきたいですか?」

クライエント「まず、自分と向き合いたいです。『尽くさないと愛されない』って思い込みを、変えたい」

ダイキ「具体的には?」

クライエント「友達との約束を優先してみようかな。小さなことからですけど。それで彼が怒ったら......それはそれで、考えなきゃいけないタイミングなのかもしれない」

少し強い目になった。

クライエント「あと、彼に『してあげる』じゃなくて、『一緒に何かする』って関係を作りたいです。対等な」

ダイキ「対等な関係」

クライエント「はい。私が一方的に何かをやるんじゃなくて、お互いが支え合える関係。それが本当の愛なのかなって」

気づきの先に見えた景色


セッションの終わりに、クライエントはこう言った。

クライエント「今日、すごく大事なことに気づけました。『尽くす』って言葉、美しく聞こえるけど、それが依存になってたら、誰も幸せになれないんですね」

ダイキ「そうですね」

クライエント「私、自分を大事にすることから始めます。自分を大事にできない人が、本当の意味で人を愛せるわけないって、今日分かりました」

彼女の表情は、セッションの最初とは違って、どこか晴れやかだった。

カウンセラーからのメッセージ


「尽くす愛」と「依存する愛」——言葉は似ていても、その本質は大きく異なります。

心理学者ジョン・アラン・リーは、愛のスタイルを6つに分類しました。その中で、アガペ(無私の愛・献身的な愛)は、見返りを求めず相手の幸せを願う愛とされています。一方、マニア(執着的な愛・狂愛)は、相手を失うことへの強い不安や、所有欲に駆られた愛です。

「尽くす」という行為そのものは悪いことではありません。しかし、それが「捨てられたくない」という恐れや、「これだけやっているのだから愛されるべき」という期待から生まれているとき、それは依存になります。

本当の愛は、自分を犠牲にすることではありません。自分を大切にしながら、相手の幸せも願える——そんなバランスの中にあるものです。

もし今、誰かに尽くしすぎて疲れているなら、一度立ち止まって問いかけてみてください。

「私は、誰のためにこれをしているのか?」

その答えが「相手の幸せのため」ではなく「捨てられないため」「愛されるため」だとしたら、それは見直す時期かもしれません。

あなたは、ただ存在するだけで価値がある。何かをしなければ愛されないわけではないのです。




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