2026年8月28日 ・ 読了目安 約9分
売上は前年より伸びた。なのに手元のお金は増えていない。中小企業や一人社長の現場で、これはよくある話です。
原因の多くは、売上の合計しか見ていないことにあります。同じ百万円の売上でも、四十万円残る百万円と、五万円しか残らない百万円がある。この違いを分けずに合計だけを追いかけると、頑張るほど忙しくなり、頑張るほど手元が薄くなるという状態が起こります。
厄介なのは、もうけの出どころは、たいてい直感と食い違うことです。手のかかるお客様ほど印象に残るので大事に見え、静かに毎月買ってくれるお客様は記憶に残りません。印象と実際の貢献が一致しないまま、力の入れ方を決めてしまいます。
この記事では、Anthropic社の公式AIコーディングツール Claude Code を使って、商品ごと・取引先ごとの粗利を並べ、どこでもうけているのかを見つける手順を、非エンジニアの方向けに整理します。
粗利の把握が後回しになる3つの理由
やる気の問題ではありません。作業の側に、着手を妨げる構造があります。
1. 売上の記録と原価の記録が別の場所にある
売上は販売の記録に、原価は仕入や外注の記録に入っています。この二つを商品単位でつなぐ作業が、そもそも重い。つなぐ前に一日が終わるため、毎回「今度やろう」になります。
2. 一件ごとの数字は出せても、まとめた形にできない
一件だけなら電卓で出せます。しかし三百件を商品別・取引先別に集計し直すとなると話が変わります。件数が増えるほど手作業では不可能に近づくという性質があり、規模が大きくなるほど見えなくなります。
3. 共通でかかる費用をどう割り振るか決められない
配送費、決済にかかる費用、梱包の材料費。これらを商品ごとにどう振り分けるかで迷い、迷ったまま止まります。完璧な配分を考え始めると、永久に終わりません。
粗利が見えないのは、計算が難しいからではありません。売上と原価をつなぐ工程が重いからです。その工程は、機械に任せられます。
機械に渡してよい範囲と、人が決める範囲
大前提として、どの商品を伸ばし、どの取引先との付き合い方を変えるかは経営判断そのものです。全部を任せる使い方はしてはいけません。粗利が低いという理由だけで取引を切った結果、他の商品まで一緒に失ったという失敗は、この領域で最もよく起こります。
工程担当内容売上と原価の記録の読み取り機械それぞれの記録から、商品名・数量・金額を取り出す二つの記録のつなぎ合わせ機械商品や取引先の名前を手がかりに紐づける名前のゆれの検出機械同じ商品が別名で入っている箇所を挙げる紐づかない行の分離機械つなげなかった行を理由付きで別に出す紐づかない行の判断人どの商品なのかを社内で確かめる粗利と粗利率の算出機械決めた計算式に沿って一件ずつ計算する商品別・取引先別の集計機械貢献額の大きい順に並べ、区分ごとに合計する力の入れ方の決定人業務や関係性を踏まえて方針を決める価格や条件の見直し人相手先とのやり取りを行う
線引きは単純です。つなぐこと・数えること・並べることまでが機械、決めることと相手先とのやり取りは人。この順番を守れば、判断材料は驚くほど早く揃います。
実務5ステップ
ステップ1:直近十二か月分の売上と原価の記録を集める
まず、十二か月分の記録を一つのフォルダにまとめます。販売の一覧、仕入の一覧、外注費の一覧。形式はばらばらで構いません。
このとき必ず元のファイルは触らず、控えを取ってから作業します。もとの記録を書き換えてしまうと、後から確認できなくなります。
十二か月分にする理由は、季節の偏りに騙されないためです。三か月分だけを見ると、繁忙期にだけ売れる商品が過大に評価され、通年で静かに稼いでいる商品が埋もれます。
ステップ2:計算のルールを先に五つ決める
集めてから考えると迷います。先にルールを決めて、そこへ当てはめさせます。
1. 売上に含めるもの(値引き後か、値引き前か)
2. 原価に含めるもの(仕入だけか、外注費や配送費まで入れるか)
3. 共通でかかる費用の扱い(今回は入れない、と決めてよい)
4. 粗利の計算式(売上から原価を引く)
5. 粗利率の計算式(粗利を売上で割る)
三番目は「今回は入れない」で構いません。共通費の配分は正解が一つに決まらず、ここで悩むと作業そのものが止まります。まずは仕入と直接かかった費用だけで並べ、大きな傾向をつかむ。配分の精緻化は、傾向が見えてからで十分間に合います。
ステップ3:二つの記録をつなぎ、つながらない行は分けて出させる
決めたルールを渡し、売上の記録と原価の記録を商品名や取引先名で紐づけさせます。
ここで最も重要な指示は、つながらなかった行を、勝手に近そうなものへ寄せないことです。「紐づけできなかった行は、推測で当てはめず、理由を添えて別の一覧に出してください」と最初に伝えます。
実際にやると、必ず一定量が紐づきません。名前の表記が違う、旧品番のまま入っている、セット販売で単品の原価がない。この「つながらない山」こそ、記録の弱点が集まっている場所です。ここを人が見て直すと、翌月からの精度が一段上がります。
ステップ4:商品別と取引先別、二つの軸で並べる
同じ数字を二つの軸で見ます。
商品別:粗利額の大きい順、粗利率の高い順の両方で並べる
取引先別:粗利額の大きい順に並べ、売上順との違いを見る
額と率は必ず両方見ます。率が高くても数が出ていなければ会社を支えません。逆に率が低くても数量が大きければ、貢献額では上位に来ます。片方だけで判断すると、決まって読み違えます。
取引先別では、売上の順位と粗利額の順位を並べて比べるのが要点です。売上一位のお客様が粗利では五位、という並びが出てきたら、それが今いちばん大事な情報です。
ステップ5:四つの区分に仕分けて、次の行動を決める
最後に、商品や取引先を四つに分けます。ここは人が決める工程ですが、分ける観点は機械に整理させておくと早くなります。
伸ばす:粗利額も率も高い。ここに時間と広告費を寄せる
量を追う:率は低いが額が大きい。作業の手間を減らす工夫を優先する
条件を見直す:率が低く額も小さい。価格か、かける手間のどちらかを変える
観察する:率は高いが額が小さい。伸ばせる余地があるかを確かめる
そのうえで、「条件を見直す」に入ったものについて、次回の価格改定や契約更新の時期を確認します。多くの取引は、思い立った日ではなく、区切りの時期にしか条件を変えられません。ここを外すと、決めたのにもう一年続くという結果になります。
頼み方の3原則
同じ道具を使っても、頼み方で結果が変わります。
1. 計算式を、こちらから言葉で指定する
「粗利を出して」では、何を原価に含めたのかが毎回変わります。ステップ2の五つのルールを明示して渡せば、出力が安定し、翌月も同じ形で比べられます。
2. 書かれていないことを補わせない
推測での穴埋めは、この作業で最も危険です。原価が空欄の行に「だいたいこのくらい」を入れられると、その一行が混ざったまま全体の集計が動き、しかも見た目には気づけません。「記録にない数字は、推測せずに空欄のまま残し、理由を添えてください」と最初に伝えます。
3. 合計を必ず元の記録と突き合わせる
出てきた一覧の売上合計と、会計上の年間売上を照らし合わせます。大きくずれていれば、拾い漏れか二重計上があります。この一手間を省くと、抜けた商品に気づかないまま「粗利が見えた」と思い込むことになります。
つまずきやすい5つの型
1. 売上の大きい順だけを見て終わりにする
売上上位が粗利上位とは限りません。むしろ、値引きを重ねて取った大口ほど、粗利では下位に沈んでいることがあります。売上の並びだけを見ていると、この構造には一生気づけません。
2. 共通費の配分にこだわって作業が止まる
配送費や梱包費をどう割るかは、考え出すと終わりません。まずは入れずに並べ、傾向をつかむ。配分の精度を上げるのは、大きな差が見えてからで十分です。
3. 紐づかなかった行を捨ててしまう
つながらない行は、面倒なので除外したくなります。しかし、そこに主力商品の一部が混ざっていれば、集計そのものが誤ります。つながらない行は、捨てる対象ではなく確認する対象です。
4. 粗利率だけで取引の可否を決める
率が低いお客様が、実は他の商品も継続して買っている入口になっている場合があります。切った瞬間に、見えていなかった分まで消えます。判断は、率・額・継続性の三つを並べてからです。
5. 一度出して終わりにする
粗利の構造は、仕入価格や取引条件が変われば動きます。一度出して満足すると、半年後には実態と合わなくなります。同じ型で毎月または四半期ごとに出し直すことで初めて、変化に気づけるようになります。
業種別の効きどころ
製造業 — 品番ごとの粗利率の差。同じ工程に見えて、材料費の変動を価格に反映できていない品番が沈んでいることがあります。
卸売・小売 — 仕入先ごとの条件差。同じ商品を複数の仕入先から入れている場合、どちらが有利かを数字で確かめられます。
飲食店 — 品目ごとの原価率と出数の組み合わせ。率の低い看板商品が、出数で粗利を支えている構造がよく見えます。
建設・工務店 — 現場ごとの粗利。見積時の想定と、実際にかかった外注費との差が、どの種類の工事で大きいかを並べます。
美容室・治療院 — 施術メニュー別と物販の比較。時間あたりで見ると、印象と順位が入れ替わることが少なくありません。
士業・コンサル — 案件種別ごとの粗利。工数を原価とみなして並べると、割に合っていない案件の型がはっきりします。
よくあるご質問
Q. 会計ソフトの数字をそのまま渡してよいですか
問題ありません。むしろ形式が揃っている分、精度が上がります。渡す前に、氏名など個人が特定できる欄を外しておくと安心です。取引先名を記号に置き換えて渡し、手元で対応表を持っておく方法も有効です。
Q. 商品数が数千件ありますが対応できますか
できます。ただし最初から全件を扱うと、確認が追いつきません。まずは売上上位の二割の商品だけで型をつくり、動くことを確かめてから全件に広げるほうが確実です。
Q. 原価が正確に分からない商品があります
分からないものは、無理に埋めず空欄のまま残してください。空欄が多い商品は、粗利が低い商品ではなく、記録の整備が必要な商品です。この区別をつけておくと、次にやるべきことがはっきりします。
Q. どのくらいの時間短縮になりますか
十二か月分の売上と原価を手作業でつなぎ、商品別・取引先別に集計すると、数日がかりになることも珍しくありません。この工程が一時間から二時間ほどに収まるのが実感に近いところです。短縮そのものより、毎月やれるようになることの価値が大きい作業です。
まとめ
売上が伸びているのに手元が増えないのは、努力が足りないからではありません。どこでもうけているのかを示す一覧が、手元にないからです。
十二か月分を集め、五つのルールを先に決め、二つの記録をつなぎ、額と率の両方で並べる。ここまでが揃えば、どこに力を入れるかの判断は驚くほど短時間で終わります。そして一度つくった型は、翌月そのまま使えます。
決めるのは人、つなぐのは機械。この線引きを守れば、もうけの出どころは、感覚ではなく数字で見えるものに変わります。
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