生まれてきてくれた、あなたへ

みんな誰かの

愛おしい人だ。

十月十日あたたかい子宮で丸くなり、

早く会いたいなっておなかをさする

お母さんの掌を感じて、

そしてお母さんのうめきとともに

ねじり出され、外気にさらされ、

全身を震わせながら、うぶ声をあげた。

小さな体に、小さなうぶ声。

だけどそこにいる誰しもが、

その声だけに耳を傾けているから、

まるで世界はそのうぶ声しか

存在していないかのようだ。

自らファンファーレを奏で、

血だらけの体をやさしくぬぐわれ、

ふかふかのタオルにくるまれて、

まだ開け方もわからない

まぶたの重力に逆らうこともなく、

お母さんの胸元で眠りにつくのである。

あなたが生まれた瞬間。

まるで世界があなたそのものかと

思ってしまうくらい、

幸せの波紋が広がり、愛おしさで満ち満ちた。

そんなさざ波の連なりに、

わたしたちは生かされている。

わたしも、あなたも、愛おしい人。

みんな誰かの愛おしい人であり、

波はわたしに、あなたに、伝播する。