実は気が弱い寿司屋の大将

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30年程前に出会った寿司屋の大将は楽しい人でした。
彼には、居酒屋やスナックに連れて行ってもらいました。大将は、どの店でも人気がありました。

板前.jpg

今でも馴染みにしているバーのマスターとは、大将よりも古い付き合いです。大将は私の12歳年上で、マスターは私より3歳年上です。

あるとき、大将が私に「バーに行ってみたいけど、一人では行きづらいから連れて行って欲しい。」と言うので、その夜、寿司屋を閉めてから案内することになりました。

彼は、髪や身なりを整え始め、まるで誰かとデートに行くような身構えで、いつもの荒々しさが消えていました。寿司屋からバーまでは徒歩1分の距離で、あっという間にバーの前に着き、私が扉を開けようとすると「ちょと待て。」と言い、深呼吸を始めました。

私は、もしかするとマスターとの仲が悪いとか、過去に何か事件があったのかと想像しました。
面倒なことに巻き込まれたくないと感じつつ、店に入りました。

夜の街.jpg

カウンターに座ると、マスターが大将に挨拶に来ました。大将は、この繁華街で知らない人がいないほどの有名人でした。挨拶を受けた大将は席を立って「よろしくお願いします。」と挨拶を返しましたが、とても緊張している様子でした。
大将はビールしか飲まないことを知っているので、私は大将にビールで良いかと尋ねると、「ビールなんて頼んで良いのか。」と言いました。
私は、ビールとソルティードッグを注文し、タバコを吸おうとするとスタッフが灰皿を持ってきてくれました。大将は、そのスタッフにも席を立って「よろしくお願いします。」と言いました。そして、私が大将に話しかけると静かにするように促されました。

ビール.jpg

注文した飲み物を出してくれたときにマスターが「この店は、昔のように堅苦しくないので、気楽にお過ごしください。」と言葉をかけました。

後で知ったのですが、昔のバーの中には格式の高い店が多く、大将は、それをイメージしていたようです。

1杯目のビールを飲み干した頃、ようやく大将から言葉が出てきました。「本当に気楽にして良いみたいでホッとした。緊張したよ。」と少し笑顔になりました。マスターが、お代わりを勧め、大将は2杯目を飲み始めました。「いい店ですね。」と大将がマスターに話しかけました。

数日後、バーに入るとカウンターでマスターが1人で飲んでいて、大きな声でスタッフと話していました。私に気が付くと、大将は「マスター、好きなのを作ってあげて。」と言いました。その姿は、おおらかな大将そのものでした。

ソルティドッグ.jpg

今年で7年になると思いますが、今年も彼が亡くなった季節を迎えました。
まだ、私の心にも、マスターの心にも彼は生きているのです。

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