第44回:企業価値評価の主な手法の整理(前編)

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第44回:企業価値評価の主な手法の整理(前編)

この度はお読み頂きまして誠に有難うございます。Taskaruです。本ブログではコーポレート・ファイナンスに関わる話題を幅広く取り上げていきたいと考えています。

ココナラでは企業価値評価の手法としてよく使われる「DCF法」のテンプレートを提供していますが、数多くご用命頂いている中で、「DCF法以外にはどういった企業価値評価の手法があるのか」、「それぞれの手法で評価する場合にどういった結果になるのか」という疑問も頂戴するようになり、こちらのブログでまとめて参りたいと考えています。
※尚、企業価値評価のことを「バリュエーション(する)」という表現を使うこともありますので、本ブログでもそのような記載をする場合もございます。

この話題については2本立てで、まずはこちらの「前編」にて、企業価値評価の手法を整理した後、「後編」(第45回)にて各々の評価手法を使った場合にどのような結果になるのか整理して参ります。どうぞ宜しくお願い致します。

さて、バリュエーションの手法ですが、一般的には、大きく分けて次の3つあります:
①インカム・アプローチ
②マーケット・アプローチ
③コスト・アプローチ

①インカム・アプローチ
概要:会社の将来のキャッシュフローや利益、あるいは、配当といったものを勘案したうえで、バリュエーションを行うものです。具体的にはDCF法や配当割引法、あるいは、少し前に紹介したDiscounted Earnings法も含まれます。

メリット:最も大きな点としては、会社の将来の収益性も反映できることが挙げられます。特に、足元の業績が何らかの事情により短期的に軟調である場合、将来の成長性、あるいは、将来的な業績回復を織り込んだ上での企業価値評価が可能というイメージです。

デメリット:将来の「予想値」を反映する以上、そうならない場合のリスクが伴います。これはダウンサイドという意味でもそうですし、アップサイドという意味もあります。また、将来の財務数値の予想をするにあたっては詳細な分析が必要になる点や、割引率といった必要な多くのパラメーターがあり、これらのデータ・ポイントを用意する必要があるため、”相応に手間がかかる”点が挙げられます。

【ご参考:過去の記事】

②マーケット・アプローチ
概要:株式市場(=マーケット)で実際に取引が行われているバリュエーション水準を目線においた評価手法です。具体的には、P/E(PER、=株価÷1株あたり利益)やEV/EBITDA倍率等が使われます。左記のような倍率を「マルチプル」と呼びます。また、自社の水準だけでなく、自社と類似する企業の水準を参考にして評価を行います。→ 類似企業比較分析(Comps分析)と言います。

メリット:株式市場のデータを使うため、比較的容易に数値を取得できることや、インカム・アプローチほど複数のパラメーターが必要でないため、(インカム・アプローチと比べて)相対的に簡便に利用できる点が最大のメリットと考えています。また、市場環境を織り込むことができる点が挙げられます。その他にも、実際に取引されているデータを使うため「客観性が高い」という主張もあります。

デメリット:一見すると直感的なアプローチではありますが、実際は複雑な点もあります。具体的には、短期的に収益が落ち込んでいる会社を正しく評価できない点(つまり、PERやEV/EBITDA倍率を計算する際に、収益水準は分母に相当するため、収益水準が落ち込んでいる=分母が小さい=PERやEV/EBITDA倍率が分数としては異常に高くなってしまう可能性)、類似企業比較分析においては、類似する企業の選定において結果的に恣意性が生じる可能性がある点、が挙げられます。尚、詳細については、過去記事にも記載しているので、合わせてご参考頂けますと幸いです。

【ご参考:過去の記事】

③コスト・アプローチ
概要:対象企業のバランスシートに着目し、純資産をベースに企業価値を評価するもの。例えば、簿価ベースの純資産を基にする簿価純資産法や、資産や負債について時価評価を行ったうえで純資産を計算する時価純資産法などが挙げられます。

→ 正直、投資銀行の実務ではあまり使われるシーンを見たことがありません。この手法のメリットとしては、貸借対照表に基づいた計算であるため客観性があるという主張があります。この点には反対しませんが、一方で、”コインの表裏”として、貸借対照表という一時点の数値を使うものであるということは、見方を変えれば、将来性を反映することが難しい点がデメリットになるものと考えています。

尚、上記にて紹介した3つのバリュエーション手法ですが、実務においては、いくつか組み合わせて使用する場合も多いです。例えば、①インカム・アプローチにおけるDCF法で計算した結果を、②マーケット・アプローチのPER、EV/EBITDA倍率でクロスチェックする、といったイメージです。

ご参考:以前のブログ第39回において、DCF法の結果とマルチプル水準のクロスチェックをする方法を紹介しています:

「前編」はまずは以上になります。お読み頂きまして誠に有難うございます!

次回、「後編」に続きます。どうぞ引き続き宜しくお願い致します。

【ディスクレーマー】
将来財務数値に関する予想並びに財務数値実績について、作成にあたって各種開示資料は参考にしていますが、内容や情報の正確性については一切保証しません。また、市場データ等についてもその完全性は保証しません。本資料はコーポレート・ファイナンスに関連する学習のための参考資料であり、便宜的な仮定や前提が含まれていることにご留意ください。また、特定の株式の購入や売却等を勧誘するものではありません。本資料の利用によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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