第27回:企業価値評価 ~ 類似企業比較分析(Comps分析)

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第27回:企業価値評価 ~ 類似企業比較分析

この度はお読み頂きまして誠に有難うございます。Taskaruです。本ブログではコーポレート・ファイナンスに関わる話題を幅広く取り上げていきたいと考えています。

さて、本日は「類似企業比較分析」についてです。英語では、Comparable Companies Analysisと言われることから、Comps("コンプス")分析と呼ばれることが多いです。

まず、本題に入る前に少し全体像を整理したいと思います。企業価値評価(バリュエーション)の手法について、大きく3つに分類すると、次のようなアプローチが挙げられます。

① インカム・アプローチ:企業の将来の収益やキャッシュフローの予想を指標として企業価値を評価するもの。具体的にはDCF分析(Discounted Cash Flow、まさに文字通りキャッシュフローが登場する分析)が挙げられます。DCF法の詳細についてはブログ第8回に掲載しています。

② マーケット・アプローチ:対象企業と同業他社の時価総額を比較したり、類似の買収事例などを参考に企業の価値を評価する手法。

③ コスト・アプローチ:対象企業のバランスシートに着目し、純資産をベースに企業価値を評価するもの。例えば、簿価ベースの純資産を基にする簿価純資産法や、資産や負債について時価評価を行ったうえで純資産を計算する時価純資産法などが挙げられます。

→ 今回紹介するComps分析は、②マーケット・アプローチに属する手法の一つになります。つまり、概念として、Comps分析においては、市場において実際に取引されている株価や指標等に着目した企業価値評価の手法となります。また、重要なポイントとして、似たような業種や財務/収益構造をもった企業群(=即ち、”類似企業”)を特定し、そこで文字通り”比較”をするということが挙げられます。

具体的な使用例:
・上場企業のバリュエーションに関する考察(この株は割安なのか、割高なのか)
・上場企業のバリュエーション水準に基づいて、非上場企業のバリュエーションの目線を考察する(非上場企業が上場したとしたら、いくらになるのか)
・コングロマリット企業において、各々の事業がどれだけ価値があるかを考察する(例えば、直近の東芝の例であれば、各々の事業を分離上場を企図していますが、各々の事業の価値は、ある意味では”非上場”なので、分かりませんが、Comps分析を用いて価値を考える)

また、メリット・デメリットは次の通りとなります:

【メリット】
・公開情報に基づいていること
・日々売買が行われており色々な思惑を持った市場参加者によって形成されている市場/マーケットで実際に取引されているデータが使われていること。つまり、市場は効率的であるという仮定に立てば、あくまでも”理論的には”、利用可能な情報(業界のトレンド、事業リスク、成長の見通し等)は全て価格形成に反映されているということが言えます

【デメリット】
・真に類似の企業を見つけることが非常に難しい点。全てが同じ企業という企業は二つとして存在していないので、あくまでも”類似”のものの比較になります
・市場の取引データが必ずしも正しいとは言えない点。つまり、例えば流動性が低い株などは、取引高や個別のイベント等によって、株価が大きく変動する可能性があります。つまり、マーケットは効率的かもしれないが、常に正しいとは限らない、という議論があります

特にデメリットとして記載した1点目は特に重要で、Comps分析は、エクセル・ワークと言うよりも、どれが類似企業かを選定するか、という点が、結果にかなり大きく影響します。

では、どのように類似企業を選定するか?これは一つの答えはなく、分析者の業界知識や分析の目的によっても大きくブレが生じます。つまり、DCF分析等のように公式はないので、同じ分析対象企業でも、違う人がやれば、異なる類似企業群を選定する可能性も十分になります。そういう意味で、絶対的な答えはないものの、ここで最も重要なのは、「なぜこの会社を類似企業として選定したのか」を非常に明確に答えられることだとTaskaruは考えています。実務の現場でも、この質問は毎回出ていましたし、その答えに対して、どれだけプロジェクト・チーム(相手先企業/顧客も含め)を納得させられるかが肝要になると考えています。

そのため、以下に大枠としての類似企業選定のアプローチを記載して参りますが、どうしてこれを類似企業として入れるのかという点については、選定の際からロジックを固めておくことをおススメします。

【類似企業選定のアプローチ】
・同じ業界/業種に属する企業を選定する。例えば業種コード等のデータベースに基づく定義でも構いませんし、分析対象企業が製造する商品や商品ミックス、地域別売上、あるいは顧客属性などに照らして、”同じ業界/業種”に属する企業を選ぶ
・規模が似た企業を選定する。例えば売上高や営業利益、あるいは時価総額の「額」に着目した選定を行う
・成長率や利益率が似た企業を選定する。例えば、高い売上高成長率がある企業であれば、それらを一括りとしてみなす選定をする
・その他、似たような財務構成(負債比率)や株主構成(創業者株主等)に着目する

※尚、こうしたアプローチを取って選定した後も、(利用可能であれば)自分より分析対象のビジネスに詳しい専門家や、証券会社の株式アナリスト等に意見を伺いながら、類似企業群を精緻化していくことをおススメします。

続いて、実際のComps分析の流れについて、説明を続けます。

Comps分析については、DCF分析のようなガチっとしたフォーマットは必ずしもないのですが、典型的な書式で、フルにやる場合は、以下の情報を取り上げることが多いと考えています。尚、全てが必要と言うわけではなく、プロジェクトごとに、あるいは、利用可能なデータベースの範囲内で対応を進める形になると考えています。

基本情報並びに株価情報
①決算期
②現在の株価(可能であれば、52週高値/安値といったものも含めると、今の株価が値動きトレンド対比でどのぐらいになっているかが見えるので、おススメします)
③時価総額
④企業価値

バリュエーション指標
⑤P/E(PER)
⑥EV/EBITDA
⑦その他適切と考えるもの
※いずれも、今期(FY+1)と来期(FY+2)を入れるようにすることをおススメします。もっと先の期を入れても構いません。

オペレーティング指標
⑧売上高や営業利益の成長率
⑨EBITDAマージンや営業利益率
※こちらも、バリュエーション指標に対応して、例えばFY+1とFY+2の数値を入れるようにすることをおススメします

財務指標
⑩Net D/E Ratio(純有利子負債を自己資本で割り算したもの)
⑪Net Debt / EBITDA Ratio(純有利子負債をEBITDAで割り算したもの)
※財務指標については、ケースバイケースで必ずしも必要ではない時もありますし、参照指標についても一定程度はバラつきがある印象です。

上記を纏めたイメージとしては、このような形になります。

※こちらは、無料のデータベース「バフェット・コード」を利用したものですので、データベースの制約上、上記に掲載した項目を全部網羅してはいませんが、あくまでも”イメージ”としてご参考になればと思います。

Comps.png

この例に基づき、分析対象企業をアサヒ・グループ・ホールディングス(アサヒGHD)とすると、類似企業比較分析による考察は以下の通り言及できます:

・バリュエーションの中央値~平均値は、PERで19.6x~24.1x、EV/EBITDAで12.8x程度であることから、類似企業比較分析という点で、アサヒGHDは足元PERが17.8倍であることから、比較的”割安”ということが表面的には言えるという考察ができます。
・また、逆に言えば、アサヒGHDはPER 20-24x程度で取引されるべきであるということも言え、そこから、「アサヒGHDの予想EPS(1株当たり純利益)x20-24倍」と言う計算を行って、理論株価を算出することもできます。
但し、ここで要注意なのは、サッポロHDのPERが37.8xと高い水準にあります。PERは、利益が下がっても、PERの倍率としては上がることがあるので(PER = 株価÷利益なので、分母が小さくなることで倍率としてのPERが上がる)、果たしてこのPERが、いわば”平常状態のものであるか”という点は、個別の企業として検証する必要があると考えています。
こうした個別企業に対する丁寧な分析が必要であることから、Compsの選定やその分析は、エクセル・ワークとしてはシンプルですが、各々の企業に対する詳細な知識を付ける必要があるという点が、非常に重要になってきます。

余談になりますが、例えば投資銀行の実務では、DCF分析等の財務モデリングは「プロダクト」チーム(イメージとして、M&A等の取引実務に関するプロで正確な案件遂行が期待される部門)が対応し、Comps分析については「カバレッジ」チーム(いわゆる顧客企業を向いているチームで、業界知識が期待される部門)で分担を分けることが多いです。それほど、Comps分析では業界知識が求められる、ということが言えるかと思います。

本日は以上となります。最後までお読みいただき、誠に有難うございます!

次回以降もどうぞ宜しくお願い致します。

【ディスクレーマー】
将来財務数値に関する予想並びに財務数値実績について、作成にあたって各種開示資料は参考にしていますが、内容や情報の正確性については一切保証しません。また、市場データ等についてもその完全性は保証しません。本資料はコーポレート・ファイナンスに関連する学習のための参考資料であり、便宜的な仮定や前提が含まれていることにご留意ください。また、特定の株式の購入や売却等を勧誘するものではありません。本資料の利用によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。





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