【詩】わらういきもの

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漂う熱がすべて空に還った、冷たい夜。
海の底で魚の乙女は、泡の涙をこぼしました。
彼女に睫はないということや、
何故海が塩辛いのかも知らなかったけれど、
乙女は涙を熱いと思いました。
泡は……水面へ、そして空へ、ゆっくり浮かびあがります。
静かな月と雲と一緒に漂って……
しばらくいくと、
荒々しい浪のように吼える狼に出会いました。
狼の叫びは……怒りのものではありません。
嘘偽りなく、慈しみと、愛しさから来る悲しみでした。
それはまさに、大きく打ち上がった、力強い浪のように叫ぶのです。
あまりの激しさに、泡ははじけてしまいました。
けれども、狼の心が開いて明るくなるように、
願う魚の乙女の泡は、
狼の足もとに、花をひとつ、ぽっと咲かせるのでした。
叫び疲れた狼は、
慰めてくれたその花を、優しく抱いて眠りました。
海の底で泣く魚の乙女は、
その時、海と涙が塩辛い理由を知りました。

彼らは、わらういきものです。
春よ、春よ、
来ておくれ。



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