はじめに
私は1986年に一本立ちしてから40年、映像の仕事をしてきました。プロデューサー一筋で、監督業はやっていません。専門家に何かを頼むのが仕事でした。
その40年のあいだ、私は編集ソフトのタイムラインを一度も触っていません。会社としては早い時期にFinal Cut Proを全面導入しておきながら、自分では触らなかった。道具を覚えるまでに時間とコストをかけるのが、馬鹿らしくて仕方がなかったからです。ハサミと定規とノリでできたことを、なぜ難しいアプリでやらなければいけないのか。それはいつか変わるだろうと、ずっと思っていました。
2024年に、変わりました。
いま私は、映像を作っています。編集ソフトのタイムラインは、やはり触っていません。代わりに、十数頭のAIを飼っています。
この記事は、その飼い方の記録です。プロンプトの書き方の話は一行も出てきません。プロンプトを自分で書くのをやめたところから、この話は始まります。
第1章 三段あった
AIとの付き合い方には、三つの段階がありました。多くの人が第一段で止まっています。
第一段 自分でプロンプトを書いていた頃
最初は、画像生成サービスの無料枠を使って、自分で一生懸命プロンプトを書いていました。YouTubeでも「有料プロンプト集」「このプロンプトがいい」という記事ばかり読んでいました。
それも違う、とずっと思っていました。
理由は単純です。プロンプトを磨く行為は、道具を覚える行為だからです。私が40年かけて避けてきたものと、同じ形をしていました。呪文の暗記に時間を使う人間が、なぜ映像作家と呼ばれるのか。腑に落ちませんでした。
第二段 APIとMCPを知った瞬間
頭上に光が現れたのは、APIとMCPを知ったときです。
プロンプトは、自分で考えなくていい。AIに考えてもらえばいい。
画像生成AIや動画生成AIは、専門家です。専門家への指示は、別の専門家に書かせればいい。プロデューサーが40年やってきたことと、まったく同じ構造でした。私はディレクターに絵コンテの描き方を教えたことがありません。何が欲しいかを伝えて、あとは任せる。それが仕事です。
第三段 司令塔を置いた
そこから、いまの形になりました。司令塔AIを一頭置き、その下に専門職のAIを何頭も置く。
私はこれをコマンダーAIと呼んでいます。司令塔として最も優秀だったのがClaudeだったので、いまもClaudeと組んでいます。理由は頭の良さそのものよりも、連携できるアプリの数と、MCP連携の多さです。司令塔に求められるのは、賢さではなく、手足の多さです。
多くの人は、いま第一段にいます。プロンプトの記事を読んでいます。
この段は、飛ばせます。
第2章 司令塔に何をさせるか
司令塔は、絵を描きません。動画も作りません。歌も歌いません。
司令塔がやるのは、次の五つです。
一、翻訳。 私が日本語で言った曖昧な要求を、各専門職が理解できる形式に変換する。動画生成AIに渡すプロンプトの英語も、パラメータのJSONも、司令塔が書きます。
二、分解。 「2分のミュージックビデオを作る」を、44個のカットに割り、各カットの尺・画角・被写体・カメラワークに分解する。
三、実行。 APIを叩き、返ってきたものを保存し、失敗したら次の手を打つ。ここがスクリプトになると、人は寝ていていい。
四、記録。 何をどのモデルにいくらで投げて、どう返ってきたかを残す。これが後で効いてきます。第7章で詳しく書きます。
五、審判。 複数の専門職に同じ仕事をさせて、比べさせる。相互に監視させる。
五番目が、いちばん人に伝わりにくい部分です。同じ画を三つのモデルに描かせて、司令塔に「どれがコンテに近いか」を判定させる。人間が三つ並べて見るより速く、しかも判定の理由が言語で返ってきます。理由が返ってくると、次のプロンプトが直せます。
そして、司令塔にさせてはいけないことが一つあります。
決定です。
どれを採用するか、どこで止めるか、いくらまで使うかは、必ず人間が決めます。司令塔は根拠のない補完をします。聞いていない仕様変更をします。私は「勝手に直すな」と何十回も言いました。それでもやります。司令塔は優秀な助手であって、責任を取る立場ではありません。
はじめに
私は1986年に一本立ちしてから40年、映像の仕事をしてきました。プロデューサー一筋で、監督業はやっていません。専門家に何かを頼むのが仕事でした。
その40年のあいだ、私は編集ソフトのタイムラインを一度も触っていません。会社としては早い時期にFinal Cut Proを全面導入しておきながら、自分では触らなかった。道具を覚えるまでに時間とコストをかけるのが、馬鹿らしくて仕方がなかったからです。ハサミと定規とノリでできたことを、なぜ難しいアプリでやらなければいけないのか。それはいつか変わるだろうと、ずっと思っていました。
2024年に、変わりました。
いま私は、映像を作っています。編集ソフトのタイムラインは、やはり触っていません。代わりに、十数頭のAIを飼っています。
この記事は、その飼い方の記録です。プロンプトの書き方の話は一行も出てきません。プロンプトを自分で書くのをやめたところから、この話は始まります。
第1章 三段あった
AIとの付き合い方には、三つの段階がありました。多くの人が第一段で止まっています。
第一段 自分でプロンプトを書いていた頃
最初は、画像生成サービスの無料枠を使って、自分で一生懸命プロンプトを書いていました。YouTubeでも「有料プロンプト集」「このプロンプトがいい」という記事ばかり読んでいました。
それも違う、とずっと思っていました。
理由は単純です。プロンプトを磨く行為は、道具を覚える行為だからです。私が40年かけて避けてきたものと、同じ形をしていました。呪文の暗記に時間を使う人間が、なぜ映像作家と呼ばれるのか。腑に落ちませんでした。
第二段 APIとMCPを知った瞬間
頭上に光が現れたのは、APIとMCPを知ったときです。
プロンプトは、自分で考えなくていい。AIに考えてもらえばいい。
画像生成AIや動画生成AIは、専門家です。専門家への指示は、別の専門家に書かせればいい。プロデューサーが40年やってきたことと、まったく同じ構造でした。私はディレクターに絵コンテの描き方を教えたことがありません。何が欲しいかを伝えて、あとは任せる。それが仕事です。
第三段 司令塔を置いた
そこから、いまの形になりました。司令塔AIを一頭置き、その下に専門職のAIを何頭も置く。
私はこれをコマンダーAIと呼んでいます。司令塔として最も優秀だったのがClaudeだったので、いまもClaudeと組んでいます。理由は頭の良さそのものよりも、連携できるアプリの数と、MCP連携の多さです。司令塔に求められるのは、賢さではなく、手足の多さです。
多くの人は、いま第一段にいます。プロンプトの記事を読んでいます。
この段は、飛ばせます。
第2章 司令塔に何をさせるか
司令塔は、絵を描きません。動画も作りません。歌も歌いません。
司令塔がやるのは、次の五つです。
一、翻訳。 私が日本語で言った曖昧な要求を、各専門職が理解できる形式に変換する。動画生成AIに渡すプロンプトの英語も、パラメータのJSONも、司令塔が書きます。
二、分解。 「2分のミュージックビデオを作る」を、44個のカットに割り、各カットの尺・画角・被写体・カメラワークに分解する。
三、実行。 APIを叩き、返ってきたものを保存し、失敗したら次の手を打つ。ここがスクリプトになると、人は寝ていていい。
四、記録。 何をどのモデルにいくらで投げて、どう返ってきたかを残す。これが後で効いてきます。第7章で詳しく書きます。
五、審判。 複数の専門職に同じ仕事をさせて、比べさせる。相互に監視させる。
五番目が、いちばん人に伝わりにくい部分です。同じ画を三つのモデルに描かせて、司令塔に「どれがコンテに近いか」を判定させる。人間が三つ並べて見るより速く、しかも判定の理由が言語で返ってきます。理由が返ってくると、次のプロンプトが直せます。
そして、司令塔にさせてはいけないことが一つあります。
決定です。
どれを採用するか、どこで止めるか、いくらまで使うかは、必ず人間が決めます。司令塔は根拠のない補完をします。聞いていない仕様変更をします。私は「勝手に直すな」と何十回も言いました。それでもやります。司令塔は優秀な助手であって、責任を取る立場ではありません。