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財務担当になったあなたへ ~”財務部に異動したら” 実際の案件を疑似体験しながら学べる超実践型~
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2026年08月15日 17:15

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500

30億円の新工場投資を、
初回面談から着金後管理まで90分で追体験


長期設備資金編 

会話シナリオ / 数字デモ / 条件比較 / そのまま使えるテンプレート

・本著作について

財務は、知識だけでは身につかない仕事です。

財務の世界には、優れたファイナンスの本が数多くあります。
企業価値評価、資金繰り、キャッシュフロー、資本政策、銀行融資――。
理論を学ぶための本には困りません。

「では、実際の現場でどう動けばいいのか?」

突然、「今期の資金需要は?」「返済原資は?」「なぜ10年で借りたいのですか?」「他行はどのような条件ですか?」

と聞かれたとき、教科書で学んだ知識を、どう言葉にして返せばいいのか。
ここは、実際に経験してみなければ分かりにくい領域です。

にもかかわらず

新任財務担当者が実際の案件を疑似体験しながら学べる書籍は、ほとんどありません。

著者自身も、営業畑から財務部に180度違う異動を経験し、どう動けば、どう会話すればいいか見当もつかず、苦労した経験があります。

本書は、そこに一石を投じるために作りました。

理論を説明する本ではなく、財務の現場を“シミュレーションする本”です。

初めて銀行融資を担当する人が、経験者の隣に座り、実際の銀行交渉を最初から最後まで見せてもらう。

そんな感覚で読める一冊を目指しています。

書籍の知識と、実践での動き、本書が扱うのは、その「知っている」と「できる」の間です。

この本の約束
 難しい用語は脚注と巻末用語集で、その場で意味を確認できるようにしています。「何を言うか」だけでなく、「なぜその順番で言うのか」「銀行内でどう書かれるのか」まで示します。
 金利だけでなく、期間・据置・返済方法・担保・コベナンツを含めて、資金繰りに効く条件を比べます。
読み終えたら、自社案件に置き換えられる1枚メモとチェックリストが残ります。

想定読者

部署異動や新卒で初めて財務部の仕事の触れる方
初めて銀行との融資面談に同席する新任財務・経理担当者
会話や折衝の経験則がなく、不安に思っている方

著者プロフィール

 最大手エネルギー企業、最大手メディア企業、グローバル企業で一貫して財務・トレジャリー領域に従事。資金調達、資金管理、金融機関交渉、財務ガバナンス、業務改革、財務システム導入などを幅広く経験。現在はグローバル企業の財務部門で、ファイナンスマネージャとして、経営と実務の両面から財務体制の構築・高度化に取り組んでいる。本書では、教科書だけでは分かりにくい「現場の財務」を、実際の経験をもとにできるだけ具体的に伝える。

利用上の注意
 本書の数値・条件は学習用の例です。実際の融資条件は、企業規模、信用力、資金使途、担保、金融機関、制度融資などで変わります。契約・税務・会計上の判断は、銀行、弁護士、公認会計士、税理士等に確認してください。制度情報は2026年8月時点です。

90分の読み方

 最初から最後まで読めば、案件の流れを一度通しで体験できます。急いでいるときは、第5章の「1枚メモ」、第6章の「面談実況」、第8章の「条件交渉」を先に読んでください。テンプレートへの書き込み時間は、90分に含めていません。

章 / 内容                     /目安
0章/ はじめに:銀行面談は「お願い」の場ではない  /4分
1章/ 一つの案件を最後まで追う           /5分
2章/ 銀行は何を見て、社内でどう判断するのか    /6分
3章/ 面談30日前からの準備             /7分
4章/ 銀行に行く前に条件を設計する         /8分
5章/ 1枚で伝わる資金調達メモ            /6分
6章/ 初回面談を実況する              /18分
7章/ 返済できることを数字で示す          /9分
8章/ 金利より先に交渉する条件           /8分
9章/ 3行の提示をどう比べるか            /5分
10章/ 契約・着金までに起こること           /4分
11章/ 借りた後の管理が次の調達を決める       /3分
12章/ 計画が崩れたときの話し方           /5分
13章/ そのまま使える実務テンプレート        /2分

 

0章  /  4分 はじめに:銀行面談は「お願い」の場ではない


銀行の応接室に入る前から、融資の勝負はかなり決まっています。財務担当になって間もない頃、上司からこう言われることがあります。

「来週銀行が来る。新工場借入を相談したいから、資料を用意しておいて」

 多くの人は、まず決算書を印刷し、資金繰り表を探し、前年の銀行説明資料をコピーします。準備として間違いではありません。ただ、それだけでは足りません。銀行が知りたいのは、資料がそろっているかどうかではなく、この会社が借りたお金を、計画どおり事業に使い、約束どおり返せるかです。
 銀行との面談は、表向きは会話です。しかし銀行員の側では、その会話を材料にして稟議[1]を組み立てています。「最近どうですか」という質問も、雑談のようでいて、売上・利益・資金需要に変化がないかを探っています。「他行さんはどうですか」は、競争状況と自行の取引余地を確認しています。あなたの一言は、面談室を出た後、銀行内の文章に変わります。
 ですから、融資面談を「お金を貸してくださいとお願いする場」と捉えると、最初から立ち位置を誤ります。企業側がやるべきことは、必要な資金を設計し、その設計が合理的であることを銀行に説明することです。私はこれを、借入のプレゼンテーションだと考えています。

※1稟議:担当者が案件内容、リスク、条件、承認理由をまとめ、組織内の決裁を得る手続。

現場から
 銀行担当者は敵ではありません。ただし、無条件の味方でもありません。担当者には「なぜこの会社に、この金額を、この期間で貸してよいのか」を銀行内で説明する責任があります。担当者を味方にする一番の方法は、うまく話すことではなく、担当者が稟議を書きやすい材料を渡すことです。

銀行が最初に見ること

会社の規模が3,000万円の借入でも、300億円の借入でも変わりません。違うのは資料の厚さと関係者の数です。

本書では、製造業F社の新工場投資を題材にします。面談の会話だけではなく、その前に何を決め、どの数字を作り、銀行の提示をどう比較し、契約後に何を管理するかまで通します。読み終えたとき、「銀行から何を聞かれるか」ではなく、こちらから何を提示すべきかが分かる状態を目指します。

やってはいけないこと

分からない数字を、その場の勢いで作る。
「売上から返します」とだけ答える。
金利だけを見て、返済期間・据置・担保を後回しにする。
社内で未承認の条件を、銀行に確約する。
悪い情報を隠し、銀行が別ルートで知ってから説明する。
金融機関は口頭上の約束事もすべて記録しており、あとからやはり違いました、は修正に苦慮する。

 

1章  /  5分 一つの案件を最後まで追う


数字の前提が揺れると、会話も稟議も揺れます。まず案件を固定します。

今回の主人公は、精密部品メーカーのF社です。自動車・産業機械向けのベアリング部品を製造しており、既存顧客からの増産要請に応えるため、新工場を建設します。
 ケースの金額は学習用に丸めています。大事なのは金額そのものではなく、資金使途、調達額、返済原資が一本につながっていることです。

F社の現状

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※2 EBITDA:利息・税金・減価償却前の利益。本書では簡易的に「営業利益+減価償却費」として扱うが、 契約上の定義が優先する。金融機関によって本KPIの計算方法が異なる場合もあり、「EBITDAの計算式は銀行評価上どのようにされているか?」と聞いて、平仄を事業会社と金融機関とで合わせると、出来るやつと思われるかもしれない

新工場プロジェクト

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初心者が見落としやすい点
 工場を建てる30億円だけを用意しても、操業開始後に原材料・在庫・売掛金が増えます。F社では、立ち上げ時の運転資金が最大3億円増える見込みです。設備資金と運転資金を同じ箱に入れず、別々に必要額と手当方法を示します。設備資金は支払日が見える「点」、運転資金は営業循環の中で繰り返す「輪」です。

 

F社が希望する条件

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※3 元本据置:一定期間、元本返済を開始せず、通常は利息のみ支払うこと。事業の立上げ時期と合わせて 設計する。金融機関は当然、返済は早い方が良い(=銀行側のキャッシュフローが改善するので)が、返済が何に基づいているのか、設備投資のキャッシュフローで返済するのであれば、設備が立ち上がってから返済原資が生まれ、それから返済を始める(=それまで元本の据え置き)が適切だが、据え置き期間中も含めて返済余剰を生み出せるか?という多少の不確定要素から、運転資金の借り入れより金利条件が悪くなることが多いのが特徴だ

希望条件は、理由と優先順位まで決めます。F社は金利差より10年と1年据置を優先し、無担保が難しければ新工場のみ担保設定を検討します。ただし、既存資産への包括担保は受けません。この線引きが、後の交渉の軸です。


2章  /  6分 銀行は何を見て、社内でどう判断するのか


担当者の向こう側に、審査部、決裁者、リスク管理がいます。

 銀行の営業担当者と良い関係を築くことは大切です。しかし、担当者が「ぜひやりたいです」と言っても、それだけで融資は決まりません。銀行では、営業店・法人部門が案件をまとめ、審査部門が信用リスクを見て、権限に応じた決裁者が承認します。金額が大きい、期間が長い、担保がない、業績が弱い、といった要素が増えるほど、上位の決裁と追加資料が必要になります。
 この仕組みを知ると、面談での目的が変わります。担当者本人を言い負かすことではありません。担当者が審査部から聞かれる質問を先回りし、銀行内で再説明できる材料を渡すことです。

銀行内で案件が進む流れ

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銀行担当者の頭の中
「この会社は良い会社だ」と書くだけでは稟議になりません。担当者は、①何に使うのか、②なぜ今なのか、③いくら必要か、④どこから返すのか、⑤計画が外れたらどうするのか、⑥自行にとって条件は妥当か、を文章と数字で埋めます。

※4 与信:相手の返済可能性を評価し、信用を供与すること。融資額、期間、金利、担保などの条件に反映 される。 「つまり、銀行にとって金利とは単なる“貸出利息”ではなく、その融資で取るリスクに対する値段でもある。」これが新任財務担当者にはかなり重要です。例えば銀行から、「保証を付けていただければ、もう少し金利を検討できます」と言われたとき、新任者だと「保証があるから安心なんだな」で終わりがちです。しかし裏では、信用リスク削減→必要な資本への影響→銀行の採算改善→プライシング余地というロジックが動いている場合があります。保証について、バーゼル規制でも一定の条件を満たせば信用リスク削減効果を認識できる仕組みになっています

質問は、稟議の見出しを埋めるためにある

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 銀行は、完璧な計画だけを求めているわけではありません。むしろ、都合の良い数字しか出さない会社を警戒します。売上が遅れる、工事費が上がる、補助金の入金が遅れる。そのようなことは起こり得ます。大切なのは、リスクを把握し、影響額を計算し、対応策を決めていることです。
 一方で、銀行にすべてを話せばよいわけでもありません。銀行には守秘義務がありますが、受け取った情報は営業担当だけでなく、審査、法務、リスク管理など銀行内で共有されます。未承認のM&A、価格交渉中の大型契約、顧客との秘密保持契約に触れる情報は、開示範囲を整理してください。返済能力を示す数字は具体的に、競争戦略の核心は必要な範囲に絞る。この線引きも財務の仕事です。

言い方の例
「顧客名は契約上開示できませんが、上位3社の業種、過去3年の継続率、注文内示の金額と期間は匿名化して提示できます。必要であれば、守秘範囲を確認した上で原資料を閲覧いただきます」

 

「銀行に見せる数字」と「契約で使う数字」は同じと限らない

EBITDA、ネットデット、DSCR[5]といった指標は、銀行や契約によって定義が違います。たとえば現預金から使途制限付き預金を除くのか、リース負債を有利子負債に含めるのか、一時的な損益を調整するのかで数値は変わります。

面談では簡易計算でよくても、コベナンツ[6]に入る定義は契約書が基準です。「当社計算では3.2倍です」と言った数字が、契約定義では3.8倍になることがあります。用語を覚えるより、定義を確認する癖をつけてください。

※5 DSCR Debt Service Coverage Ratio。返済可能なキャッシュフローを元本返済と利息の合計で割った指標。なお、一般的な事業会社向け融資では、銀行が必ず「DSCR」という名称で審査しているとは限らない。EBITDA、有利子負債/EBITDA倍率、営業CF、FCF、年間返済額などを用いて、実質的に同じ「返済余力」を確認していることも多い。特にプロジェクトファイナンスや不動産ファイナンスではDSCRが重要な管理指標となる。
銀行:「DSCRはどの程度を見込んでいますか?」
財務:「ベースケースでは1.45倍です。売上を10%下振れさせたケースでも1.23倍を確保できる想定です。」ここで重要なのは、「1.45倍です」と答えるだけではなく、“下振れしても返せる”ことまで数字で示すこと。銀行が本当に知りたいのは計画通りにいった場合ではなく、計画が外れたときにも返済できるかだからである。


※6 コベナンツ:借り手が契約期間中に守る財務上・行為上の約束。判定方法、例外、違反後の手続まで確認する。

銀行:「本件ですが、連結純資産100億円以上の維持をお願いしたいと考えています。」
財務:「100億円の絶対額でしょうか。それとも前期末純資産の75%維持など、相対基準での設定は可能でしょうか。また、一時的な為替換算差額による減少も判定に含まれますか。」

ここで新任担当者がやってはいけないのは、「分かりました」とその場で受けること。
コベナンツは金利以上に長期間会社を拘束することがある。現在の数値だけを見るのではなく、3~5年の事業計画を使って、どの程度の下振れまで耐えられる条件なのかをシミュレーションしてから受けるのが財務担当者の仕事であり、また、口頭ではコベナンツを示されなくても、ドキュメンテーション(融資契約書)にコベナンツの性質に近いものが記載されていることもあるので、チェック要(例えば、”本設備投資に係る銀行取引関連はすべて弊行にて行う”など)

3章  /  7分 面談30日前からの準備


融資面談の失敗は、面談中よりも社内準備の不足から起こります。
銀行から資料リストが届いてから動くのでは遅いことがあります。設備投資は、工事契約、取締役会、補助金、許認可、支払日が絡みます。財務は、資金が必要な日から逆算して、銀行審査と契約の時間を確保します。

F社では、最初の面談を資金実行希望日の約3か月前に設定しました。以下は、初回面談の30日前からの実務です。

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最初の社内会議で聞く12項目

投資の目的は、増産、更新、合理化、法令対応のどれか。複数なら優先順位は何か。
投資をしない場合、売上・品質・安全・コストに何が起こるか。
総額は税込か税抜か。工事予備費、金利、手数料、移転費を含むか。
契約済み、見積段階、社内承認前の金額を分けているか。
支払先、支払日、検収条件、前払・中間払・残金の割合は。
補助金・保険金・資産売却など、借入以外の入金時期は。
操業開始後、在庫・売掛金・買掛金はどれだけ増えるか。
増収・コスト削減の根拠は、契約、内示、過去実績のどれか。
工期遅延、価格上昇、需要未達の最大影響は。
既存設備へ転用できるか、段階投資に切り替えられるか。
取締役会や投資委員会はいつ承認するか。銀行へどこまで確約できるか。
銀行提出資料の作成者と、面談で回答する責任者は誰か。

現場から
設備投資の金額は、会議のたびに変わります。設備部門は本体価格、経理は税込支払、財務は資金が出る日を見ています。同じ「30億円」でも意味が違う。最初に、金額の基準日・税込税抜・確定未確定を表にしてください。

 

銀行へ出す基本資料例

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想定問答は「答え」より「担当者」を決める

想定問答を作るとき、長い模範回答を書く必要はありません。質問、30秒の回答、根拠資料、回答責任者を並べます。技術的な質問を財務が無理に答えるより、「仕様は工場長から説明します」と役割を切る方が信頼されます。

不明点は、その場で推測しないでください。「数字を確認し、本日17時までに回答します」と期限を付ければ十分です。分からないことより、作った数字を後で訂正する方が信用を傷つけます。

面談直前の5分確認
本日の目的:情報提供か、条件打診か、正式申込みか。
希望条件:金額・期間・据置・実行時期・担保・金利方式。
絶対に言わないこと:未承認条件、未公表案件、推測値。
持ち帰ること:銀行の審査日程、追加資料、次回提示内容。
面談後の担当:誰が議事録を作り、誰が資料を送るか。

 

4章  /  8分 銀行に行く前に条件を設計する


条件交渉は、銀行の提示を見てから始めるのではありません。

銀行へ「いくら、何年で借りたいです」と言う前に、その数字を社内で設計します。設計がないまま面談に入ると、銀行から示された期間と返済方法が、そのまま前提になります。後から長期化を求めても、「当初は8年でよいと聞いていた」と戻されます。

設計する順番は、金利からではありません。必要額、必要日、返済方法、期間、実行方法、金利方式、担保・コベナンツの順です。

1. 借入額は「投資額 - 手元資金」ではない

借入額を決めるときは、投資後に残すべき現金、補助金の入金遅れ、追加運転資金、予備費を入れます。F社は現預金12億円を持っていますが、全額を投資に使いません。給与・仕入・税金の支払、災害や顧客入金遅延に備え、最低7億円を残します。

F社の借入必要額
30億円(設備投資)-5億円(自己資金)- 3億円(補助金)= 22億円
別途、操業開始後の運転資金増3億円を既存コミット枠と営業CFで手当する。

資金使途の証憑
設備投資では、見積書、契約書、請求書、支払予定表などで資金の流れを確認されます。銀行が必ず「支払後にしか貸せない」わけではありません。契約・見積に基づく前払い、銀行から業者への直接送金、支払後のバックファイナンス[7]など、実行方法は案件ごとに設計できます。重要なのは、資金使途が追跡できることです。しかしながら、投資の証憑が必要な点から、運転資金融資より実務上の負担が多いことは、現場目線から留意点です

※7 バックファイナンス:企業が先に支払った資金を、後から借入で補う方法。支払証憑と資金使途の一致が重要。
財務:「設備代金の支払が来月末ですが、御行の審査完了前に支払期限が来る可能性があります。その場合、いったん自己資金で支払い、後日バックファイナンスとして対応いただくことは可能でしょうか」
銀行:「支払時期、請求書、振込記録などを確認した上で検討します。支払後の期間によっては取り扱いが難しくなるため、事前に案件を共有してください」
ここで新任財務担当者に覚えてほしいのは、「融資実行日=設備の支払日でなければならない」とは限らない一方、勝手に先払いして後から銀行に持ち込めばいいわけでもない、ということです。 

2. 返済期間は、設備の寿命と資金繰りから決める

設備の法定耐用年数と借入期間は、必ず一致させるものではありません。ただし、短命な設備を超長期で借りる、長く使う工場を3年で返す、といったねじれは説明が必要です。

「利息がもったいないから早く返す」は、経営判断として正しい場合もあります。しかし、財務担当が先に守るべきものは資金繰りです。元本返済は、利益ではなく現金を直接減らします。低い金利を取っても、返済期間を短くし過ぎて月次資金が詰まれば意味がありません。

公的融資には設備20年・運転10年などの商品がありますが、民間銀行の一般的な上限ではありません。期間は、資金使途、信用力、担保、商品、設備の性質で変わります。「設備資金なら20年借りられる」と決め打ちしないでください。

22億円を単純均等返済した場合

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金利0.10%より、期間2年の方が効くことがある
 22億円の残高に対する0.10%は、初年度で最大約220万円です。一方、10年返済を8年返済にすると、単純計算の年間元本返済は約5,500万円増えます。金利交渉は大切ですが、資金繰りへの影響は期間・据置・返済方法の方が大きいことがあります。

 

3. 据置期間は、利益が出る時期ではなく現金が出る時期に合わせる

工場は、完成した翌日からフル稼働するわけではありません。試運転、歩留まり改善、顧客認証、在庫積み上げを経て売上になります。F社では、初回実行から操業開始まで10か月、安定稼働までさらに6か月を見ています。そのため、元本据置1年を希望します。

据置は無料ではありません。元本が減らないため、利息総額は増えます。だからこそ、「何となく2年」ではなく、工程とキャッシュフローで期間を説明します。

4. 分割実行で、借り過ぎの期間を減らす

30億円の工事でも、支払は一日ではありません。F社の借入22億円は、6億円、10億円、6億円の3回に分けます。タームローン[8]に分割実行の仕組みを入れ、利用可能期間内に支払証憑を出して借りる形です。

分割実行は利息を減らせますが、各回の前提条件、実行通知期限、最低実行額、利用可能期間を確認してください。工事が遅れたのに利用可能期間だけが終わる、という事故が起こります。

※8 タームローン:一定の借入期間を定める融資。分割実行、分割返済、一括返済などを契約で設計する。

5. 固定か変動かは、当て物ではなく耐性で決める

「金利は上がりますか」と聞かれても、誰にも正確には分かりません。固定・変動の判断は相場予想だけでなく、金利が上がったときに会社が耐えられるかで決めます。

F社は、変動金利が1%上がると、残高22億円なら初年度の利息が最大2,200万円増えます。その負担を吸収できるか。固定化の上乗せコストはいくらか。途中解約や期限前返済に補償金があるか。これらを並べます。全額を一方に寄せず、固定と変動を分ける選択もあります。

6. 希望・許容・撤退ラインを決める

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撤退ラインは、銀行を脅すためではありません。社内で「どこまでなら受けるか」を決めるためです。交渉中に条件が動いても、判断基準があれば、金利の安さに引っ張られません。


5章  /  6分 1枚で伝わる資金調達メモ


厚い資料の前に、案件の地図を一枚渡します。

初回面談で50ページの事業計画を配っても、銀行担当者はその場ですべて読みません。先に必要なのは、案件全体を一枚でつかめるメモです。担当者はこの一枚をもとに、銀行内で「相談案件」として話を始められます。

以下がF社の完成例です。A4一枚を想定しています。A5の本では見開き相当ですが、項目は増やしません。

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一枚に入れないもの

会社沿革の細かい年表。必要なら別紙にする。
製品技術の長い説明。返済力との関係が分かる数字へ置き換える。
楽観ケースだけの5か年計画。ベースと下振れを先に出す。
未承認のM&Aや増配など、銀行が前提にしてはいけない情報。
「できるだけ安く、長く」といった条件にならない要望。

書き方の原則
金額には、単位・基準日・税込税抜を付ける
「増える」「改善する」ではなく、現在値と計画値を並べる
銀行への依頼には、金額だけでなく回答期限を入れる
未確定は未確定と書き、確定予定日を添える
一枚の数字と、別紙の数字を一致させる

この一枚は、銀行向けのためだけに作るものではありません。社長、事業部、経理、法務が同じ案件を見ているかを確認する社内資料でもあります。銀行面談の前に、この一枚を社内関係者へ回し、数字の異論を潰してください。

6章  /  18分 初回面談を実況する


ここからは、銀行との会話を止めながら、質問の意図と答え方を見ます。

登場人物は、F社の財務担当Fと、メインバンクA銀行の法人担当Bです。初回面談ですが、単なる情報交換ではなく、条件提示に向けた案件説明を目的にしています。

Fは、1枚メモ、投資内訳、支払予定、直近月次、借入一覧、ベース/下振れ計画を持参しています。すべてを最初から配るのではなく、会話に合わせて出します。

Scene 1 金額と時期を、最初の3分で固定する

B|本日はありがとうございます。新工場を検討されていると伺いました。まず、どの程度の資金需要を、いつ頃お考えでしょうか。

F|総投資額は30億円です。自己資金5億円、採択済みの補助金3億円を充て、長期借入22億円を希望しています。支払に合わせて、10月末6億円、翌1月末10億円、翌4月末6億円の3回実行を想定しています。

銀行の意図
最初に金額と時期を聞くのは、単なる挨拶ではありません。銀行側は、審査に必要な時間、自行の貸出計画、他案件との優先順位、資金調達手段を考えます。「秋頃に数十億円」では、案件として動かせません。

 

B|22億円ですね。御社は現預金もお持ちです。自己資金をもう少し増やす考えはありませんか。

F|現預金は直近で12億円ですが、給与、仕入、税金、季節的な運転資金を踏まえ、最低7億円を維持する方針です。そのため自己資金は5億円としています。操業立ち上げで運転資金が最大3億円増える見込みもあり、そこは既存の5億円コミット枠[9]と営業キャッシュフローで手当します。

良い答えの骨格
「現金を減らしたくない」ではなく、最低手元流動性の根拠と、設備投資後に増える運転資金まで示しています。借入額が過大ではなく、自己資金も入れていることが伝わります。

※9 コミットメントライン:一定条件の下で、契約期間中に借入枠を利用できることを銀行が約束する契約。 未使用枠に手数料がかかる場合がある。
行は「必要になったら70億円貸します」と約束している以上、その枠を完全に無視することはできない。バーゼル規制上も、コミットメントラインなどのオフバランス取引については、未使用枠にCCF(Credit Conversion Factor/信用換算率)を掛けて信用エクスポージャーへ換算する仕組みがある。つまり、実際に全額貸し出していなくても、銀行側では一定の信用リスク・資本負担を認識することになる。要するに、銀行は「100億円の枠だけください。使うかどうか分かりません」と言われても、ノーコストで枠を空けておけるわけではない。コミットメントフィーには、その「いつでも貸せる状態を確保してもらう」ことへの対価という側面がある。
一方、企業側にとっては、多少のフィーを払ってでも資金調達枠を確保する意味がある。特に手元現金を必要以上に積み上げたくない会社では、「Cashを持つ代わりにLiquidityを買う」という発想でコミットメントラインを利用することがある

 

B|補助金3億円は、いつ入金されますか。採択済みとのことですが、確実性はいかがでしょう。

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