発注前に「全部門・全レイヤー」を狙わない方がいい話
AI研修の講師として、製造現場や工場に入ることがあります。研修後にアンケートを共有してもらうと、回答はだいたい三つに分かれることが多いんですよね。新しいことが知れた、どちらでもない、そして思っていたのと違ったです。
この三つ目がなぜ出るのか、ずっと気になっていました。
というのも、もともと私は製薬会社の製造工場で、製造現場に所属しながらIT化やAI導入を進める立場にいました。現場担当と技術的な間接部門の両方を兼ねていたので、作業者側の感覚と支援側の感覚をどちらも見てきています。今はIT企業でシステム導入側の仕事をしながら、ITやAI、リスキリング系の研修講師をすることもあるんですけど、だからこそ製造現場が求めていることと、研修として提供される内容のずれが見えやすいのだと思っています。
今回は、製造業のAI研修がなぜずれやすいのか、それと発注する前に何を整理しておいた方がいいのかを書いてみます。工場や製造拠点で生成AIの活用を進めたい担当者の方には、そのまま関係してくる話です。
なぜ製造現場向けAI研修は、オフィス系の内容になりやすいのか
生成AIの活用事例として説明しやすいのは、やっぱりオフィス系の業務なんですよね。議事録、メール文面、情報整理、壁打ち、資料作成。このあたりは見せやすいですし、研修資料にも落とし込みやすい。研修コンテンツを作る側もオフィス業務に親和性があることが多いので、そこに寄るのは自然です。
少し例えると、イタリア料理のシェフに和食のレシピ本を頼むような話に近いです。そのシェフが悪いわけじゃない。同じ料理人ではある。でも、和食特有の考え方や作り方を全部拾いきれるかというと、それは難しい。生成AIの研修もこれと少し似ていて、作る側の経験や得意領域がオフィス寄りなら、出来上がる内容もどうしてもそちらに寄ります。
だから製造現場向けと銘打っていても、実際に出てくる例は議事録、メール、ヒヤリハット報告書、情報整理あたりになりやすい。もちろんそれ自体が悪いわけではありません。ただ、現場の作業員の方にとってそれが自分の業務とすぐに結びつくかというと、そうでもないことが多い。製造業向けと聞いて期待していたのに、出てくる例は自分が普段やっている仕事と少し離れている。ここで最初の違和感が出ます。
製造業のAI研修で起きやすい、よくあるずれ方

現場に入っていて感じるのは、ずれ方にはある程度パターンがあるということです。
1. 対象が広すぎる
製造、品質、間接、管理職、現場作業員、リーダー層。立場も役割も違う人たちを一つの研修にまとめると、内容はどうしても広く浅くなります。全員に少しずつ当てようとすると、結局は誰にも深く刺さらないんですよね。
2. オフィス寄りの事例が中心で、現場の人が自分事化できない
議事録やメールはわかりやすいですし、説明もしやすいです。ただ、現場で設備を見ている人、交代勤務で引き継ぎをしている人、トラブル対応をしている人からすると、便利なのはわかるけど、自分の仕事にどうつながるのかが見えにくいことがあります。
3. 自発参加と業務命令参加を同じ前提で扱ってしまう
自分で興味を持って来た人は、まず生成AIで何ができるのかを知りたい。一方で、業務命令で来た人が欲しいのは、自分の業務にどう使えるのか、そのまま持ち帰れる答えです。今こういう業務をやっているんですがどう使えばいいですか、そのためのプロンプトを教えてください、という質問が出てくるのはかなり自然です。
4. 伝言ゲームでずれが大きくなる
推進担当が研修会社の窓口と話をする。そこでまとまった内容が資料担当に渡る。そこから講師に降りてくる。この間に、製造現場の実態をあまり知らない人が何人か入ると、言いたかったことが少しずつ変わっていきます。製造業向けにしたいという話だったはずが、気づくと製造業でも使えそうな一般論くらいまで薄まっている。ここは本当に起きやすいです。
研修当日に、現場の質問へ具体的に答えきれない理由
業務命令で来た方から、自分の仕事ではどう使えるのかと聞かれるのは自然です。ただ、講師側がその場で具体的な答えまで作れるかというと、難しいことが多いんですよね。理由は単純で、設計に必要な情報がその場にないからです。
その会社の業務フローがどうなっているのか。使えるAIツールは何か。入力していい情報の範囲はどこまでか。セキュリティ制約はどの程度あるのか。現場で実際にどういう帳票や報告が回っているのか。ここが見えていない状態で、特定業務向けのプロンプトや業務設計を作るのは無理です。作れたとしても、それっぽいだけで使えないものになります。
つまり、研修当日に一般的な使い方を説明することはできても、その会社向けの具体解をその場で全部渡すのは難しい。これは講師が不親切だからではなくて、情報がない状態で設計しろと言われているからです。ここを発注側が理解していないと、聞けばその場で答えがもらえると思っていたのに、一般論しか返ってこなかった、という不満に変わりやすいです。
実際、アンケートで「もっと自分たちの業務に沿った内容だと思っていた」という声を見たことがあります。これはまさにそこなんですよね。製造現場向けと聞いていたので、自分たちのトラブル対応や日報、引き継ぎ、報告書にもっと直結したものが出てくると思っていた。でも実際にはそうではなかった。だから思っていたのと違う、になる。
なので、最初から全部門・全レイヤーを狙わない方がいい
ここが今回の結論です。
最初から工場全体を一気に対象にしない方がいいです。全部門、全レイヤーをまとめてやろうとすると、どうしても安全な内容になります。安全な内容は、誰も強く否定しない代わりに、誰にも深く刺さらない。研修としてはそこが一番危ないです。
だったら最初は絞る。まず一部門、一レイヤーから始める。その方が、ずれにくいですし、現場への定着という意味では近道になります。
ここまで読んで、じゃあ実際にどこをどう絞るのか、何を整理して、どう発注すればいいのか。そこが気になると思います。ここから先は、その話です。
発注前に決める2つの軸
発注前に「全部門・全レイヤー」を狙わない方がいい話
AI研修の講師として、製造現場や工場に入ることがあります。研修後にアンケートを共有してもらうと、回答はだいたい三つに分かれることが多いんですよね。新しいことが知れた、どちらでもない、そして思っていたのと違ったです。
この三つ目がなぜ出るのか、ずっと気になっていました。
というのも、もともと私は製薬会社の製造工場で、製造現場に所属しながらIT化やAI導入を進める立場にいました。現場担当と技術的な間接部門の両方を兼ねていたので、作業者側の感覚と支援側の感覚をどちらも見てきています。今はIT企業でシステム導入側の仕事をしながら、ITやAI、リスキリング系の研修講師をすることもあるんですけど、だからこそ製造現場が求めていることと、研修として提供される内容のずれが見えやすいのだと思っています。
今回は、製造業のAI研修がなぜずれやすいのか、それと発注する前に何を整理しておいた方がいいのかを書いてみます。工場や製造拠点で生成AIの活用を進めたい担当者の方には、そのまま関係してくる話です。
なぜ製造現場向けAI研修は、オフィス系の内容になりやすいのか
生成AIの活用事例として説明しやすいのは、やっぱりオフィス系の業務なんですよね。議事録、メール文面、情報整理、壁打ち、資料作成。このあたりは見せやすいですし、研修資料にも落とし込みやすい。研修コンテンツを作る側もオフィス業務に親和性があることが多いので、そこに寄るのは自然です。
少し例えると、イタリア料理のシェフに和食のレシピ本を頼むような話に近いです。そのシェフが悪いわけじゃない。同じ料理人ではある。でも、和食特有の考え方や作り方を全部拾いきれるかというと、それは難しい。生成AIの研修もこれと少し似ていて、作る側の経験や得意領域がオフィス寄りなら、出来上がる内容もどうしてもそちらに寄ります。
だから製造現場向けと銘打っていても、実際に出てくる例は議事録、メール、ヒヤリハット報告書、情報整理あたりになりやすい。もちろんそれ自体が悪いわけではありません。ただ、現場の作業員の方にとってそれが自分の業務とすぐに結びつくかというと、そうでもないことが多い。製造業向けと聞いて期待していたのに、出てくる例は自分が普段やっている仕事と少し離れている。ここで最初の違和感が出ます。
製造業のAI研修で起きやすい、よくあるずれ方
現場に入っていて感じるのは、ずれ方にはある程度パターンがあるということです。
1. 対象が広すぎる
製造、品質、間接、管理職、現場作業員、リーダー層。立場も役割も違う人たちを一つの研修にまとめると、内容はどうしても広く浅くなります。全員に少しずつ当てようとすると、結局は誰にも深く刺さらないんですよね。
2. オフィス寄りの事例が中心で、現場の人が自分事化できない
議事録やメールはわかりやすいですし、説明もしやすいです。ただ、現場で設備を見ている人、交代勤務で引き継ぎをしている人、トラブル対応をしている人からすると、便利なのはわかるけど、自分の仕事にどうつながるのかが見えにくいことがあります。
3. 自発参加と業務命令参加を同じ前提で扱ってしまう
自分で興味を持って来た人は、まず生成AIで何ができるのかを知りたい。一方で、業務命令で来た人が欲しいのは、自分の業務にどう使えるのか、そのまま持ち帰れる答えです。今こういう業務をやっているんですがどう使えばいいですか、そのためのプロンプトを教えてください、という質問が出てくるのはかなり自然です。
4. 伝言ゲームでずれが大きくなる
推進担当が研修会社の窓口と話をする。そこでまとまった内容が資料担当に渡る。そこから講師に降りてくる。この間に、製造現場の実態をあまり知らない人が何人か入ると、言いたかったことが少しずつ変わっていきます。製造業向けにしたいという話だったはずが、気づくと製造業でも使えそうな一般論くらいまで薄まっている。ここは本当に起きやすいです。
研修当日に、現場の質問へ具体的に答えきれない理由
業務命令で来た方から、自分の仕事ではどう使えるのかと聞かれるのは自然です。ただ、講師側がその場で具体的な答えまで作れるかというと、難しいことが多いんですよね。理由は単純で、設計に必要な情報がその場にないからです。
その会社の業務フローがどうなっているのか。使えるAIツールは何か。入力していい情報の範囲はどこまでか。セキュリティ制約はどの程度あるのか。現場で実際にどういう帳票や報告が回っているのか。ここが見えていない状態で、特定業務向けのプロンプトや業務設計を作るのは無理です。作れたとしても、それっぽいだけで使えないものになります。
つまり、研修当日に一般的な使い方を説明することはできても、その会社向けの具体解をその場で全部渡すのは難しい。これは講師が不親切だからではなくて、情報がない状態で設計しろと言われているからです。ここを発注側が理解していないと、聞けばその場で答えがもらえると思っていたのに、一般論しか返ってこなかった、という不満に変わりやすいです。
実際、アンケートで「もっと自分たちの業務に沿った内容だと思っていた」という声を見たことがあります。これはまさにそこなんですよね。製造現場向けと聞いていたので、自分たちのトラブル対応や日報、引き継ぎ、報告書にもっと直結したものが出てくると思っていた。でも実際にはそうではなかった。だから思っていたのと違う、になる。
なので、最初から全部門・全レイヤーを狙わない方がいい
ここが今回の結論です。
最初から工場全体を一気に対象にしない方がいいです。全部門、全レイヤーをまとめてやろうとすると、どうしても安全な内容になります。安全な内容は、誰も強く否定しない代わりに、誰にも深く刺さらない。研修としてはそこが一番危ないです。
だったら最初は絞る。まず一部門、一レイヤーから始める。その方が、ずれにくいですし、現場への定着という意味では近道になります。
ここまで読んで、じゃあ実際にどこをどう絞るのか、何を整理して、どう発注すればいいのか。そこが気になると思います。ここから先は、その話です。
発注前に決める2つの軸