『マンガでやさしくわかるオープンダイアローグ』向後義之・久保田健司著/大舞キリコ作画

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本日はオープンダイアローグについて入門編をまとめていこうと思います。

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本書のマンガパートは、主人公の大学院生・望月真彩が実習生としてセラピスト・広田満のもとを訪れるところから始まります。

Prologue オープンダイアローグという奇跡

01 「治る」とはどういうことなのか
統合失調症のクライアントのケース1
統合失調症のクライアントのケース2
<省略>

02 オープンダイアローグという奇跡
オープンダイアローグとは?
近年、フィンランドの西ラップランドの家族療法家たちが中心になって行っているオープンダイアローグと呼ばれる心理療法が、投薬なしで統合失調症の治療に対し効果を上げているという研究結果が発表されました。
オープンダイアローグは、基本的に、精神科医、看護師、ソーシャルワーカーなどによるチームで対応するアプローチで、ミーティングとリフレクティングという2つのプロセスで構成されます。
・ミーティング
クライアントから相談を受けたスタッフが中心となって、看護師、精神科医などのメンバーを招集しクライアントを含めたミーティングを行います。その際、すべての参加者には、平等に発言の機会と権利が与えられます。また、クライアント本人抜きではいかなる決定もなされません。
・リフレクティング
クライアントの目の前で、専門家たちがミーティングの結果について話し合うことです。つまり、クライアントが、専門家たちを逆に観察することになります。こうしたアプローチはリフレクティングと呼ばれます。リフレクティングにより、クライアントは、俯瞰的に自分自身の状況を理解し、治療チームそれぞれのメンバーの視点を知ることにより、直接の面接では得られなかった気づきを生むと言われています。

オープンダイアローグの重要な要素
オープンダイアローグは、その名が示す通り、「ダイアローグ=対話」が基本になります。「対話」とは、お互いのことをあまりよく知らない者同士が、「知らない」ということを前提として行う意識的なコミュニケーションです。
その他、オープンダイアローグの重要な要素は、対等性、多様性、不確実性への耐性です。

Part1 オープンダイアローグの要素1~「対話主義」と「対等性」~

01 「対話」はどのようにして始まるのか?
対話のコツは「しゃべらず、耳を傾けよ!」
言葉だけではなく、無言のメッセージに耳を傾けるのも対話のコツです。

「好奇心に伴う疑問」を投げかける
「好奇心に伴う疑問」には答えがなく、それは、対話の材料になります。

対話は「違い」から始まる
「対話」は、他人とかわす新たな情報交換や交流とも言えます。
対話において大事なことは、「コンテクストのずれ」をまず認めて、そこからコンテクストの接点を見つけ出していくことです。

02 対話とは?
劇作家・演出家の平田オリザさんがまとめた、対話において認識しておくべきこと4項目
①私とあなたは違うということ
②私とあなたは違う言葉を話しているということ
③私は、あなたがわからないということ
④私が大事にしていることを、あなたも大事にしてくれているとは限らないということ

ダイアローグはセラピーの必須要素
違いを受け入れ、言葉の背景を想像し、わからないというところからクライアントを理解しようとして、クライアントが大事にしているものを尊重することにより、はじめてセラピーのプロセスが動き始めるのです。

03 「対等性」とは何か?
「対等」とは対等な権利をもつこと
権威のある人や、地位の高い人、先輩から「そんな意見は10年早い」「もっと、勉強してから質問しなさい」などと言われることもありませんし、下の者が上の者に忖度するということも、基本的にはないのです。

「対等性」を実現するには?
上下関係を対等な関係に変えていくためには、セラピストが上の立場で、クライアントに答えを与える人ではなく、クライアントと一緒に考える立場にいるということを肝に命じることです。

04 対話の原理
対話は、ただ楽しいものではない
対話により、違いが明確になり、それが新しい発見につながる場合もあれば、その違いが決定的であることが明らかになり、結果として離別に向かうこともあるのです。
対話に適しているのは、ひとつのテーマについて話し合う時、お互いを理解しようとする時、お互いの違いと違いの意味を明確にしようとする時などです。

哲学者の中島義道氏が挙げる〈対話〉の基本原理
1. あくまで1対1の関係であること。
2. 人間関係が完全に対等であること。〈対話〉が言葉以外の事柄(たとえば脅迫や身分の差など)によって縛られないこと。
3. 「右翼」だからとか「犯罪人」だからとか、相手に一定のレッテルを貼る態度をやめること。相手をただの個人として見ること。
4. 相手の語る言葉の背後ではなく、語る言葉そのものを問題にすること。
5. 自分の人生の実感や体験を消去してではなく、むしろそれらを引きずって語り、聞き、判断すること。
6. いかなる相手の質問も疑問も禁じてはならないこと。
7. いかなる相手の質問に対しても答えようと努力すること。
8. 相手との対立を見ないようにする、あるいは避けようとする態度を捨て、むしろ相手との対立を積極的に見つけてゆこうとすること。
9. 相手との見解が同じか違うかという二分法を避け、相手との些細な「違い」を大切にし、それを「発展」させること。
10. 社会通念や常識に納まることを避け、つねに新しい了解へと向かってゆくこと。
11. 自分や相手の意見が途中で変わる可能性に対して、つねに開かれてあること。
12. それぞれの〈対話〉は独立であり、以前の〈対話〉でこんなことを言っていたから私とは同じ意見のはずだ、あるいは違うはずだというような先入観を捨てること。

Part2 オープンダイアローグの要素2~「多様性」「ポリフォニー」~

01 「多様性」「ポリフォニー」とは何か?
さまざまな意見が同時に存在するポリフォニーの場が、クライアントにもリフレクターにも自由な意見を言える雰囲気を作ります。

02 「平等」は「対等」?
「平等主義」と「対等性」の違い
対等性は、どんなに違っても対等に扱われるということです。つまり、同じ条件で公平に対話ができるわけです。
しかし、行き過ぎた平等主義では、途中のプロセスの違いは無視して、結果をみな同じにしなければなりません。

「違い」を受け入れるのを阻害する因子
①カテゴリーエラー…異なるカテゴリーの議論を混同すること。
②確証バイアス…自分の考えに合う証拠ばかりを集めてしまい、反証を軽視する傾向のこと。
③エコー・チャンバー現象…同じ意見を持つ人たちのグループの中で、同じ意見ばかりが繰り返し述べられること。

03 「ポリフォニー」と「多様性」
「ポリフォニー」とは何か
オープンダイアローグの中で、ポリフォニーは、対話において中心的な立場を認めないという考えを示しています。

ポリフォニーの状態をつくるために
ポリフォニーの状態を作るためには、対等性が維持できていなければなりません。専門家の側が、「事実」には同意しなければなりませんが、「価値観」に関しては、それぞれ違うものをもつ権利があるという意識が必要なのです。

クライアントに自由に発言してもらうために
①「セラピストから質問されても、答えられない(答えたくない)ものは、答えないでもいい」ということを伝える
②「もし、セラピストの解釈に疑問をもったり反論があったりしたら、それが大きなヒントになることがあるので、ぜひ教えてほしい」と伝える
③クライアントに直面化してもらう時は、クライアントが心の準備ができるようなマイクロ・イエス・クエスチョンから始める
④共通点を探す
⑤抽象的なあやふやな表現は避ける
⑥断定的なジャッジメントは避ける
⑦クライアントのコメントがセラピストにどのような影響を与えたか、どのように理解したかを伝える
⑧質問で締めくくる
⑨プリング・フィードバックを使う(セラピストが自分に対するフィードバックを定期的に求める)
⑩以上を、自己一致した状態で行う(自己一致とは、自分の言葉や行動と、自分の感覚・感情・希望・欲求といったものに矛盾がないこと)

Part3 オープンダイアローグの要素3~リフレクティング、不確実性への耐性~

01 カップルセラピー・グループセラピーにおけるオープンダイアローグ
カップルセラピーとオープンダイアローグ
夫婦やカップルに対し行われるカップルセラピーやファミリーセラピーは、近年、日本でも広まってきました。

オンラインでのオープンダイアローグ
カップルや家族に対するオンラインでのオープンダイアローグは、とても有効だと言えます。オンラインの場合、全員の表情を同時に見ることができます。
リフレクティングのプロセスも、オンラインでは、より明確になりやすいと言えます。

02 リフレクティングの効果を高める
リフレクティングの驚くべき効果
自分をサポートしようとしている専門家の目からどのように見えているのか、知りたいというのは自然な感情です。
ノルウェーの精神科医トム・アンデルセンらのチームは行ったのが、リフレクティングの原型になりました。

アンデルセンチームの成功の4要素
1. 家族は、専門家同士の話し合いを見ることによって、自分たち家族の状況を俯瞰的に見ることができた。
2. 中にはうろたえる専門家もいたが、それは専門家たちの飾らない正直な姿であった。
3. 専門家たちが、真剣に自分たちのことを考えてくれていたのがわかった。
4. リフレクティング中は、クライアント家族は、それまで見逃していた、さまざまな可能性について冷静に受け取ることができた。

リフレクティングがうまくいかないケース1
対等性が実現されていない
リフレクティングが有効に働くためには、クライアントたちとセラピストたちのあいだで、対等性が保たれ、ポリフォニーが実現していることが必要です。

リフレクティングがうまくいかないケース2
自分の意見が表現できない
まわりの空気に従っているだけでは多様性が実現できませんし、有効なリフレクティングはできません。

リフレクティングがうまくいかないケース3
「セラピストという病」が多様性を阻害している
援助職は、「人を助けなければいけない」「共感的にならねばならない」「このクライアントを救えるのは私だけだ」という思いなどに絡め取られてしまうことがあります。

アメリカの心理学者ドリー・チュウが主張する4つのモード
・救済モード…他者を助けることで、いい気持ちになってしまうことです。
・同情モード…救済モードに似ていますが、より問題解決に向かわない傾向です。このモードの人たちは、問題をもっている人に対して同情はします。同情は、相手を下に見ています。
・寛容モード…人それぞれの違いを見ない傾向です。
・型はめモード…簡単に人をジャッジしてしまうモードです。

リフレクティングがうまくいかないケース4
クライアントがリフレクティングを拒絶する
他人が自分のことを話すリフレクティングを拒否するクライアントも、少なからずいます。そうした人たちには、あらためて「ここは対等な場であり、誰かが誰かをジャッジして非難する場ではない」「セラピストの言うことが絶対ではない」ということなどを説明します。また、「セラピスト同士で見解が違うこともあり、どの見解をとるかはクライアント次第であり、場合によってはどちらの提案もとらずに、クライアント独自の見解をリフレクティング後に示していただいても大丈夫」ということを伝えます。

効果的なリフレクティング
理想的なリフレクティングは、クライアントとセラピスト、そしてセラピスト同士に対等性が維持されており、多様性が尊重されており、セラピスト同士が活発にコメントを出し合うような状態です。

効果的なリフレクティングのコツ
・分析・解釈はしない。助言・予言はしない。判断・診断はしない。
・分析・解釈はしないが、描写はOK
・断定的な話し方、批判は控える
・「ああもこうも」という対の言葉を用いることもある
・多少自信のないような話し方でも構わない
・自分の体験を延々と話すのはよくないが、「そういえば、こんなことがあった…」程度のことはよい
・他のメンバーの声に過度に同調するのは好ましくない
・参加者について否定的なことは言わない
・強い感情がわいてきて言葉に詰まっても、混乱しても、そのことに防衛しなければOK
・適度の間があること
・リフレクティングが同室で行われる場合、チームのメンバー同士で向き合って話す。

03 不確実性への耐性
システム1,システム2(「速い思考」と「遅い思考」)
リフレクティングにおいてもクライアントとセラピストの対話においても、セラピストは、断定的な言い方をしません。別の言い方をすると、安易なジャッジメントをしないということです。
心理学者ダニエル・カーネマンは、速い思考をシステム1(衝動的、直観的思考)、遅い思考をシステム2(論理的思考、注意深さ)と名付けました。

不確実性への耐性とダイナミック・バランス
いったん立ち止まるためには、結論がないという不確実性に耐える強さ(不確実性への耐性)が必要です。
AとBという見解があり、結論がつかない時に、両極のあいだを縦横に移動し続けることによって維持されるバランスを「ダイナミック・バランス」と言います。

Part4 オープンダイアローグの可能性

01 非言語による対話
しゃべってくれないクライアントと対話する
しゃべってくれないクライアントとの対話は不可能と思ってしまう方もいるかと思いますが、そんなことはありません。クライアントの表情や仕草や姿勢といった非言語のメッセージがあるからです。

確認の重要性
オープンダイアローグには、本人抜きではいかなる決定もなされないという大原則があります。

トラウマ処理と対話の続行可否
クライアントのトラウマ体験に触れる場合には、クライアントの気持ちを確認しながら行うべきです。

何も話さないクライアントと非言語メッセージ
セラピーにせよオープンダイアローグにせよ、ここが安心できる場だということをわかってもらうまで、慎重に進めていく必要があります。

オープンダイアローグの流れ
オープンダイアローグには、複数のセラピストがいること、参加者全員が対等の立場であることで、ポリフォニックな場が形成されます。
それに加えリフレクティングにおいては、セラピストたちの対話を見ることにより、より深くセラピストそれぞれの世界観や価値観を知ることになります。

「待つ」という選択
セラピストはできるだけクライアントのペースに合わせることを考えます。「心の準備ができて、話せる」と思えるような安心感があれば、口を開きやすいものです。「待つ」ということは、とても大切なことです。

「非言語」をどのように扱うか
非言語と言語の両面から、相手を尊重するという姿勢はなかなか難しいことですが、セラピストが養っていかなければいけない感覚です。

水平方向のポリフォニーと垂直方向のポリフォニー
児童精神科医の山登敬之さんは、ポリフォニーには、「水平方向のポリフォニー」と「垂直方向のポリフォニー」が存在すると言います。
メンバー一人ひとりから溢れ出てくる多くの「声」(水平方向のポリフォニー)に触発されて、個人の中に詰め込まれていたさまざまな声(垂直方向のポリフォニー)が姿を表します。

02 なぜ、オープンダイアローグが有効なのか
①複数の対等なユニットが存在する
②多様な価値観・世界観をヒントにして、状況に合うサブパーソナリティを参照できる
③対等なので、簡単に答えが出ない(不確実性への耐性)

これからのオープンダイアローグ
・新人トレーニングの場としてのオープンダイアローグ
・オープン・オープンダイアローグ…グループワークの一環として行うオープンな場でのオープンダイアローグ
・オンライン・オープンダイアローグ

オープンダイアローグの可能性を開くために重要なこと
オープンダイアローグは、フィンランドで生まれ欧米で広がりを見せている心理療法です。心理療法と言っても、非常にユニークなものです。もっとも特徴的なところは、徹底的な対等性でしょう。

【感想】

いやぁ、実にスッキリした読書になった一冊です。めちゃくちゃ勉強になりました。オープンダイアローグももちろん、カウンセリング全般に言えることがたくさん詰まっていました。
毎回思うのですが、こんな長い抜粋・要約を読んで頂き、本当にありがとうございます。

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心理セラピストtakashi

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