ドイツ語暗号解読 癖字のW、悲劇の予感⑥最終回

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※よろしければ「ドイツ語暗号解読 癖字のW、悲劇の予感①」からご覧ください。

これで、すべての謎文字は解読された。
それから、その内容全体を訳して、冷静にみてみた時、私は非常に不思議に思ったのです。内容に違和感があるのです。

離れて暮らす娘に宛てたカードにしては、愛情が見えない。
「ママに伝えて」という部分にしても、当初考えていた「よろしくと伝えて」ではなく、「おじさん家の住所なんか知らねぇよ・・・ってママに言っといて」という意味の文だったと判明したからです。

愛してるよ、元気でね、そんな一言すら、ポストカードに書けなかったんですか?
娘と二人で暮らす奥さんに対して、気遣う言葉一つ書けなかったんですか?
次の休みには帰るよとか、今度遊びにおいでとか、、、ウソでもそんな優しい言葉の一つも書けなかったんですか?
二週間前のイースター、休暇とって家族に会いに帰ることすらしなかったくせに。

「パパは私を愛してない」

このポストカードを受け取った娘さんが、そんな風に考えちゃっても不思議はない・・・。ひどい・・・あんまりです。可哀そうすぎます・・・。
まだ10歳の女の子なのに(多分)。

「こんな手紙、いらないよ!」

顔をぐしゃぐしゃにして泣く娘に、ママも胸が張り裂けそうになったことでしょう。
泣き疲れて寝てしまった娘の頭をなでながら、ママも切ない思いをしたでしょうね。自分だけならまだしも娘まで!!と、怒りに震えていたとしても無理はありません。

なんか・・・いたたまれない。

もしかして。このポストカードの送り主のパパ、すでに家庭破綻してるんじゃ?妻と娘を捨ててスウェーデンに行った薄情な男なんじゃないか・・・そんな気がしてしまったのです。

娘から送られたイースターのポストカード。
そこに、娘をダシに使ってあわよくば夫の関心を引きたいという、未練がましい妻の浅はかな目論見を感じ・・・そんな女の俗っぽい下心を軽蔑しつつ、彼は、娘には罪はないからと、苛立ちを隠して上っ面だけの返事をする。それで、心のこもっていない、そっけない言葉になってしまった・・・。

お仕事の後に、依頼主様にお話を伺うことができました。
このパパが働いていた病院は、研究施設で、ノーベル医学賞を決める研究機関だそうです。つまり、世界トップクラスのドクター、研究者、スタッフが集まっているところなわけです。

ひょっとしたら、このパパも、当時の最先端のドクター、研究者だったのでは?
1960年代、戦争の混乱が終わり、すべてにおいて急速に発展していった時代。医療の世界でも日進月歩で研究が進んでいたことでしょう。

重要な研究を前にして、妻だの子供だの愛だの家族だの・・・
そんな余裕ねーよ!
気を抜けば追い抜かれる、取り残される。妻や子供にかまっている暇があるほど甘い世界じゃねーんだよ!!
・・・という切羽詰まった状態だったのではないだろうか。

一人の研究者の、優しいウソの一つもつけない不器用な男の、取りつかれたように仕事に没頭する姿が、そこにあったかもしれません。
大事なものを振り切ってまで追いかけていた何か。そして、その振り切ったはずの何かから、実は、追いかけられていた・・・そんな恐怖からまた逃げる。一人の弱い男の背中があったかもしれません。
※妄想です。

これまでの発展は、誰かの、何かの犠牲の上に成り立っている。
そして、その陰で、もしかしたら10歳の女の子が泣いていたかもしれない・・・。

パパはどんな気持ちで「君のパパより」と書いたのでしょうね。

このポストカードの宛先の娘さん、1960年当時10歳くらいだとしたら、今現在、70歳くらいでしょうか。
どんな人生を歩んでいるんでしょうね。

真相は、ご本人と神様だけがご存じのこと。
一枚のポストカードから悲劇の匂いをかぎ取ってしまいましたが、私の月並みな妄想とはかけ離れた素敵な現実があったかもしれませんね。

素敵な70代を謳歌しているといいですねぇ。スイスの街並み、チューリッヒの街の空気に溶け込んで、行きつけのお肉屋さんとかパン屋さんとかケーキ屋さんとか、お友達とおしゃべりするカフェとか。
もしかしたら、仕事や結婚でチューリッヒを離れているかもしれませんね。
旦那さんや子どもや孫もいるかもしれません。
時々パパのこと、ママのことを思い出すでしょうか。
どうか、悲しい思い出でないように。パパのことを思い出して、笑えているといいなぁ。
お幸せを願っています。

依頼主様にも幸あれです!
この度は、ご依頼くださいまして、どうもありがとうございました。
とっても楽しいお仕事でした!
ブログでご紹介させていただく許可、画像の提供、どうもありがとう!

・・・実際のお仕事より、ブログを書く方が時間かかっちゃった☆
今回、妄想部分が多かったためですね。
これを読んで幻滅なさらないといいのですが(笑)

おしまい

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