憲法の攻略法~司法試験予備試験受験生必見~

記事
学び

違憲審査基準これだけ


0・憲法論の立て方


「憲法が難しい」

と感じる方は、ぜひ条文に沿って考えるという当たり前のことを見直してもらいたいと思います。
自分で言うのも何ですが、憲法は結構得意科目でした。
論文を書くといつもA評価、上位答案になっていました。
その理由は、憲法を他の法律と同じように条文から理解していたからだと思います。

例えば、憲法98条1項にはこう書いてあります。
「その条規に反する法律・・・の全部又は一部は、その効力を有しない。」

その条規に反する法律は無効、すなわち、憲法の規定(条文)に反する法律は無効だと理解することができます。
これは、いわゆる要件効果の話ですよね。
法律の基本です。

では、いかなる場合に「その条規に反する」と言えるのか。
よく見る憲法21条1項を見てみましょう。
「表現の自由は、これを保障する。」

対して、民法94条1項を見てみましょう。
「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」

21条1項に反する場合が明確ではないことが分かると思います。
ただ、表現の自由というものが「保障されていない」状態になることは、21条1項に「反する」ことになると言えそうです。

では、いかなる場合に「保障されていない」と言えるのか。
これを考えなければなりません。
法とは、要件効果という形で一定の判断基準を設定し、それを事実にあてはめることで解決を目指す道具です。
この基本から考えると、「『保障されていない』のはいかなる場合なのか」を一定の判断基準によって判断しなければならないことになります。

その判断基準の一つが違憲審査基準というものです。


1.3つの違憲審査基準



以下、ご説明いたしましょう!!
私が使っていた(他の受験生も同じだと思いますが・・・)違憲審査基準は、主に3つです。
厳格な順に並べると、
①厳格な基準=目的が必要不可欠で、手段が目的との関係で必要最小限である
②厳格な合理性の基準=目的が重要で、手段と目的との間に実質的関連性がある
③合理性の基準=目的が正当で、手段と目的との間で合理的関連性がある
の3つです。

「LRAの基準は?」とか「比較考量論は?」とか、思われるかもしれませんが、ほぼ使っていませんでした。
LRAに関しては、特に使わなくても上記3つの基準で処理できるので使いませんでした(問題によっては、書きやすいかなと思って使うこともありましたが・・・。半分、遊び心ですね。)。
(念のため、LRAの基準=目的が重要で、より制限的でない他の選びうる手段がないこと。上記の基準と結構似てますよね?)

比較考量に関しては、結構使いこなすのが難しいと思うので使いませんでした。「法的利益Aと法的利益Bを比較し、Aの方が上回るなら違憲」というような発想で一見シンプルです。
ですが、目に見えない利益を天秤にかけてどちらが上回っているかを説得的に論ずるのは、なかなか難しいと思います。
独りよがりな論述になりがちですし、上記の違憲審査基準に比べ圧倒的に思考過程の表現が難しい。
(但し、憲法上の利益同士が対立しているような事例((例)博多駅テレビフィルム提出命令事件=公正な裁判の実現VS報道の自由ないし取材の自由)では、有効な手段になることもあるでしょう)

そもそも、違憲審査基準も対立利益の調整という側面を有していると思うので、複数の事情を総合的に考慮したいという場合でない限り、比較考量論を持ち出す必要がないとも考えられると思います。
というわけで、予備試験・司法試験の憲法の論文式試験をパスしようと思ったら、上記3つの違憲審査基準を使いこなせるようトレーニングを重ねましょう。

違憲審査基準を適用する時のポイントは、3つです。

①違憲審査する対象を明確にする→検討対象たる法令の条数・項数・号数を特定する
②条文の「目的」について検討する→目的の明確化、その目的の重要性等を検討
③目的達成のための「手段」について検討する→手段の明確化、「目的との関係で」手段の実質的関連性等について検討する

すごく当たり前のことを書いただけなのですが、添削指導を行っていると①~③を守れていない答案を多数発見します。
規範(違憲審査基準)は書けているのにです。
規範を正確に書いていても、その理解が不十分だとあてはめでボロが出ます。論証の暗記・貼り付けに終始していることが明らかです(この点は、指導者側の責任でもあるかもしれません。自省の念に駆られます。)。
司法試験委員が一番嫌うやつですね。
ここまで読むと「なんだ憲法も規範定立・あてはめをするだけじゃないか。むしろ、3つしか基準がないなら、覚えることも少なくて他の科目より楽じゃないか。」
と思えてきませんか。
そうです、憲法はある程度のレベル(合格レベル)であれば、意外と簡単に行けるのです。
憲法を毛嫌いする受験生も多いため、相対的に成績が上がりやすいという面もあります。
ぜひぜひ楽しんで積極的に勉強に取り組んでみてください!!
ちなみに、違憲審査基準は、論文だけで使うものでもありませんよ!!
短答の問題で「判例の知識がない。よくわからないな・・・。」となったとき、違憲審査基準にあてはめて結論を出すと意外とあたります。

2.違憲審査基準定立までの流れ


まず、そもそも論から入ります。 
そもそも、規範とは何でしょうか。
規範とは、その基準をクリアすることにより一定の法効果の発生を許容するルールであると考えられます。
つまり、規範の先には、必ず法効果があるのです。
法を適用する全ての場面に通用する重要なポイントだと思うのですが、「法効果からの逆算」に基づき規範の正当性を考えなければなりません(例えば、刑法の答案では他の科目よりも文言の定義に厳格さを求められますよね?あれは、刑法の適用の先に刑罰という重大な不利益が待っているからだと考えられます)。

この理解を前提に違憲審査基準について見ます。
違憲審査基準に基づいて法令の合憲性が認められた場合どうなるでしょう。
当該法令による人権制約が法的に許容されることになります。
逆の結論になれば当該法令による人権制約が許されないことになります。
つまり、違憲審査基準(規範)の先には、人権制約の許否という法効果(?)があると考えられます。

すると、違憲審査基準の定立について以下のように考えられます。

まず、問題となっている憲法上の利益の重要性について評価します。
当該利益は、三段階審査論でいうところの権利保障性で認定した利益のことです。
例えば、「デモ行進の自由」(当該利益)が表現の自由(憲法第21条1項)の一つとして保障されていると認定した場合を考えましょう。
表現の自由として認められる自由は、基本的に自己実現・自己統治の価値を有し、その高い重要性が認められるなどと論述することが考えられます(実際はもう少し具体的な内容になりますが・・・)。

次に当該利益に対する制約の強さについて検討します。
例えば、デモ行進の禁止条例が制約の原因になっていたとします。
このとき、条例で許可制をとっていることやデモ行進の場所・時間を制限する規定があれば、それらは制約を強める根拠となります。
利益の重要性とそれに対する制約の強さを検討すると、当該法令を合憲とした場合に当該利益を有する者が受ける不利益(人権制約)の大きさが見えてきます。
当該利益のように重要な利益が厳しい制約を受けることになる場合、その人権制約という結果は、重大なものになります。
とすれば、その合憲性を判断する違憲審査基準も厳格なものでなければならないと考えられます(表現の自由関連の場合、厳格な基準をとることが多いですね)。
他方、権利の重要性や権利制約の強さが下がれば、それに応じて違憲審査基準の厳格さも下げていくことになります。
実際の問題でどの違憲審査基準を選択するかは、一概に言えないところがあります。
そのバランス感覚は、多くの問題演習を通して学んでいくしかないでしょう。

このように違憲審査基準を定立する時の根拠は、権利の重要性と制約の強度という二本柱で考えるとすっきりします。
そして、基本書等を読むときは、やみくもに読み進めず、この二本柱に位置付ける形で読み進めていくと使える形で知識をインプットできます。
いかがだったでしょうか。
憲法の思考の枠組みが見えてきましたか。

3・違憲審査基準の修正


違憲審査基準は、文字通り、違憲性(違法性)を判断するための基準です。ゆえに、ある程度選択すべき違憲審査基準は、選択する条文と関連性があります。

例えば、憲法14条1項の平等原則違反の検討について考えてみましょう。
同項にいう「平等」とは相対的平等を指すものと解されますから、その違憲性は、ある差異的取り扱いが合理的な理由に基づくか否かによって判断されます。
この基本的な考え方を違憲審査基準で表すと、合理性の基準と言うことになります。つまり、14条1項違反を検討する場合には、原則的に合理性の基準を選択しておけば間違いないということになります。

しかしながら、きちんと相対的平等を実現して行くためには、個別事情を看過してはいけません。基本となる違憲審査基準の内容や使い方を理解しつつ、個別事例に合わせて、より適切な違憲審査基準を修正していく必要があります。
(基本的な考え方を軸にしつつ、個別事情を適切に違憲判断に反映できるかが予備試験・司法試験における解答力を示す指標になると思います。)

例えば、14条1項の後段列挙事由に関する平等原則違反だった場合、参政権に対する差異的な取り扱いのケース等で問題となります。
後段列挙事由を特に保護すべき重要な利益であると理解する立場に立った場合、それらに対する差異的取り扱いは、厳格に違憲審査されるべきです。よって、基本となる合理性の基準を修正して、目的が正当であり、立法目的達成の手段が必要最小限度であること、とすることが考えられます(手段が厳格になりました)。

また、参政権に対する差異的取り扱いが問題となる場合、参政権の重要さ(精神的自由の性質、民主主義国家における参政権の重要性等)に照らして、違憲審査基準を厳格にすることが求められます。
一つの考え方としては、合理性の基準から厳格な合理性の基準に引き上げることが挙げられるでしょう。
この時、厳格な基準を用いることも考えられなくはないと思います。しかし、参政権をめぐる規定は、立法政策の問題でもあります(44条参照)。ゆえに、厳格な違憲審査による司法介入は、制限的であるべきとも言えます。参政権の重要さと選挙制度に対する立法裁量等、様々な事情を考慮した違憲審査基準の定立が求められます。

なお、問題となる人権が抽象的権利か具体的権利か、自由権か社会権か等の事情によっても違憲審査基準を選択・修正する余地があります。このように見ると、個別の人権の性質や学説等をインプットしておく意味がわかってきませんか。


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す