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二冊分の雨宿り|古本屋の短編ミステリー

二冊分の雨宿り|古本屋の短編ミステリー

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2026年10月25日 10:04

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『二冊分の雨宿り』|古本屋を舞台にした短編ミステリー

閉店する古本屋で、献辞のある一冊と、よく似た一冊が雨に濡れる。最後の日の本の取り違えをたどる、全5章・本文約6,657字のオリジナル短編です。

著者名義:Build Studio。AIを用いて制作・編集し、本文の整合と表示を検証した作品です。実績・受賞歴を示すものではありません。

提供形式:ココナラ上で読む記事形式です。EPUBファイルのダウンロード、朗読音声、追加エピソード、個別制作・修正は含みません。第1章を無料で読んだうえで、続きが気になる方だけご購入ください。

第1章は既存の無料試し読みと同一です。購入対象は第2〜5章の本文です。既存作品の販売形式を変えたもので、新作ではありません。

一 赤い背表紙

 水庭堂が店を閉める日の朝、真帆は、店先に出していた木箱を一つだけ中へ戻した。

 雨が降りそうだった。坂の上の電線に、燕が二羽、少し離れてとまっていた。

「まだ売れるよ。それ、百円の箱でしょう」

 店主の藤江が帳場から言った。

「だからです。百円でも、本は本なので」

「そういう返事をする人を、最後の一週間だけ雇うのはもったいなかったね」

 真帆は笑わなかった。去年まで勤めていた会社では、言われた通りの返事ができることを褒められた。契約が終わるときにも、同じ言葉で礼を言われた。もったいない、という言葉が何を留めてくれるわけでもないことを、知っていた。

 水庭堂は小さな古本屋だった。棚は六本。帳場の後ろに流し。奥に、店と同じくらい古い丸い机がある。藤江は四十年使った店を、商店街の読書室に譲ることにした。明日から二週間は工事で、売れ残った本は選別して別の店へ運ぶ。

 窓際の硝子戸棚だけは、閉店まで販売しない本の展示に使われていた。

 地元で生まれた小説家、青瀬澄人の『川の明るさ』。昭和三十九年刊の初版本。赤いカバーの背に、白い小さな川の線が引かれている。

 見返しには、著者の署名と、短い献辞があった。

 ――栄子さんへ。遠い日の続きを。

 貸してくれたのは、町で花屋を営む日高栄子だった。閉店の日だけ飾ってほしい、と一昨日持ってきたのだ。売り物ではない。栄子は今日の三時半に引き取りに来る。

「値段を聞かれても、答えないでくださいね」

 真帆が念を押すと、藤江は、昨日も同じことを言われたよ、と笑った。

 十一時前、手伝いに来た高校生の花が、棚番号を書いた紙を落とした。花は読書室の最初の利用者になるつもりでいる。図書委員をしているので、本の扱いには自信があるらしい。

「名札だけじゃだめなんですね」

 床に散った紙を拾いながら、花は言った。

「うちの学校、題名を見て並べるだけです」

「題名も、外と中で違うことがあるよ」

 藤江が硝子戸棚を開けた。真帆は展示を外して写真に撮り、同じ位置に戻すところだった。

「昔の本には、別の本のカバーを掛けてあることもある。ちゃんと調べるなら扉と奥付まで。服の名札で人の名前を決めちゃいけない」

 花は『川の明るさ』を受け取り、確かめるように開いた。

「ほんとに書いてある。『遠い日の続きを』って、何の続きでしょう」

「聞かないのが、古本屋の行儀です」

 真帆が言うと、藤江が今度は声を立てて笑った。

 そのとき、本当に雨が来た。

 戸口にいた真帆が箱へ手をかけるより早く、細い雨粒が舗道を黒くした。花が駆け出して、まだ外に残っていた看板を取り込む。真帆は木箱を抱えた。

「こっち、場所を空けます」

 花が丸い机の上へ看板を置いた。看板の足が、机の縁にあった水差しに触れた。

 倒れた水差しは割れなかった。けれど水は、机の半分を濡らした。

 赤いカバーの本と、その横に置かれていた緑のカバーの本が、水の先にあった。

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