家族より家族だった。龍と琥珀を見送って
私のことを、いちばん長く見ていたのは家族ではなかった。
猫の龍だった。
龍とは18年、一緒に暮らした。
私がリウマチと闘い、痛みに耐えきれず涙した日も、龍はそばにいた。
抱き上げることさえ痛かった頃。
それでも龍を抱くと、私の痛む場所を舐めてくれた。
家族から「大丈夫?」と声をかけられることさえない寂しい日にも、龍だけはいつもそこにいた。
私が家で交わしていた会話のほとんどは、猫との会話だった。
嬉しかったこと。
つらかったこと。
痛かったこと。
誰にも言えなかったこと。
龍は何も答えない。
それでも私は、ちゃんと聞いてもらっていると思っていた。
私をいちばん理解していたのは、龍だったのかもしれない。
今でも思い出すと、胸が熱くなる。
龍が13歳の時、琥珀を迎えた
正直に書こうと思う。
琥珀を迎えた理由の一つは、龍を失うのが怖かったからだ。
もし龍がいなくなったら、そのあと私は生きていけるのだろうか。
そんな自信がなかった。
琥珀には申し訳ない理由だったのかもしれない。
それでも私は、新しい子猫を迎えた。
幸い、龍も琥珀も穏やかな性格だった。
驚くほど早く打ち解けて、いつの間にか二匹で寄り添って眠るようになった。
二匹の寝姿を眺めているだけで幸せだった。
その頃には、私のリウマチの症状も少しずつ落ち着いてきていた。
この時間が、ずっと続けばいいと思っていた。
龍との別れ
けれど龍は、年齢とともに認知症のような症状が出るようになった。
鳴きながらぐるぐると歩き続け、疲れると眠る。
そして目を覚ますと、また歩く。
以前と同じように同じ部屋で過ごすことが難しくなり、事故が起きないよう、隣の部屋のケージで過ごしてもらうようになった。
ある寒い朝。
出勤前に龍の顔を見に行くと、いつもと様子が違った。
体が冷たかった。
それでも、まだ意識はあった。
その瞬間、前の晩に龍の顔を見に行かなかったことを思い出した。
疲れていたから。
ただ、それだけだった。
「なんで一人にしたんだろう」
後悔しても遅いことは分かっていた。
それでも私は、自分を責めた。
一人で寂しく逝かせたくなかった。
冷たくなった体を擦り、温めながら、
「お願いだから、逝かないで」
何度もそう言って泣いた。
何時間、抱いていただろう。
龍は、私の腕の中で静かに息を引き取った。
18年間、私のそばにいた龍がいなくなった。
そして、
琥珀だけが残った。
残された琥珀と私
龍を見送ったあと、琥珀と二人で過ごす日々が始まった。
琥珀も寂しかったのだろうか。
以前にも増して、私から離れなくなった。
もともと甘えん坊だった。
抱っこは当たり前。
夜は布団の中に潜り込み、暑くなると今度は私の顔のすぐ近くで眠る。
そんな毎日が、当たり前だった。
ある日、琥珀がしきりに陰部を舐めていることに気づいた。
そういえば、トイレを使った様子がない。
おしっこが出ていないのではないか。
心配になり、お腹を擦ったり、濡らした柔らかいタオルで刺激したりした。
それでも出ない。
見ると、患部はカラカラに乾いていた。
これはおかしい。
私は琥珀を病院へ連れて行った。
導尿してもらうため管を入れた瞬間、出てきたのは尿とは思えないほど真っ赤な血だった。
かなり状態が悪くなっていた。
医師からは、点滴をしながら状態を整えていくと説明を受けた。
私はその日、自分自身の通院があった。
琥珀を医師に託し、一度病院をあとにした。
午後になったら面会に行こう。
そう思いながら車を走らせていた時、電話が鳴った。
「急変しました。至急来てください」
意味が分からなかった。
どうして?
龍を亡くして、まだ数か月しか経っていない。
まさか琥珀まで。
病院へ着くと、私は急いで受付へ向かった。
案内されたのは、いつもの診察室とは別の場所だった。
琥珀は気管に管を入れられ、心電図をつけた状態で横たわっていた。
私には、もう蘇生処置が止まっているように見えた。
私は夢中で琥珀の胸を押した。
「帰ってきて」
「行かないで、琥珀」
「まだ早いよ」
「目を覚まして」
名前を呼びながら、何度も何度も胸を押した。
しばらくして医師が来た。
「波形は出ています。でも、それは飼い主さんが押した時だけです」
その言葉で分かった。
もう遅かった。
いや。
私が病院へ着いた時には、すでに遅かったのだ。
あまりに突然だったから、何も持ってきていなかった。
琥珀を連れて帰るためのものさえない。
私は着ていたパーカーを脱ぎ、まだ温かい琥珀を包んだ。
待合室で抱き寄せた。
泣いた。
誰が見ていても、もうどうでもよかった。
周りでは、いつもと同じ時間が流れていたのだと思う。
でも、あの場所だけは違った。
私と琥珀の時間だけが、別のところに取り残されていた。
まだ温かかった。
しばらくすると、事務の職員がやってきて、
「会計をお願いします」
と言った。
その時の私には、その言葉がひどく冷たく聞こえた。
家までの道。
涙で前が見えなくなるたびに、何度も拭った。
玄関へ入る時、パーカーに包まれた琥珀は、まるで首のすわらない小さな子どものようだった。
部屋へ戻っても、しばらく何もできなかった。
朝には生きていた。
これからも一緒に過ごす時間があると思っていた。
それなのに。
たった一日で、命がなくなった。
どうして。
龍を連れて行った数か月後に、どうして琥珀まで連れて行くの。
私は神様を恨んだ。
まだ4歳だった。
可愛い盛りだった。
もっと一緒にいたかった。
もっと生きてほしかった。
そして私は、また一人になった。
私の家族と言える二人が、空に行った。
家族より家族だった。龍と琥珀を見送って
私のことを、いちばん長く見ていたのは家族ではなかった。
猫の龍だった。
龍とは18年、一緒に暮らした。
私がリウマチと闘い、痛みに耐えきれず涙した日も、龍はそばにいた。
抱き上げることさえ痛かった頃。
それでも龍を抱くと、私の痛む場所を舐めてくれた。
家族から「大丈夫?」と声をかけられることさえない寂しい日にも、龍だけはいつもそこにいた。
私が家で交わしていた会話のほとんどは、猫との会話だった。
嬉しかったこと。
つらかったこと。
痛かったこと。
誰にも言えなかったこと。
龍は何も答えない。
それでも私は、ちゃんと聞いてもらっていると思っていた。
私をいちばん理解していたのは、龍だったのかもしれない。
今でも思い出すと、胸が熱くなる。
龍が13歳の時、琥珀を迎えた
正直に書こうと思う。
琥珀を迎えた理由の一つは、龍を失うのが怖かったからだ。
もし龍がいなくなったら、そのあと私は生きていけるのだろうか。
そんな自信がなかった。
琥珀には申し訳ない理由だったのかもしれない。
それでも私は、新しい子猫を迎えた。
幸い、龍も琥珀も穏やかな性格だった。
驚くほど早く打ち解けて、いつの間にか二匹で寄り添って眠るようになった。
二匹の寝姿を眺めているだけで幸せだった。
その頃には、私のリウマチの症状も少しずつ落ち着いてきていた。
この時間が、ずっと続けばいいと思っていた。
龍との別れ
けれど龍は、年齢とともに認知症のような症状が出るようになった。
鳴きながらぐるぐると歩き続け、疲れると眠る。
そして目を覚ますと、また歩く。
以前と同じように同じ部屋で過ごすことが難しくなり、事故が起きないよう、隣の部屋のケージで過ごしてもらうようになった。
ある寒い朝。
出勤前に龍の顔を見に行くと、いつもと様子が違った。
体が冷たかった。
それでも、まだ意識はあった。
その瞬間、前の晩に龍の顔を見に行かなかったことを思い出した。
疲れていたから。
ただ、それだけだった。
「なんで一人にしたんだろう」
後悔しても遅いことは分かっていた。
それでも私は、自分を責めた。
一人で寂しく逝かせたくなかった。
冷たくなった体を擦り、温めながら、
「お願いだから、逝かないで」
何度もそう言って泣いた。
何時間、抱いていただろう。
龍は、私の腕の中で静かに息を引き取った。
18年間、私のそばにいた龍がいなくなった。
そして、
琥珀だけが残った。
残された琥珀と私
龍を見送ったあと、琥珀と二人で過ごす日々が始まった。
琥珀も寂しかったのだろうか。
以前にも増して、私から離れなくなった。
もともと甘えん坊だった。
抱っこは当たり前。
夜は布団の中に潜り込み、暑くなると今度は私の顔のすぐ近くで眠る。
そんな毎日が、当たり前だった。
ある日、琥珀がしきりに陰部を舐めていることに気づいた。
そういえば、トイレを使った様子がない。
おしっこが出ていないのではないか。
心配になり、お腹を擦ったり、濡らした柔らかいタオルで刺激したりした。
それでも出ない。
見ると、患部はカラカラに乾いていた。
これはおかしい。
私は琥珀を病院へ連れて行った。
導尿してもらうため管を入れた瞬間、出てきたのは尿とは思えないほど真っ赤な血だった。
かなり状態が悪くなっていた。
医師からは、点滴をしながら状態を整えていくと説明を受けた。
私はその日、自分自身の通院があった。
琥珀を医師に託し、一度病院をあとにした。
午後になったら面会に行こう。
そう思いながら車を走らせていた時、電話が鳴った。
「急変しました。至急来てください」
意味が分からなかった。
どうして?
龍を亡くして、まだ数か月しか経っていない。
まさか琥珀まで。
病院へ着くと、私は急いで受付へ向かった。
案内されたのは、いつもの診察室とは別の場所だった。
琥珀は気管に管を入れられ、心電図をつけた状態で横たわっていた。
私には、もう蘇生処置が止まっているように見えた。
私は夢中で琥珀の胸を押した。
「帰ってきて」
「行かないで、琥珀」
「まだ早いよ」
「目を覚まして」
名前を呼びながら、何度も何度も胸を押した。
しばらくして医師が来た。
「波形は出ています。でも、それは飼い主さんが押した時だけです」
その言葉で分かった。
もう遅かった。
いや。
私が病院へ着いた時には、すでに遅かったのだ。
あまりに突然だったから、何も持ってきていなかった。
琥珀を連れて帰るためのものさえない。
私は着ていたパーカーを脱ぎ、まだ温かい琥珀を包んだ。
待合室で抱き寄せた。
泣いた。
誰が見ていても、もうどうでもよかった。
周りでは、いつもと同じ時間が流れていたのだと思う。
でも、あの場所だけは違った。
私と琥珀の時間だけが、別のところに取り残されていた。
まだ温かかった。
しばらくすると、事務の職員がやってきて、
「会計をお願いします」
と言った。
その時の私には、その言葉がひどく冷たく聞こえた。
家までの道。
涙で前が見えなくなるたびに、何度も拭った。
玄関へ入る時、パーカーに包まれた琥珀は、まるで首のすわらない小さな子どものようだった。
部屋へ戻っても、しばらく何もできなかった。
朝には生きていた。
これからも一緒に過ごす時間があると思っていた。
それなのに。
たった一日で、命がなくなった。
どうして。
龍を連れて行った数か月後に、どうして琥珀まで連れて行くの。
私は神様を恨んだ。
まだ4歳だった。
可愛い盛りだった。
もっと一緒にいたかった。
もっと生きてほしかった。
そして私は、また一人になった。
私の家族と言える二人が、空に行った。