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志堂 月音

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8.5階の喫茶店【幻想ホラー短編】
ココナラ限定出品

8.5階の喫茶店【幻想ホラー短編】

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志堂 月音

2026年06月20日 11:29

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第一章:通い慣れた階段のはずだった

ナモはそのビルを、 もう何年も前から知っていた。

駅前の古い雑居ビル。
七階には、 ナモが何度も通った“穴場カフェ”がある。

こんな高いフロアに店を構えるせいで、 お客はほとんど来ない。
だが、それがいい。

静かで、 落ち着いていて、 コーヒーの香りがゆっくり体に染みわたる。
ナモにとっては、 ひっそりとした避難場所みたいな店だった。

だから最近は、 運動不足解消のために、目的階まで階段で登る という習慣ができていた。

今日もそのつもりだった。

——七階まで歩く。 ——いつも通り。 ——何の変哲もない日。

階段を上り始めてすぐ、 ナモはふと違和感を覚えた。

二階までが……遠い。

いつもならすぐ見えるはずの踊り場が、 なぜか見えない。

ナモは立ち止まり、 後ろを振り返った。

——おかしい。 ——こんなに長かったっけ、この階段。

壁の色も、 手すりの冷たさも、 いつもと同じなのに。

なのに、 “距離”だけが違う。

胸の奥がざわつく。

七階までの階段は、 何度も上った。 体が覚えているはずなのに。

今日は、 まるで別のビルに迷い込んだみたいだ。

もう一段、 もう一段と上るたびに、 空気が少しずつ重くなる。

そして——

見たことのない踊り場が現れた。

そこには、 白いプレートに黒い文字でこう書かれていた。

「8.5階」

ナモは息を呑んだ。

七階までしかないはずのビルに、 そんな階は存在しない。

何十回も来た。 何年も通った。 そんな階、あるはずがない。

なのに、 そこに“ある”。

扉の向こうから、 かすかにベルの音がした。

——カラン……。

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