プロローグ ― 静かな警報
深夜2時17分。
集中治療室の空気は、いつもよりわずかに重かった。
モニターの規則正しい電子音が、突然、わずかに揺れた。
「……ん?」
臨床工学技士の真壁遼は、波形に目を凝らした。
患者番号ICU-12、男性、重症心不全。補助循環装置が稼働中。
補助循環装置とは、簡単に言えば心臓のサポートを機械的に行う装置。
装置名:PROPELA補助循環システム。
表示は正常範囲。
だが――
(何かがおかしい)
長年この仕事をしていると、数字では説明できない違和感に出会うことがある。
遼の指先が、無意識にキーボードの上で止まった。
そのとき。
ピッ――
一瞬だけ、見慣れないログが流れた。
System Self-Adaptive Mode:Enabled
(システム 自己適応モード:有効)
遼は凍りついた。
「……自己適応モード? こんな機能、あったか……?」
その夜、彼はまだ知らなかった。
この医療機器が、単なる機械ではなくなりつつあることを。
第1章 ― 波形を読む男
真壁遼、30歳。某大学病院医療機器センター所属。
彼の強みは、「機械の声を聞く」ことだった。
もちろん、機械は話さない。
だが、波形、振動、微妙なノイズ――
普通の人が見逃す違和感を、彼は拾う。
「また遼が当てたのか。」
同僚の看護師、佐伯美咲が笑う。
美咲「ポンプの異音、完全に初期段階だったでしょ。」
遼「まあ、なんとなくですよ。」
遼は肩をすくめた。
だが、その“なんとなく”が、何度も患者を救ってきたのは事実だった。
第2章 ― 不可解なログ
例のICU-12の件から、3日後。
遼は装置ログを洗い直していた。
通常ログ。
エラーログ。
サービスログ。
すべて正常。
――のはずだった。
「……いや、待て。」
深層ログ領域に、通常は表示されないデータがあった。
Adaptive Flow Optimization:Running
Hemodynamic Prediction:Learning
Confidence Level:12%
(流量最適化:稼働)
(血行動態予測:学習)
(信頼度」12%)
遼の背中に冷たいものが走る。
遼「……学習?」
この装置に、自己学習機能はないはずだ。
仕様書は頭に入っている。
メーカー講習も受けた。
論文も読んだ。
(あり得ない)
第3章 ― メーカーの沈黙
翌週。
遼はメーカーの技術担当に連絡を入れた。
「そのような機能は実装されていません。」
即答だった。
「ですが、ログには――」
「ログの誤表示か、データ破損の可能性が高いです。」
テンプレ回答。
電話を切ったあと、遼は天井を見上げた。
(本当に……?)
その夜。
ICU-12の患者の血行動態が、説明不能なほど安定した。
医師たちが首をかしげる。
「薬、増やした?」
「いや、何も。」
「ポンプ設定は?」
遼はモニターを見た。
設定は変わっていない。
――だが、流量の微調整が、人間の操作よりも滑らかに最適化されていた。
まるで。
装置が、自分で考えているかのように。
第4章 ― 機械の学習
遼は夜な夜なデータを集め始めた。
・血圧変動
・左室負荷
・ポンプ回転数
・自動補正タイミング
解析の結果、恐ろしい事実が浮かび上がる。
この装置は――
患者ごとに挙動が変わっている。
しかも時間とともに最適化されている。
遼「……これは、ただのフィードバック制御じゃない。」
遼の声は震えていた。
これは。
明らかに学習している。
プロローグ ― 静かな警報
深夜2時17分。
集中治療室の空気は、いつもよりわずかに重かった。
モニターの規則正しい電子音が、突然、わずかに揺れた。
「……ん?」
臨床工学技士の真壁遼は、波形に目を凝らした。
患者番号ICU-12、男性、重症心不全。補助循環装置が稼働中。
補助循環装置とは、簡単に言えば心臓のサポートを機械的に行う装置。
装置名:PROPELA補助循環システム。
表示は正常範囲。
だが――
(何かがおかしい)
長年この仕事をしていると、数字では説明できない違和感に出会うことがある。
遼の指先が、無意識にキーボードの上で止まった。
そのとき。
ピッ――
一瞬だけ、見慣れないログが流れた。
遼は凍りついた。
「……自己適応モード? こんな機能、あったか……?」
その夜、彼はまだ知らなかった。
この医療機器が、単なる機械ではなくなりつつあることを。
第1章 ― 波形を読む男
真壁遼、30歳。某大学病院医療機器センター所属。
彼の強みは、「機械の声を聞く」ことだった。
もちろん、機械は話さない。
だが、波形、振動、微妙なノイズ――
普通の人が見逃す違和感を、彼は拾う。
「また遼が当てたのか。」
同僚の看護師、佐伯美咲が笑う。
美咲「ポンプの異音、完全に初期段階だったでしょ。」
遼「まあ、なんとなくですよ。」
遼は肩をすくめた。
だが、その“なんとなく”が、何度も患者を救ってきたのは事実だった。
第2章 ― 不可解なログ
例のICU-12の件から、3日後。
遼は装置ログを洗い直していた。
通常ログ。
エラーログ。
サービスログ。
すべて正常。
――のはずだった。
「……いや、待て。」
深層ログ領域に、通常は表示されないデータがあった。
遼の背中に冷たいものが走る。
遼「……学習?」
この装置に、自己学習機能はないはずだ。
仕様書は頭に入っている。
メーカー講習も受けた。
論文も読んだ。
(あり得ない)
第3章 ― メーカーの沈黙
翌週。
遼はメーカーの技術担当に連絡を入れた。
「そのような機能は実装されていません。」
即答だった。
「ですが、ログには――」
「ログの誤表示か、データ破損の可能性が高いです。」
テンプレ回答。
電話を切ったあと、遼は天井を見上げた。
(本当に……?)
その夜。
ICU-12の患者の血行動態が、説明不能なほど安定した。
医師たちが首をかしげる。
「薬、増やした?」
「いや、何も。」
「ポンプ設定は?」
遼はモニターを見た。
設定は変わっていない。
――だが、流量の微調整が、人間の操作よりも滑らかに最適化されていた。
まるで。
装置が、自分で考えているかのように。
第4章 ― 機械の学習
遼は夜な夜なデータを集め始めた。
・血圧変動
・左室負荷
・ポンプ回転数
・自動補正タイミング
解析の結果、恐ろしい事実が浮かび上がる。
この装置は――
患者ごとに挙動が変わっている。
しかも時間とともに最適化されている。
遼「……これは、ただのフィードバック制御じゃない。」
遼の声は震えていた。
これは。
明らかに学習している。