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河崎ゆう

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『見えない通報』約24500文字

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河崎ゆう

2025年07月01日 13:17

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ジャンル:現代×サイコホラー×ミステリー

廃校の保存施設で記録を管理する警備隊長・風間。異動してきたばかりの彼は、前任者の残した「警備日報」の404号に違和感を覚える。そこには「この校舎には“数”が合わない場所がある」と書かれていた。やがて風間の周囲でも、人数が合わない奇妙な現象が起こりはじめる――。

「声なき声に、耳を澄ませろ」

― 無視された過去、記録から消された真実は、必ず誰かの心の底で叫び続けている。

人間の「記憶」と「忘却」、そして現代社会における「無関心」の恐怖物語

廃校の保存施設で記録を管理する警備隊長・風間。異動してきたばかりの彼は、前任者の残した「警備日報」の404号に違和感を覚える。そこには「この校舎には“数”が合わない場所がある」と書かれていた。やがて風間の周囲でも、人数が合わない奇妙な現象が起こりはじめる――。

「声なき声に、耳を澄ませろ」

― 無視された過去、記録から消された真実は、必ず誰かの心の底で叫び続けている。

人間の「記憶」と「忘却」、そして現代社会における「無関心」の恐怖物語

主要登場人物

● 有馬 崇(たかし)

年齢:45歳

性別:男性

職業:警備会社・統括警備隊長

性格:冷静沈着だが、過去にこだわりやすい執着気質

役割・関係性:物語の主人公。10年前の「未解決事件」の現場責任者でもあり、心に傷を抱える。真相を追う過程で次第に現実と幻覚の境界が揺らぐ。

● 村上 奏(かなで)

年齢:27歳

性別:女性

職業:若手警備員(夜勤担当)

性格:明るく論理的。幽霊などは信じない現実主義者

役割・関係性:主人公・有馬の部下。ある夜の「通報現場」にて奇妙な体験をし、恐怖と好奇心の狭間で揺れながらも事件に関わっていく。

● 葉山 稔(みのる)

年齢:60歳

性別:男性

職業:元施設管理人(退職後は沈黙していた)

性格:無口で頑固。何かを強く恐れている

役割・関係性:かつての未解決事件の関係者。有馬に接触し、「あのボタンがまた鳴ってるのか」とつぶやく。キーパーソン的存在。

● 三宅 仁

年齢:34歳

性別:男性

職業:センター勤務のオペレーター

性格:皮肉屋で神経質。

役割・関係性:最初に「見えない通報」の存在に気づく。だが徐々に不安定になり、異常な行動を起こし始める。

● 相原 美樹

年齢:当時16歳(10年前に行方不明)

性別:女性

職業:女子高生(当時)

性格:写真や記録の中にのみ登場。

役割・関係性:10年前、今と同じ場所で忽然と消えた少女。彼女の「助けて」という通報が、今もどこかで鳴っている。

各章タイトル

第1章:通報記録404

第2章:封鎖フロア

第3章:あの音を聞いた

第4章:沈黙の証言者

第5章:押されたままのボタン

第6章:記録なき叫び

最終章:見えない通報の終わりに

第1章:通報記録404

第一節:深夜2時の警報

クロスタワー防災警備センター内、午前2時を回った。夜勤担当の警備員・村上奏は、無人の監視モニター群の中に、ひとつだけ赤いランプが点滅しているのに気づいた。

「……旧倉庫から? このフロア、使用停止じゃなかった?」

確認のために端末を操作する。表示された通報ログには、確かに『第4区・旧サービス階段脇』と書かれている。しかしその場所は数年前から封鎖され、定期巡回の対象からも外れていたはずだ。

村上は咄嗟に無線で呼びかけた。「センター、こちら村上。旧サービス階段脇に異常通報あり。現場確認に向かいます」

『……了解。慎重に』

オペレーターの三宅が短く応答したが、その声にわずかに戸惑いの気配が滲んでいた。

村上は手元の懐中電灯を確認しながら、エレベーターで地下へ降りていく。普段は足を踏み入れることのない静謐な空間。長い廊下にひとりきりの気配が、鼓膜に自分の呼吸音を大きく響かせた。

旧サービス階段の脇──そこには確かに、かつて非常通報ボタンが設置されていた鉄製の盤面があった。しかし、今は電源も切られ、押しても何の反応も返ってこないはずだ。

「……点いてない、な」

赤い点滅はすでに消えていた。現場は静まり返っており、床にも壁にも異常は見当たらない。

そのとき、背後から──気配がした。

カツン……カツン……

足音。だが、振り返っても誰もいない。

「おい、誰かいるのか?」

返事はない。だが、足音は確かに自分の背後にいた。あの一瞬だけ、風が動いたように感じた。

村上は拳を握りしめたまま、ゆっくりと後ずさるようにしてその場を離れた。

そしてセンターに戻ると、モニターの記録を確認しようと三宅に声をかけた。

「三宅さん、あの通報……録画されてる?」

三宅は険しい表情でキーボードを叩きながら首を振る。

「ない。いや、“ない”っていうか……ログはあるのに映像が空白なんだよ。エラーじゃない。最初から、そこには何も写ってなかったような感じでな……」

「ログは誰かが押したって示してる。でも、カメラには写ってない……」

村上は自分の腕に浮かぶ鳥肌に気づきながら、深く息を吐いた。

「三宅さん、こんなこと前にもありました?」

「……ああ。実はな、去年の今頃、全く同じ場所で……しかも“同じ日”に、同じような通報があったんだよ」

「それ、なんで記録に残ってないんです?」

三宅は無言のまま、ふっと笑ってから、こう言った。

「たぶん、消されたんだろ。誰かが、“何か”を見なかったことにしようとしてさ」

「……何を?」

三宅は村上をまっすぐ見た。

「まだ、知らない方がいい。だがな、あの非常ボタン……本当に“誰か”が押してるんだ」

第二節:無音のログ

その夜、村上は妙に寝つけなかった。ベッドに横になっても、旧フロアで感じた“気配”が頭を離れない。

朝方、目を閉じたまま耳を澄ますと、どこからともなくあの足音が──カツン、カツンと──近づいてきているようにさえ感じられた。

翌夜、村上は出勤するなり三宅のもとへ駆け寄った。

「三宅さん、あのログ、もう一度確認できますか? 音声データ、残ってましたよね?」

「おう。……ただし、聞きたくないなら今のうちに引き返せ」

「もう、気になってしょうがないんですよ。何か、おかしいって身体が言ってる」

三宅は端末を操作し、ファイル名《LOG404_A》を呼び出した。

「再生開始。こいつが“通報の直前30秒”だ」

スピーカーからは、ただのノイズが流れ出した。

ザ……ガ……キ……チ、……ザア……

金属が擦れるような耳障りな音が続き、その中に、何かが混ざっている。

「……待って、それ……人の声、ですよね?」

村上が言った。

三宅は頷き、モニターの横に置かれた外部ソフトを立ち上げる。

「この解析ソフトは“音の下層構造”を可視化できる。ノイズの奥にある周波数域を抽出する」

バーン、とソフトがログを走査し、音声波形が浮かび上がった。

そして再生された──

『……たすけて……』

少女のようなか細い声。それは間違いなく、人間の声だった。

村上は震えた指で、音量を少し下げながら呟いた。

「こんな……まさか……こんなはずない」

三宅もまた表情をこわばらせていた。

「俺たちは、何かを“見逃してる”んじゃない。……最初から、“見ないようにされてる”んだよ」

「どういう意味ですか?」

「この通報、最初から“ログにしか残らない構造”になってる可能性がある。誰かが記録だけを残して、映像と音声は“意図的に”外されたんだ」

「でも、なんのために……?」

三宅は深く息を吸い、答えた。

「それを知ってるのは、おそらく──あのボタンを“本当に押した誰か”だよ」

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