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宅録声優・ナレーター いなしろはる

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空色のフィルム

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宅録声優・ナレーター いなしろはる

2025年06月20日 16:44

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幼馴染と埋めたタイムカプセルを通して、自分と向き合うお話です。


 幼い頃の口約束は、往々にして叶わない。

 卒業式の「同窓会やろう」で開かれる同窓会はほぼないし、遠くへ引っ越す友人の「手紙書くね」で届く手紙は、僕の知る限り100%ない。もちろん全てがそうだとは思わないし、開かれる同窓会も途切れない連絡も、きっとこの世にはあるのだろうが、少なくとも僕にとっての口約束は、大抵がその場のノリと昂った感情のままに口走った約束めいた何かで、それは日々の生活や新しい環境にのまれて容易に忘れられる。何なら中には社交辞令としてその場の流れで口をついただけで、ハナから実現しようとは思っていないものもあるのだろう。社交辞令かそうでないかは、不器用な僕には判断できないけれど。
 この、叶わない約束の最たるものがタイムカプセルだと僕は思う。

 タイムカプセルといえば、やや遠い先の未来での再会の約束と共に、思い入れの強い思い出の品と未来の自分へ向けたメッセージを残すものだ。中には学校のイベントの一環で行われるものもあるようだが、大抵が仲のいい友人同士で行われる。
 けれどこのタイムカプセル、大抵が皆その約束自体を忘れてしまう。だって思い出の品を土に埋めて、10年とか20年とかキリがいいかつ結構先の未来に開けようって約束だぞ。手紙とか同窓会とか、まだ短いスパンのものならともかく、そんな曖昧かつ遠い未来の約束、忙しい現代人が覚えていられるわけがない。仮に小学校高学年、年齢で言えば10才から12才の頃に埋めたとして、10年後ならその人はもう20歳前後で、大学のゼミやら就職活動やらで忙しい。(中にはすでに働いている人もいるだろう。)加えてそのほとんどが具体的に10年後の何時にどこで集合するかなんて細かい取り決めはないのだ。その時点でその約束が履行される可能性はほぼゼロに等しい。

 冷静に考えれば考えるほどにアホらしくなってくるタイムカプセルご開帳の約束だが、癪なことに僕自身がこの約束の当事者の一人であり、今まさにかつての自分とその友人との曖昧な取り決めに対して言いようのない不満を抱えている。要するに、

「どこに埋めたかくらい最低限地図に残しておけよ昔の僕ううう!!!!!」

 埋めた場所を完全に忘れたのだ。誰か助けて欲しい。

*

 あれは確か、僕が小学4〜5年生くらいの時分だったと思う。近所の仲のいい友人である木村宏樹、通称ヒロと自分とで、タイムカプセルを埋めたのだ。
 当時の僕たちは写真が好きなカメラ仲間で、家が近所ということもあり、地元の祭りなどのイベントの日はもちろんのこと、何でもない日でもテーマを決めては、なけなしのお小遣いで買った使い捨てカメラ片手に撮影だ何だとよくつるんででかけていたものだった。慣れない場所に足を運んだり、公募の写真コンテストに応募して競争したり、時には一緒に勉強したりと、改めていうと照れ臭いが、少なくとも当時のヒロは僕にとっては親友で、きっとヒロにとって僕も親友のような存在であったという自負はある。

 そんな中ヒロが中学受験のために塾に通い始め、二人で撮影にいける機会はぐっと減ってしまった。彼は所謂難関高を目指していたから、平日はもちろん夏休みは夏期講習、冬休みは冬季講習と忙しく、二人で出かける機会はほとんどなかった。公立志望の僕は、そんな忙しいヒロを大変そうだなぁと呑気に見守っていただけれど、同時に卒業後は自分達の道は分たれるのだと、言葉にしにくい寂寥感を感じていたのを今でも覚えている。そんな中、ある時タイムカプセルを埋めようという話になった。
 言い出しっぺはヒロだった。タイムカプセルを企画した経緯はあまり覚えていない。というか「タイムカプセル」という響きが当時の僕には魅力的で正直あまり詳しくは聞かずに二つ返事で合意した。今思うとおそらく彼は、カメラ仲間だった僕と進路が分た れる前に、記念として何か思い出を残したかったのかもしれない。ともかくも、僕たちは互いに二人で思い出の品を持ち寄って––––正直何を埋めたのか欠片もも覚えていないのだが––––よく撮影に使っていた公園…たぶん公園にタイムカプセルを埋めた。「大人になったら、二人でまたここに集まってタイムカプセルを開こうぜ」、なんて青臭い口約束と共に。

 そして今、僕は途方に暮れている。
 
 大人になったらって、具体的にいつの話なんだ。一体全体当時の僕たちは何歳を大人だと思っていたんだ。成人したらなのか大学卒業したらなのか、人によって違うぞ大人の定義なんてもっと明確に定義しておけ馬鹿野郎。せめてもっと区切りのいい時期を提示しろよ阿呆。というか現代には数字という物事を測りやすい便利な指標があるのだから、10年とか15年とか、何かあるだろそういうの。何で何も決めてないんだやる気あるのかと問いただしたい。
 兎も角も、取り乱してしまったが僕は一人で件のタイムカプセルを開こうと一念発起した。実家の倉庫から小ぶりなスコップをわざわざ捜索し、さあ懐かしのタイムカプセルとご対面だなんて意気込んだはいいものの、肝心の場所を思い出せずに初手から躓いているのだ。

 いや違う、完全に忘れた訳ではない。タイムカプセルとして埋めたのは、アルミ製の…たぶん菓子缶だったことは何となく覚えているし、埋めた場所だって––––その…なんかの木の近く、多分きっとおそらくは近所のどこかの公園の木––––だと思うんだが…とにかくどこかの木の周辺だったことは覚えている。いや、もはや何も覚えていないに等しいじゃないかと突っ込まれそうだが、そもそも撮影に使っていた公園なんて複数あったし、あれから十数年という時間が経っているのだから多少は大目に見て欲しい。
「仕方ない、記憶を頼りに手を動かしてみるしかないな…」
 こうして僕の、タイムカプセル捜索ミッションが始まった。期限は大学の卒業式の1週間後––––僕がこの地を発つ前日までだ。

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