プロローグ
それは、人類が初めて「アンノウン」と呼ばれる存在に出会った夜だった。
東京湾を望む工業地帯の夜景が、奇妙な紫色の光に包まれていた。
その中に、それは現れた。
犬のような四つ足のシルエット。だが、その身体は金属のような質感に覆われ、全身が機械とも有機ともつかない光沢を放っていた。燃えるような赤い瞳が、闇の中で爛々と輝く。
明らかに、地球の生態系には属さない“何か”だった。
「こちら天城。未確認の巨大生物を発見…応援を要請する!」
巡回中だった若い警官、天城勇太の声は、無線機の奥でかすかに震えていた。彼の視線の先で、あの異形の生物が静かに、だが確実に、こちらへと歩みを進めていた。
「こんな…バカな…。一体何なんだ、こいつは…」
天城は恐怖に突き動かされるように、ホルスターから拳銃を抜いた。構える腕が微かに震える。冷たい汗が、背中を伝うのがわかった。
「止まれ!これ以上近づくな!警察だ!」
鋭い声が夜の静寂を裂く。だが、次の瞬間、アンノウンの瞳が妖しく光った。それは、まるで人間の言葉に対する嘲笑のようだった。
「動くなって言ってるだろうが!」
その言葉に反応するように、アンノウンが地面を蹴った——。
「うわっ!」
一瞬で距離を詰めたアンノウンに、天城は反射的に引き金を引く。
パン!
乾いた銃声が響く。銃弾は確かに命中した。だが——
「はじかれた!?」
弾丸はまるで玩具のように弾き返され、地面に転がった。その瞬間、天城の全身に冷たい汗が流れ落ちる。
「う、嘘だろ?効かない…のか…?まずい…!何か手を…!」
焦りが喉を締めつけ、恐怖が足をすくませる。無線から何かが聞こえていたが、天城の耳にはもう届かない。
数発撃ち込んでも、結果は同じ。アンノウンは、彼の無力さを楽しむかのように、ゆっくりと迫ってくる。
必死に後ずさりする彼の背中が、金網フェンスにぶつかる——その瞬間だった。
ズバッ!!
赤い閃光と共に、アンノウンの爪が唸りを上げて振り下ろされた。
「ぐっ…うわぁあっ!!」
天城の胸を鋭い痛みが貫く。視界がぐにゃりと歪み、血の味が口内に広がる。力が抜け、彼の体は地面に崩れ落ちた。
「こんなところで……俺は……」
その最後の言葉を呟くと同時に、彼の意識は闇に呑まれた。
アンノウンは、動かなくなった彼の身体を一瞥し、音もなく夜の帳の中へと姿を消した——。
翌朝、天城勇太の殉職は警察署を通じて報告され、現場の映像と共に「未確認生物」の存在は、国内外のメディアを通じて広く知れ渡ることになる。
この事件こそが、地球に現れた最初のアンノウンの記録。
——そう、人類とアンノウンの戦いの始まりだった。
科学者たちと軍事関係者が慌ただしく動き出す中、ある驚愕の事実が浮かび上がる。
アンノウンは、この一体だけではなかった。
世界各地で、同時多発的に似た存在が姿を現し始めていた。
しかも、その12体すべてが、日本の「干支」に酷似した姿をしていたのだ。
未知の存在が、静かに人類へと牙を向く。
——これは、やがて「未確認戦線」と呼ばれる、人類史上最大の脅威との戦いの幕開けである。
出会いと覚醒
(数年後)
校庭の片隅。西日が長く影を伸ばし、夕焼け色の空が広がっていた。
制服のスカートの上に手を添え、静かに足を揃えたまま、じっとその光景を見つめていた。
「……まだやるのかな」
白崎莉奈は小さくつぶやく。彼女の視線の先では、天城大牙がひたすら木刀を振り続けていた。
大牙は明るくて誰にでも優しい、まさに頼れるリーダータイプの少年だ。けれど、頑張りすぎるところがあって、いつも無理をしてしまう。それを止めるのは、大抵いつも莉奈の役目だった。
「……もう暗くなってきたよ、大牙くん」
莉奈が遠慮がちに声をかけると、大牙は木刀を振る手を止め、振り返った。額には汗がにじみ、制服のシャツが少し汚れている。
「えっ、もうそんな時間?」
「うん。帰らないと……」
「あとちょっとだけ! もう少しで新しい型が掴めそうなんだ!」
「……さっきもそう言ってたよね?」
「うっ……!」
莉奈の言葉に、大牙は苦笑する。確かに彼は「あとちょっと」が口癖で、結局何時間も続けることが多い。
「でもさ、こうして鍛えておかないと、いざって時に守れないだろ?」
「……うん、でも無理しないでね」
「おう!ありがとな莉奈!片づけるからちょっと待っててくれ」
仲間たちと道具を片付けながら、大牙は莉奈に話しかけた。
「待たせちまったな。寒くなかったか?」
「ううん、大丈夫。でも…無理しすぎちゃだめだよ。」
「ははっ、心配性だな。けど、ありがとう。」
そんな会話を交わしながら、二人は校門を出る。莉奈は少し不安そうな表情で大牙を見上げた。
「大牙くんって、いつも前に出てるよね。怖くないの?」
「怖いさ。でも、守りたいものがあるからな。」
その言葉に、莉奈は少し驚いたような顔をした。けれど、それ以上何も言わず、そっと微笑むだけだった。
訓練を終えた大牙と莉奈が帰路についている途中、静かな住宅街の通りを歩いていた。遠くから、不気味な唸り声が聞こえてきた。
「…なんだ、この音?」
大牙が足を止め、耳を澄ませた。その時、暗闇の向こうから一対の赤い瞳が現れた。
ガシャッ…ガシャッ…
金属を引きずるような音と共に、姿を現したのはアンノウン「犬型」。その巨大な体躯は狼のような姿をしており、口元から鋭い牙が覗いている。体全体に光る鎖のような模様が絡みついており、咆哮とともに大気を震わせた。
「おい、あれ…アンノウンだ!」
莉奈が恐怖に声を震わせる。犬型アンノウンは二人に狙いを定めると、一歩一歩近づいてきた。
「莉奈、逃げろ!こいつは俺が食い止める!」
大牙は身を前に出し、莉奈を守るように立ちはだかった。
「でも…危ないよ!大牙くん!」
犬型アンノウンは咆哮を上げると、一気に跳躍し、大牙に襲いかかった。その鋭い爪が空を裂き、大牙はギリギリで身をかわしたが、地面に倒れ込む。
「くそっ…!」
大牙はその場で懸命に莉奈を守ろうとするが、アンノウンの圧倒的な力の前に何もできなかった。しかし、その瞬間、莉奈の中に眠っていた未知の力が覚醒する。
「お願い…助けて…!」
彼女の瞳が赤く輝き、周囲の空気が歪むような異常現象が起きた。アンノウンの動きが止まり、莉奈の手のひらから放たれた光がそれを弾き飛ばした。
「…何、これ?私が…やったの?」
「莉奈…!」
大牙が驚きの声を上げる中、莉奈はその場で力を使い果たし、倒れ込む。犬型アンノウンは倒れず、怯んだだけで再び立ち上がり咆哮を上げるが、その場を離れ、暗闇の中へと消えていった。
大牙はすぐさま莉奈のもとへ駆け寄り、彼女を背負った。
アンノウンが倒れると同時に莉奈は意識を失い、大牙は彼女を背負ってその場を離れる。
莉奈を背負いながら家路についた大牙。彼女の小さな体の重みを感じるたびに、彼の胸には悔しさが募った。
「俺…何もできなかった…」
莉奈があの異常な力でアンノウンを倒した一方で、自分はただ守られるだけだった。その事実が彼の心を強く締めつける。
「もっと…もっと鍛えないと…俺は弱い…こんなんじゃ、仲間も守れねぇ…」
莉奈を家に送り届けた後、大牙は一人で夜道を歩きながら、自分に足りないものを噛みしめた。
「次は絶対…絶対に守ってみせる…」
握りしめた拳に、彼の新たな決意が宿る。まだ眠れぬ夜が続くが、大牙はその中で静かに鍛錬を誓った。
やがて、その想いが彼の未来を大きく変えることになるのだった。
朝の通学路には、さわやかな風が吹いていた。まだ眠たそうに制服の襟を正しながら歩く生徒たち。
その中で、莉奈はどこか沈んだ表情で、とぼとぼと歩を進めていた。
(……昨日のこと、まだ気にしてる。ダメだな、私)
ほんのりと頬をふくらませながら、彼女がため息をつこうとした、その時だった。
――ブロロロ……
一台の黒塗りの高級車が、ぬるりと彼女の横に滑り寄ってきた。
「おっはよー、白崎莉奈ちゃーん♪」
開いた窓から顔を出したのは、黒スーツにサングラスという怪しさ満点の男。
その爽やかすぎる笑顔は、逆に不信感しか抱けないレベルで完成されていた。
「……誰ですか……?」
莉奈はガチ警戒モードで足を止めた。が、その男――久遠は、まったく動じる様子もなく車から降り立ち、シャキーンとポーズを決めた。
「どうもどうも!僕、“セクターG”の者です!」
「……は?どこですかそれ」
「ふっふっふ、それはね――」
サングラスをクイッと持ち上げ、キラリと光る目でウィンクを飛ばす。
「君の運命を変える、“スゴイとこ”さ」
(いや、完全に怪しいでしょコレ……)
内心ドン引きする莉奈だったが、相手のテンションがすごすぎて、なんとなく話を聞いてしまう。
「君、能力に目覚めただろ?そろそろ本格的な面談、必要だと思ってね」
「……いや、私そんな大した力なんて――」
「いやいやいやいや、あるある!センスの塊!スーパールーキー確定!」
久遠はグイグイと迫ってくる。やたら身振り手振りが大きい。
思わず後ずさる莉奈。そのときだった――
「ちょっと待ったああああああああああ!!」
とんでもない大声と共に、一台の自転車が突風のように突っ込んできた!
「おおっと、これは……?」
久遠がちらりと振り向いた瞬間、地面にタイヤを“ギギィィ”と滑らせて止まる自転車。
そして――
「莉奈ぁ!乗るな!そいつヤベーやつだ!!」
全力でペダルをこいできた少年、天城大牙が自転車から飛び降り、ズザァッと華麗なスライディング停止で久遠と莉奈の間に割り込む!
「なんだお前、ヒーローか」
久遠が笑いながら両手を挙げるが、大牙は完全にガチギレモードだった。
「テメェ、莉奈をどこに連れてこうとしてんだよ!!スーツのセンスが軽犯罪級だぞ!!」
「ひどいなぁ。こんな高級スーツなのに……」
「だまされるな莉奈!車に乗ったら帰ってこられねぇパターンのやつだ!!」
莉奈はあわあわしながら二人を見比べる。
「あ、あの……二人とも、ちょっと落ち着いて――」
が、その隙を突いて、久遠がサクッと莉奈を車内にIN!
「うぇええ!?ちょっ、今のずるっ!」
「それじゃ、また学校で会おうね〜!」
パタンとドアが閉まり、車は滑らかに発進。
だが――その背後から、再び大牙の怒号が響いた!
「待てコラァァァァァァァァ!!!」
車は滑らかに山道を登っていく。運転手は淡々とハンドルを操り、後部座席では久遠がサングラスを指でクイッと直しながら、のんびり脚を組んでいた。
「ふー、これで巻いたかな?さすがに自転車で追ってくるのは無理だよね〜」
ミラーを確認した運転手が軽く頷く。
「追跡者、確認できません。振り切りました」
「うんうん、やっぱ高校生にしてはがんばったけど、さすがにね」
そう言って久遠が口元を緩めた、その時だった。
プロローグ
それは、人類が初めて「アンノウン」と呼ばれる存在に出会った夜だった。
東京湾を望む工業地帯の夜景が、奇妙な紫色の光に包まれていた。
その中に、それは現れた。
犬のような四つ足のシルエット。だが、その身体は金属のような質感に覆われ、全身が機械とも有機ともつかない光沢を放っていた。燃えるような赤い瞳が、闇の中で爛々と輝く。
明らかに、地球の生態系には属さない“何か”だった。
「こちら天城。未確認の巨大生物を発見…応援を要請する!」
巡回中だった若い警官、天城勇太の声は、無線機の奥でかすかに震えていた。彼の視線の先で、あの異形の生物が静かに、だが確実に、こちらへと歩みを進めていた。
「こんな…バカな…。一体何なんだ、こいつは…」
天城は恐怖に突き動かされるように、ホルスターから拳銃を抜いた。構える腕が微かに震える。冷たい汗が、背中を伝うのがわかった。
「止まれ!これ以上近づくな!警察だ!」
鋭い声が夜の静寂を裂く。だが、次の瞬間、アンノウンの瞳が妖しく光った。それは、まるで人間の言葉に対する嘲笑のようだった。
「動くなって言ってるだろうが!」
その言葉に反応するように、アンノウンが地面を蹴った——。
「うわっ!」
一瞬で距離を詰めたアンノウンに、天城は反射的に引き金を引く。
パン!
乾いた銃声が響く。銃弾は確かに命中した。だが——
「はじかれた!?」
弾丸はまるで玩具のように弾き返され、地面に転がった。その瞬間、天城の全身に冷たい汗が流れ落ちる。
「う、嘘だろ?効かない…のか…?まずい…!何か手を…!」
焦りが喉を締めつけ、恐怖が足をすくませる。無線から何かが聞こえていたが、天城の耳にはもう届かない。
数発撃ち込んでも、結果は同じ。アンノウンは、彼の無力さを楽しむかのように、ゆっくりと迫ってくる。
必死に後ずさりする彼の背中が、金網フェンスにぶつかる——その瞬間だった。
ズバッ!!
赤い閃光と共に、アンノウンの爪が唸りを上げて振り下ろされた。
「ぐっ…うわぁあっ!!」
天城の胸を鋭い痛みが貫く。視界がぐにゃりと歪み、血の味が口内に広がる。力が抜け、彼の体は地面に崩れ落ちた。
「こんなところで……俺は……」
その最後の言葉を呟くと同時に、彼の意識は闇に呑まれた。
アンノウンは、動かなくなった彼の身体を一瞥し、音もなく夜の帳の中へと姿を消した——。
翌朝、天城勇太の殉職は警察署を通じて報告され、現場の映像と共に「未確認生物」の存在は、国内外のメディアを通じて広く知れ渡ることになる。
この事件こそが、地球に現れた最初のアンノウンの記録。
——そう、人類とアンノウンの戦いの始まりだった。
科学者たちと軍事関係者が慌ただしく動き出す中、ある驚愕の事実が浮かび上がる。
アンノウンは、この一体だけではなかった。
世界各地で、同時多発的に似た存在が姿を現し始めていた。
しかも、その12体すべてが、日本の「干支」に酷似した姿をしていたのだ。
未知の存在が、静かに人類へと牙を向く。
——これは、やがて「未確認戦線」と呼ばれる、人類史上最大の脅威との戦いの幕開けである。
出会いと覚醒
(数年後)
校庭の片隅。西日が長く影を伸ばし、夕焼け色の空が広がっていた。
制服のスカートの上に手を添え、静かに足を揃えたまま、じっとその光景を見つめていた。
「……まだやるのかな」
白崎莉奈は小さくつぶやく。彼女の視線の先では、天城大牙がひたすら木刀を振り続けていた。
大牙は明るくて誰にでも優しい、まさに頼れるリーダータイプの少年だ。けれど、頑張りすぎるところがあって、いつも無理をしてしまう。それを止めるのは、大抵いつも莉奈の役目だった。
「……もう暗くなってきたよ、大牙くん」
莉奈が遠慮がちに声をかけると、大牙は木刀を振る手を止め、振り返った。額には汗がにじみ、制服のシャツが少し汚れている。
「えっ、もうそんな時間?」
「うん。帰らないと……」
「あとちょっとだけ! もう少しで新しい型が掴めそうなんだ!」
「……さっきもそう言ってたよね?」
「うっ……!」
莉奈の言葉に、大牙は苦笑する。確かに彼は「あとちょっと」が口癖で、結局何時間も続けることが多い。
「でもさ、こうして鍛えておかないと、いざって時に守れないだろ?」
「……うん、でも無理しないでね」
「おう!ありがとな莉奈!片づけるからちょっと待っててくれ」
仲間たちと道具を片付けながら、大牙は莉奈に話しかけた。
「待たせちまったな。寒くなかったか?」
「ううん、大丈夫。でも…無理しすぎちゃだめだよ。」
「ははっ、心配性だな。けど、ありがとう。」
そんな会話を交わしながら、二人は校門を出る。莉奈は少し不安そうな表情で大牙を見上げた。
「大牙くんって、いつも前に出てるよね。怖くないの?」
「怖いさ。でも、守りたいものがあるからな。」
その言葉に、莉奈は少し驚いたような顔をした。けれど、それ以上何も言わず、そっと微笑むだけだった。
訓練を終えた大牙と莉奈が帰路についている途中、静かな住宅街の通りを歩いていた。遠くから、不気味な唸り声が聞こえてきた。
「…なんだ、この音?」
大牙が足を止め、耳を澄ませた。その時、暗闇の向こうから一対の赤い瞳が現れた。
ガシャッ…ガシャッ…
金属を引きずるような音と共に、姿を現したのはアンノウン「犬型」。その巨大な体躯は狼のような姿をしており、口元から鋭い牙が覗いている。体全体に光る鎖のような模様が絡みついており、咆哮とともに大気を震わせた。
「おい、あれ…アンノウンだ!」
莉奈が恐怖に声を震わせる。犬型アンノウンは二人に狙いを定めると、一歩一歩近づいてきた。
「莉奈、逃げろ!こいつは俺が食い止める!」
大牙は身を前に出し、莉奈を守るように立ちはだかった。
「でも…危ないよ!大牙くん!」
犬型アンノウンは咆哮を上げると、一気に跳躍し、大牙に襲いかかった。その鋭い爪が空を裂き、大牙はギリギリで身をかわしたが、地面に倒れ込む。
「くそっ…!」
大牙はその場で懸命に莉奈を守ろうとするが、アンノウンの圧倒的な力の前に何もできなかった。しかし、その瞬間、莉奈の中に眠っていた未知の力が覚醒する。
「お願い…助けて…!」
彼女の瞳が赤く輝き、周囲の空気が歪むような異常現象が起きた。アンノウンの動きが止まり、莉奈の手のひらから放たれた光がそれを弾き飛ばした。
「…何、これ?私が…やったの?」
「莉奈…!」
大牙が驚きの声を上げる中、莉奈はその場で力を使い果たし、倒れ込む。犬型アンノウンは倒れず、怯んだだけで再び立ち上がり咆哮を上げるが、その場を離れ、暗闇の中へと消えていった。
大牙はすぐさま莉奈のもとへ駆け寄り、彼女を背負った。
アンノウンが倒れると同時に莉奈は意識を失い、大牙は彼女を背負ってその場を離れる。
莉奈を背負いながら家路についた大牙。彼女の小さな体の重みを感じるたびに、彼の胸には悔しさが募った。
「俺…何もできなかった…」
莉奈があの異常な力でアンノウンを倒した一方で、自分はただ守られるだけだった。その事実が彼の心を強く締めつける。
「もっと…もっと鍛えないと…俺は弱い…こんなんじゃ、仲間も守れねぇ…」
莉奈を家に送り届けた後、大牙は一人で夜道を歩きながら、自分に足りないものを噛みしめた。
「次は絶対…絶対に守ってみせる…」
握りしめた拳に、彼の新たな決意が宿る。まだ眠れぬ夜が続くが、大牙はその中で静かに鍛錬を誓った。
やがて、その想いが彼の未来を大きく変えることになるのだった。
朝の通学路には、さわやかな風が吹いていた。まだ眠たそうに制服の襟を正しながら歩く生徒たち。
その中で、莉奈はどこか沈んだ表情で、とぼとぼと歩を進めていた。
(……昨日のこと、まだ気にしてる。ダメだな、私)
ほんのりと頬をふくらませながら、彼女がため息をつこうとした、その時だった。
――ブロロロ……
一台の黒塗りの高級車が、ぬるりと彼女の横に滑り寄ってきた。
「おっはよー、白崎莉奈ちゃーん♪」
開いた窓から顔を出したのは、黒スーツにサングラスという怪しさ満点の男。
その爽やかすぎる笑顔は、逆に不信感しか抱けないレベルで完成されていた。
「……誰ですか……?」
莉奈はガチ警戒モードで足を止めた。が、その男――久遠は、まったく動じる様子もなく車から降り立ち、シャキーンとポーズを決めた。
「どうもどうも!僕、“セクターG”の者です!」
「……は?どこですかそれ」
「ふっふっふ、それはね――」
サングラスをクイッと持ち上げ、キラリと光る目でウィンクを飛ばす。
「君の運命を変える、“スゴイとこ”さ」
(いや、完全に怪しいでしょコレ……)
内心ドン引きする莉奈だったが、相手のテンションがすごすぎて、なんとなく話を聞いてしまう。
「君、能力に目覚めただろ?そろそろ本格的な面談、必要だと思ってね」
「……いや、私そんな大した力なんて――」
「いやいやいやいや、あるある!センスの塊!スーパールーキー確定!」
久遠はグイグイと迫ってくる。やたら身振り手振りが大きい。
思わず後ずさる莉奈。そのときだった――
「ちょっと待ったああああああああああ!!」
とんでもない大声と共に、一台の自転車が突風のように突っ込んできた!
「おおっと、これは……?」
久遠がちらりと振り向いた瞬間、地面にタイヤを“ギギィィ”と滑らせて止まる自転車。
そして――
「莉奈ぁ!乗るな!そいつヤベーやつだ!!」
全力でペダルをこいできた少年、天城大牙が自転車から飛び降り、ズザァッと華麗なスライディング停止で久遠と莉奈の間に割り込む!
「なんだお前、ヒーローか」
久遠が笑いながら両手を挙げるが、大牙は完全にガチギレモードだった。
「テメェ、莉奈をどこに連れてこうとしてんだよ!!スーツのセンスが軽犯罪級だぞ!!」
「ひどいなぁ。こんな高級スーツなのに……」
「だまされるな莉奈!車に乗ったら帰ってこられねぇパターンのやつだ!!」
莉奈はあわあわしながら二人を見比べる。
「あ、あの……二人とも、ちょっと落ち着いて――」
が、その隙を突いて、久遠がサクッと莉奈を車内にIN!
「うぇええ!?ちょっ、今のずるっ!」
「それじゃ、また学校で会おうね〜!」
パタンとドアが閉まり、車は滑らかに発進。
だが――その背後から、再び大牙の怒号が響いた!
「待てコラァァァァァァァァ!!!」
車は滑らかに山道を登っていく。運転手は淡々とハンドルを操り、後部座席では久遠がサングラスを指でクイッと直しながら、のんびり脚を組んでいた。
「ふー、これで巻いたかな?さすがに自転車で追ってくるのは無理だよね〜」
ミラーを確認した運転手が軽く頷く。
「追跡者、確認できません。振り切りました」
「うんうん、やっぱ高校生にしてはがんばったけど、さすがにね」
そう言って久遠が口元を緩めた、その時だった。